【第51話:共に歩む者たち】
朝靄の立ちこめる森の中。
戦の気配は消え、静けさが戻っていた。鳥のさえずりすら、新たな秩序を感じているかのように澄んでいる。
クロナのもとに、元来のゴブリンたちと、新たに膝を屈した獣人たちが集い、簡易の円陣が形成されていた。
「……まずは、森の奥へ移動しよう。ここでは、人間も、他の勢力にも見つかりやすい」
クロナの言葉に、ゴブリンたちは無言で頷き、獣人たちも静かに従う。もはやそこに、異なる種族の隔たりはなかった。
グラウスが進み出て、地図のような刻まれた板を広げる。
「この森の北東には、かつて我らの隠れ里があった。だが、今は朽ちて久しい……」
「ならば、再び生かそう。お前たちの誇りも、居場所も、俺たちと一緒に」
グラウスは、わずかに目を細め、頷いた。
「……命じてくれ。クロナ殿。我らの長は、もはや貴殿だ」
一瞬、静寂が落ちた。
だがすぐに、ティナがその場に歩み出る。
その背筋は真っすぐで、目に迷いはなかった。
「……私も、行かせてほしい」
クロナが目を向ける。ティナの表情は穏やかだが、奥底に強い光を宿していた。
「逃げるためじゃない。――見届けたいの。あなたが、この森でどんな世界を作るのか」
「……いいのか? まだ追われる身なんだぞ」
ティナは小さく笑った。
「自分が誰で、どんな立場で……何を選ぶか。ようやくわかった気がする。だからこそ、自分の足で立っていたい」
クロナは少しだけ驚いたような顔をし、それから静かに頷いた。
「じゃあ、責任を取ってもらうぜ。俺の隣に立つなら、危険も半端じゃない」
「望むところよ」
ふたりの視線が交差する。その一瞬、獣人たちやゴブリンたちもまた、息を呑んで見守った。
誰もが思った――この出会いが、何かを大きく変えるのだと。
◇ ◇ ◇
その夜。
森の奥へと移動した彼らは、朽ちかけた古い集落跡にたどり着く。
崩れた石壁、蔓に覆われた小屋。だがそこには、再生の余地があった。
「ここを……俺たちの新たな拠点にする」
クロナの宣言に、獣人とゴブリンの双方から、声なき賛同が広がっていく。
静かに、しかし確かに。
ひとつの「群れ」が、新たな未来へと歩み始めた。
その中央に立つのは、ひとりの魔物。
そして、彼と並ぶ少女――かつて“王族”として追われた存在。
まだ誰も知らない。
この地から、新たな“秩序”が生まれていくことを。




