【第48話:因縁】
「ぐあッ……!」
クロナの腹部にグラウスの大槍が浅く突き刺さる。
間一髪、根の防壁で直撃は防いだが、その衝撃は重くのしかかった。
「やはり、貴様は只者ではないな……。だが――王族を守る理由など、お前にあるのか?」
クロナは口元の血を拭い、重く、はっきりと答える。
「……理由なら、あるさ」
一歩、踏み出す。背中には仲間たち、傍らにはティナ。
「この世界じゃ、弱い奴はただ蹂躙される。理不尽に、意味もなく、ただ踏みにじられる。――俺は、それが許せねぇ」
クロナの目が、かつての自分を映していた。
「ティナがどう生きるかは、あいつが決める。だけどその自由すら、力で奪おうってんなら……俺が、叩き潰す。それだけだ」
静かに、しかし鋼のような決意を込めた声だった。
グラウスの眉がわずかに動く。
「――それが貴様ら“異形”の限界だ。だから我らは王族を守ってきた。力に溺れ、理を忘れた者を止めるために」
その言葉に、ティナの肩が揺れた。
グラウスは、視線をそらさずに彼女を見据える。
「……ティナ様。あなたは“失われた血”の生き残り。王家の誇りと責任を背負うべき者だ。なぜ、そのような者たちと行動を共にする?」
ティナは、迷うように俯いたまま口を開いた。
「……あたしには、王族としての誇りなんてない。ただ、殺されそうなときに助けてくれた人たちがいて……その恩を返したいだけ。それじゃ、駄目なの……?」
グラウスの瞳が細められる。
「情に流されてはなりませぬ。あなたが戻らなければ、我らは国を取り戻せません。……あの王家の“証”を、再び掲げる日は遠のきますぞ」
「“証”……?」
クロナが目を細めた。
「そうか。……お前らは、ティナを“道具”に戻す気か」
グラウスが何かを言いかけた瞬間、クロナは地を蹴った。
怒気を帯びた動き。だが、静かだった。
「だったら、ここで俺を殺してからにしろ。俺はあいつを“道具”になんて戻させねぇ。命令を聞くだけの、籠の中の獣なんかにさせるかよ」
その瞬間、地面が震え、クロナの背後に巨大な木の壁がせり上がった。
その枝のひとつが、グラウスの動きを封じようと絡みつく。
だが――老将は、動じない。
「ならば……この老体に、王家を継ぐ重みを教えてみせよ」
槍が唸り、再び戦場が火花を散らした。
一進一退。だが、時間はクロナに不利だった。
戦いの最中、ティナが拳を握りしめる。
(……自分のせいで、誰かが死ぬのは嫌。けど、戻れば……あたしはまた、“王家の道具”に――)
その目に、迷いが宿る。
獣人たちの包囲は狭まり、森全体が緊迫の空気に包まれていた。
(選ばなきゃ……! あたしが、どう生きたいのか――!)




