【第38話:召集者の影】
森に差し込む薄明かりの中、黒鉄の騎士――アクシオンの背後に現れたのは、一人の少女だった。
フードに隠された顔は幼く、だがその瞳は年齢に似つかわしくない深い光をたたえていた。
「私の名はレフィア。“召集者”と呼ばれているわ」
クロナは無言で剣を下ろし、その少女を見据える。
「……お前が、こいつを操っていたのか」
「操っていたわけじゃない。アクシオンは私の契約騎士。私は、異形の存在を観測し、対話するために遣わされた。戦うつもりはなかったけど……あなたの力を見て、判断が必要になった」
その言葉に、ロイクが声を荒げる。
「観測?対話?お前は一体、何者だ!」
「“塔”の者よ」
その一言に、ロイクたち騎士団の間にざわめきが走る。
「“塔”……って、まさか……!」
「そう。あなたたちが恐れる“観測塔”よ。精霊、魔素変異体、人外の存在すべてを記録し、保護し、あるいは――処分する」
クロナの表情がぴくりと動いた。
「つまり、俺を“観測”しに来たってことか」
レフィアは頷いた。
「あなたは“異形の因子”を持っている。人間でも魔物でもない。そして、精霊と共鳴し、その力を引き継いだ……」
クロナの瞳がわずかに細められる。
「俺は“誰かを守るため”に力を使ってきた。ただそれだけだ。だが……お前たちは、それすらも“排除対象”にするのか」
「それを決めるのは私じゃない。“塔”の上層部よ」
レフィアは少しだけ視線を逸らし、そして小さく息を吐いた。
「でも、私個人の意見としては……あなたに興味がある。理解したい。力の根源を、存在の在り方を。だから今は、戦いを望まない。少なくとも、今は」
沈黙が落ちる。
クロナは、静かにアクシオンに視線を送る。
黒鉄の仮面は無言だが、その気配には敵意はない。
「……それで?次に会う時は、“処分”か?」
「いいえ。もしあなたが“世界を害する存在”になるなら、その時は対処する。でも、そうでないなら……」
レフィアはふっと笑った。
「――きっと、“世界があなたを求める”」
その言葉を残し、少女はアクシオンを伴って森の奥へと姿を消した。
残されたクロナたちに、再び静寂が戻る。
「……“塔”の観測者か。あれが、俺たちを見張る目……」
クロナは空を仰ぎ、小さく息を吐いた。
(世界はもう、俺を放っておいてはくれない)
そう悟った瞬間だった。




