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【第7話:かつての姿】

朝霧に煙る森の奥を、クロたち狩猟部隊は静かに進んでいた。

緊張と殺気。

普段の狩りとは明らかに違う空気が、全員の喉に重く張りついていた。


「人間はこの先の泉にいる。三人だ。奴らは、こちらにまだ気づいていないはず」


偵察に出ていたゴブリンが息を切らしながら報告する。


「……奇襲をかける。いいな?」


ガンジが低く呟くように言った。


(……人間、か)


クロの脳裏に浮かぶのは、街の喧騒、機械の音、ネオンの光。

あの日々は、もう何百年も昔のことのように感じられた。


だが、心の奥ではまだ「そちら側」に属しているという感覚が、確かに残っていた。



「おい、誰かいるぞ!」


「なんだ、ただのゴブリンか。雑魚だな」


その言葉が聞こえた瞬間、クロの背筋を冷たいものが走った。

——そうだ。

人間にとって、ゴブリンなどただの“経験値”にすぎない。

それは、ゲームでも現実でも変わらない。


「行くぞ、クロ!」


仲間が吠える。


が、その直後だった。


「《フレイム・ダート》!」


若い女の人間が詠唱とともに手を振る。

直後、赤い火球が一直線に飛び、ガンジの腹を撃ち抜いた。


「が……っ!」


爆音。

肉の焼ける匂い。

悲鳴。


それが合図のように、人間たちは矢を放ち、剣を振るった。


「く、くそっ!」


次々に倒れていくゴブリンたち。

群れていたはずの仲間は、気づけば半数が地に伏していた。


クロは、震える手で足を踏ん張った。


(戦える……スキルを使えば、奴らの目を眩ませ、喉を裂ける。俺なら……!)


■《感覚鋭化》:視覚と聴覚が極限まで研ぎ澄まされる。

■《跳躍強化》:一気に間合いを詰め、斬りつけられる距離だ。

■《毒爪》:一撃でも当てれば、相手は痺れる。


(……でも、俺は……)


クロの瞳に映ったのは、怯える少年ゴブリンが剣に貫かれる光景だった。

その悲鳴が、かつて自分が叫んだものと重なる。


「——ッ!」


足がすくむ。

喉が乾く。

心臓が怒鳴るように脈打つ。


(これは……ただの戦いじゃない)


自分が殺そうとしている相手は、かつての“自分”と何も変わらない。

だからこそ、手が動かない。

爪が振るえ、力が抜けていく。


(俺は……)


「クロ、下がれ!」


叫びとともに、仲間の一人が自分の前に躍り出た。

瞬間、何かが爆ぜ、炎が舞い、視界が真っ白になる。


クロは咄嗟に木陰に身を滑り込ませた。


走った。

森の奥へ。

無我夢中で、枝を払い、茂みを抜け、誰の声も届かない場所まで——


そして、崩れ落ちるように地に膝をついた。


(俺は……逃げた……)


自分でも、何が正しかったのかわからない。

ただ一つ確かなのは、自分は仲間を見捨てたということだけだった。


風が鳴る。

耳鳴りのように、遠い過去の声が木々の間をさまよう。


(……人間として死に、ゴブリンとして生まれた俺は、今——何者なんだ?)


「うおおおおおおおおお!!!!!!」


クロは叫んだ。

悲しみ、憎しみ、絶望……様々な感情が入り混じったその声は、森の中に永遠とこだました。



クロの問いに、誰も答える者はいなかった。



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