【第73話:選ばれし者たち】
巡礼騎士団の宿舎は、聖都の西翼に位置する。
外壁には神紋が刻まれ、昼夜を問わず祈りの音が絶えない場所。だが、そこは戦場に立つために鍛えられた者たちの砦でもあった。
広間に集められた数名の騎士たち。いずれも一国の指揮を任されるほどの実力者であり、精鋭の中の精鋭だった。
「――で、目標は異形の“クロナ”か」
そう呟いたのは、赤銅色の髪を乱雑に束ねた女騎士。名をカリナ=ファルステッド。
雷撃の魔術を自在に操る“雷迅の剣姫”として知られる人物である。
「力だけを見れば、下手な竜種より厄介だ。しかも、塔の封印に干渉し、記録外の存在と接触した。もはや黙認はできん」
淡々と応じたのは、黒衣の神官騎士――バルデン=ラザイル。
その表情は微動だにせず、祈るように胸の前で両手を組んでいた。
「で、総指揮は……」
カリナの視線が前方へ向かう。そこに立つのは、一人の若き騎士――レイヴン。
「……俺が務める」
静かだが、よく通る声だった。
年若くして指揮を担うことへの反発はある。だが、レイヴンの周囲には妙な“納得”が流れていた。それは彼が持つ特異な素質――
「“神秘適応者”の血筋か。確かに、記録外の存在に接触するなら、君ほど適任はいない」
バルデンの言葉にレイヴンは頷いた。
「クロナ。彼はただの脅威ではない。塔を揺るがすほどの力と、“言葉”を持っている。……ならば俺は、その“言葉”を聞く価値があると信じたい」
広間に一瞬、沈黙が落ちた。
だが、やがてカリナが笑った。
「……ま、いいさ。どうせぶつかるなら、“中身”を確かめてからでも遅くはない。私は私のやり方で確かめるだけさ」
巡礼騎士団、出撃。
目指すは北東の森、塔の周辺区域――“異形の拠点”。
一方そのころ。森の奥深く。
クロナたちの集落では、集会が開かれていた。
地面に引かれた円陣の中、クロナを囲むようにしてイエガン、ゼイド、ルーニら主要な面々が揃う。
「塔の力の余波……それを感じ取った者たちが、外の世界からやってくる。恐らく、次は人間の中でも選ばれた者たちだ」
イエガンが地図の上に指を落とす。森の境界線――南側の古道に目印をつけた。
「ここ数日、森の気配が変わった。風に“祈り”の香りが混じっている。……聖都のやつらだ。神殿騎士団か、それに類する部隊が近づいてる」
「巡礼騎士団だろうな」
ゼイドが静かに言った。
「世界の均衡を保つ“記録”の番人。……そんな連中がわざわざ動くってことは、クロナ、お前の存在がそれだけ大きくなったってことだ」
クロナは黙って頷いた。
その目は、まっすぐ森の南――まだ見ぬ“選ばれし者たち”が来るであろう方角を見据えていた。
「戦うつもりはない。だが、また“否定”されるなら、俺は……」
ふと、クロナの背後に風が舞った。
風と共に、ミナの声がよぎる気がした。
(――迷うな、クロ)
クロナはゆっくりと立ち上がる。
「……行こう。迎え撃つんじゃない。俺たちの“あり方”を、世界に示しに行くんだ」




