【第316話:影を喰らう者】
鬼王が大地を蹴った。
砕けた地面が爆発のように弾け飛ぶ。
巨体とは思えない速度で魔王へと突進する。
その横を、黒い影が滑るように走った。
クロナだった。
影が地面から立ち上がり、無数の刃となって魔王へ襲いかかる。
同時に鬼王の拳が振り下ろされた。
挟撃。
普通の存在なら逃げ場はない。
だが魔王は動かなかった。
影の刃が身体を貫く。
鬼王の拳が直撃する。
轟音が響き、衝撃で周囲の岩壁が崩れ落ちた。
砂煙が広がる。
鬼王は拳を引きながら唸った。
「……手応えがねえな」
クロナの影が静かに揺れる。
次の瞬間、煙の奥から声がした。
「当然だ」
砂煙が割れた。
そこに立っていたのは、無傷の魔王だった。
影の刃は魔王の体を通り抜けている。
まるで幻を斬ったようだった。
鬼王の目が細くなる。
「本体じゃねえのか」
魔王の姿が揺らぐ。
その瞬間だった。
クロナの影が跳ねた。
「上だ」
鬼王が振り向く。
だが遅かった。
魔王が空から落ちてくる。
拳が振り下ろされた。
鬼王は腕を交差させて受け止める。
衝撃。
大地が沈む。
鬼王の膝が地面にめり込んだ。
「ぐっ……!」
骨が軋む音が響く。
魔王は視線を横に向けた。
「来ないのか、喰影王」
その言葉と同時に、影が膨れ上がる。
魔王の足元から巨大な影が噴き出した。
影の口が開く。
空間ごと飲み込むような闇だった。
魔王の身体が影に沈む。
だが次の瞬間、闇の内部で光が走った。
黒い影が弾け飛ぶ。
魔王が歩み出てくる。
その腕を、クロナが影の鎖で絡め取っていた。
「捕まえた」
低い声だった。
影の鎖が何重にも巻き付き、魔王の動きを封じる。
同時に鬼王が立ち上がる。
口元から血を拭った。
「やっと隙できたな」
鬼王の筋肉が膨れ上がる。
腕が引かれた。
大地がきしむ。
そして拳が放たれる。
その一撃は、先ほどまでとは比べ物にならない威力だった。
拳が魔王の顔面へ直撃する。
衝撃波が空気を裂いた。
山肌が崩れる。
地面に巨大な亀裂が走る。
しかし、鬼王の拳は止まっていた。
魔王の手が、拳を掴んでいた。
鎖に拘束されたまま。
片手で。
鬼王の目が見開かれる。
魔王は静かに言った。
「悪くない連携だ」
クロナの影がさらに締め上げる。
だが魔王の体から、黒い圧力が滲み出した。
影が軋む。
鎖が悲鳴を上げる。
魔王の瞳がゆっくりとクロナへ向いた。
「だが、その程度で我を縛れると思うな」
次の瞬間。
影の鎖が一斉に砕けた。
鬼王の体が吹き飛ばされる。
クロナの影が地面に叩きつけられた。
魔王の周囲の空間が歪む。
重力のような圧力が広がる。
鬼王が地面を削りながら止まった。
荒く息を吐く。
「……とんでもねえな」
クロナはゆっくり立ち上がった。
影が再び足元に集まる。
その目は魔王から逸れない。
魔王は二人を見渡した。
「まだ終わりではないだろう」
静かな声だった。
しかしその言葉には、底知れない圧力が込められていた。
鬼王が笑う。
クロナの影が広がる。
三つの怪物が、再び動き出そうとしていた。




