表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/187

【第38話:召集者の影】

森に差し込む薄明かりの中、黒鉄の騎士――アクシオンの背後に現れたのは、一人の少女だった。


フードに隠された顔は幼く、だがその瞳は年齢に似つかわしくない深い光をたたえていた。


「私の名はレフィア。“召集者サモナー”と呼ばれているわ」


クロナは無言で剣を下ろし、その少女を見据える。


「……お前が、こいつを操っていたのか」


「操っていたわけじゃない。アクシオンは私の契約騎士。私は、異形の存在を観測し、対話するために遣わされた。戦うつもりはなかったけど……あなたの力を見て、判断が必要になった」


その言葉に、ロイクが声を荒げる。


「観測?対話?お前は一体、何者だ!」


「“塔”の者よ」


その一言に、ロイクたち騎士団の間にざわめきが走る。


「“塔”……って、まさか……!」


「そう。あなたたちが恐れる“観測塔”よ。精霊、魔素変異体、人外の存在すべてを記録し、保護し、あるいは――処分する」


クロナの表情がぴくりと動いた。


「つまり、俺を“観測”しに来たってことか」


レフィアは頷いた。


「あなたは“異形の因子”を持っている。人間でも魔物でもない。そして、精霊と共鳴し、その力を引き継いだ……」


クロナの瞳がわずかに細められる。


「俺は“誰かを守るため”に力を使ってきた。ただそれだけだ。だが……お前たちは、それすらも“排除対象”にするのか」


「それを決めるのは私じゃない。“塔”の上層部よ」


レフィアは少しだけ視線を逸らし、そして小さく息を吐いた。


「でも、私個人の意見としては……あなたに興味がある。理解したい。力の根源を、存在の在り方を。だから今は、戦いを望まない。少なくとも、今は」


沈黙が落ちる。


クロナは、静かにアクシオンに視線を送る。


黒鉄の仮面は無言だが、その気配には敵意はない。


「……それで?次に会う時は、“処分”か?」


「いいえ。もしあなたが“世界を害する存在”になるなら、その時は対処する。でも、そうでないなら……」


レフィアはふっと笑った。


「――きっと、“世界があなたを求める”」


その言葉を残し、少女はアクシオンを伴って森の奥へと姿を消した。


残されたクロナたちに、再び静寂が戻る。


「……“塔”の観測者か。あれが、俺たちを見張る目……」


クロナは空を仰ぎ、小さく息を吐いた。


(世界はもう、俺を放っておいてはくれない)


そう悟った瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ