【第314話:喰影王の牙】
爆発した衝撃が戦場の中心から広がり、地面に幾筋もの亀裂を走らせた。
砕けた岩片が宙を舞い、遅れて暴風が吹き荒れる。
その暴風の中心で、黒い影が静かに立っていた。
クロナである。
その身体から溢れ出る黒い影の力は、まるで生き物のように地面を這い、周囲の空間を侵食していた。
喰界王の力をさらに深く呑み込み、今は喰影王として覚醒した力だ。
魔王はその様子をじっと見下ろしている。
巨大な体躯は一歩も退いていない。
「……貴様、ゴブリンだったな」
低い声が響く。
「そうだな」
クロナは肩を鳴らす。
口調に一切の敬意はない。
「ゴブリンだろうが何だろうが関係ねぇだろ」
魔王の瞳がわずかに細くなる。
「弱き種族がここまで這い上がるとは思わなかった」
黒い魔力が膨れ上がる。
その圧力だけで地面が沈み込んだ。
次の瞬間、魔王が踏み込む。
地面が爆ぜた。
巨体とは思えない速度で距離が消える。
振り下ろされた拳が、空間ごと叩き潰した。
クロナは身体を半歩ずらすだけでその軌道を外す。
衝撃が背後の山を砕いた。
「遅ぇな」
クロナが低く呟く。
同時に、影が走る。
地面を這っていた黒影が一斉に跳ね上がり、魔王の腕へ絡みついた。
影そのものが牙のように変形し、魔力を削り取っていく。
魔王の腕が僅かに止まる。
その瞬間、クロナは踏み込んだ。
刃が横薙ぎに走る。
黒い血が宙に散った。
魔王が初めて大きく後退する。
鬼王はその光景を見て歯を剥いた。
「効いてやがるじゃねぇか」
拳を握り直す。
魔王の視線が鬼王へ向いた。
「貴様もまだ動けるか」
鬼王は笑う。
「当たり前だろ」
「まだ殴り足りねぇ」
鬼王が地面を蹴る。
巨体が弾丸のように飛び込む。
拳が振り抜かれる。
魔王の腕と衝突し、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
空気が裂ける音が戦場全体に響いた。
鬼王の腕から血が噴く。
だが拳は止まらない。
さらに一歩踏み込み、もう一撃叩き込む。
魔王の体がわずかに揺れる。
その一瞬。
クロナはすでに動いていた。
影が膨れ上がる。
喰影王の力が周囲の闇を呑み込み、巨大な刃へ変わる。
クロナはその中心で刃を構えた。
「そろそろ終わりにするぞ」
影の刃が唸りを上げる。
魔王の瞳が細くなる。
「面白い」
その瞬間、魔王の魔力が爆発的に膨れ上がった。
黒雷のような魔力が周囲に広がり、影を弾き飛ばす。
鬼王が吹き飛ばされ、地面を転がる。
クロナも数メートル後退する。
しかし踏み止まる。
影が再び集まり、クロナの背後で巨大な翼のように広がった。
喰影王の力が、さらに濃くなる。
魔王はその姿を見て、初めて口元を歪めた。
「なるほど」
「それが貴様の王の力か」
クロナは刃を肩に担ぐ。
「王とかどうでもいい」
「喰うだけだ」
黒影が渦巻く。
魔王の魔力も同時に膨れ上がる。
二つの巨大な力が戦場の中心でぶつかり合おうとしていた。
鬼王が血を吐きながら立ち上がる。
拳を握り直し、再び構える。
王と魔王。
そして、その横で牙を剥く鬼王。
次の衝突は、これまでよりもさらに大きくなる。
空気が震え、空が軋む。
戦場の中心で、三つの影が同時に動いた。




