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【第6話:狩る者の進化】

——あれから数日が経った。


クロは狩りに出るたびに、自分の中の“変化”を実感していた。

最初はただの偶然だと思っていたスキルの取得。

だが、それが明らかに「戦った相手の能力を受け継ぐ」ものだと気づいてからは、意図して狩りを選ぶようになった。



《獲得スキル:跳躍強化(初級)》

《獲得スキル:毒耐性(微)》

《獲得スキル:夜目(強化)》

《獲得スキル:爪硬化(初級)》


倒したのは、牙の鋭いラット型モンスター“ファングラット”。

毒針を持つ“スティンガー”。

木の上から襲いかかる“リーフリザード”。


それぞれの戦いの中で、クロは自分の肉体が“変わっていく”のを感じていた。


(本当に……この力は俺だけのものだ)


戦えば戦うほど、己の中に蓄積されていく異質な力。

痛みと恐怖の中で、少しずつクロは戦いに慣れ、そして楽しみすら覚えるようになっていた。



「おい、クロ。お前、最近やけにキレがいいな」


帰還途中、ガンジが笑いながら肩を叩いてきた。


「こないだのスティンガー、あんなんひとりで仕留めるなんざ、なかなかできねえぞ」


「……慣れてきただけだよ」


「いや、それだけじゃねえな」


クロが少し目を細めると、ガンジはまじまじと彼の顔を覗き込んできた。


「目つき、変わったな。前はもっとぼやっとしてたのに、今じゃ夜でもしっかり見えてる感じするぞ」


「……そうか?」


「それに、その爪……。なんか固そうだな。まさかお前、変なモン喰ったんじゃねえだろうな?」


「はは、勘弁してくれよ」


苦笑いでごまかしつつ、クロは自分の手を見下ろした。


(……やっぱり、見た目にも変化が出てるのか)


爪は以前より黒く、硬質になっている。

瞳も、闇の中でわずかに金属的な光を帯びていた。


(スキルの影響が、身体にも現れている……)


それが良いことなのか、悪いことなのか、まだわからない。

だが、確実に自分は“元のゴブリン”とは異なってきているのだ。


「ま、強くなるのは悪いことじゃねえ。俺は楽しみにしてるぜ、クロ」


ガンジはそう言って歩き出し、クロも小さく頷いて後に続いた。




その夜。

焚き火のそばに集まった数匹の狩猟隊が、新たな遠征の指示を受けていた。


「次の狩り対象だが……」


長老格のゴブリンが、静かに口を開いた。


「“ニンゲン”が、この森に入ってきた」


その言葉に、一瞬、焚き火の音が遠のいた気がした。


「……は?」


クロの声が漏れる。


「人間、だと?」


「そうだ。武器を持っていた。多分、冒険者だろう。数は三。全員若い。だが油断は禁物だ」


ガンジが嬉しそうに笑う。


「へっ、面白えじゃねえか。いつかこうなるとは思ってた」


その輪の中で、クロだけが言葉を失っていた。


(人間——?)


まるで、遠い昔の夢を思い出すような感覚。

頭の奥で、ノイズのように響く記憶の断片。


ビルの明かり。

PCのキーボード。

疲れた体でコンビニに寄った夜のこと——


(俺は……人間だったんだ)


ゴブリンとして強くなったはずの自分が、その言葉一つで心臓を強く締めつけられる。


「クロ、聞いてんのか?」


「……あ、ああ」


「明日、出発だ。面白くなってきたぜ」


クロは小さく頷いたが、その目は焚き火を見つめたまま動かなかった。


(俺は、どうする……?)


初めての本当の選択が、目の前に迫っていた。

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