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【第43話:獣の影】

獣の気配が、森を満たしていた。

南と北――二方向から迫る気配に、ゴブリンたちの呼吸が自然と浅くなる。


「クロナ様、やはり包囲されています! 西と東、ほぼ同時に接近中……!」


斥候役のゴブリンが血相を変えて戻ってくる。

その背後では、武器を手にしたゴブリンたちが各自の配置に散っていく。


「舐めやがって……!」


クロナが唸るように言い、槍を肩に担ぎ直す。

その背には、ミナの残した“自然の力”を秘めた光の痕が、うっすらと浮かんでいた。


ティナは仲間の陰からその背中を見て、何か言いかけては、やめた。


――ドォン!


遠くで、木が弾け飛ぶような轟音が響いた。

その直後、西の林から数体の獣人が姿を現す。


「ずいぶん立派な集落じゃねぇか、ゴブリンの分際で」


皮肉を混ぜたような声。現れたのは、大柄な虎の獣人――金色の毛皮を持つ戦士だった。


「名乗る気はないが、俺は“狩り”に来ただけだ。獣は森に還れよ」


「それはこっちのセリフだ。帰るなら今のうちだぞ」


クロナは一歩前に出て言い放つ。

周囲にいるゴブリンたちが、沈黙の中で武器を構える。


その時、東からも獣人たちが現れた。

こちらは豹や狼、猿といった種族の混成部隊のようだった。


「ティナ。……知り合いか?」


クロナが短く問う。


ティナはゆっくりと首を横に振る。


「違う。でも、あの腕章……“朱月の牙”。あの部族が動いてるなんて……」


「つまり、強ぇってことだな」


「最悪、話は通じないと思って」


クロナは頷くと、鋭く叫んだ。


「全員、準備しろ!戦うぞ!」


獣人たちが、獣のような笑みを浮かべて突撃してきた。


それに応えるように、クロナが走る。


地面を蹴った瞬間、大地がたわみ、枝葉が風を巻き込んで炸裂する。

それは、自然の力を纏った“咆哮”だった。


「お前たちは、俺たちの森を――踏み荒らすなぁぁぁッ!!」


クロナの叫びが森に響く。

その叫びが合図となり、ゴブリンたちが一斉に応戦を開始した。


森の中で、精霊の加護を宿す者と、獣の牙を誇る戦士たちが、ついに激突する。


――これは、生存をかけた“群れ”の戦いだ。



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