【第313話:王と王、その狭間】
戦場の中心で、空間が歪んでいた。
黒い奔流が天を裂き、その内側で二つの巨大な力がぶつかり合う。
魔王。
そしてクロナ。
その衝突の余波だけで、大地は波打ち、空気は軋み続けていた。
鬼王はその少し後方で、深く息を吐く。
体中の筋肉が軋み、握り締めた拳から血が滴っていた。
「……化け物め」
呟きは、自分自身への確認でもあった。
目の前で交差する力は、人の領域ではない。
それでも、ここで退くという選択肢は存在しない。
クロナの姿が黒炎の中から飛び出す。
魔王の腕が振り抜かれ、空間そのものが削り取られた。
その斬撃を、クロナは身体を捻るだけで回避する。
次の瞬間、彼の刃が魔王の肩へと叩き込まれた。
衝撃が爆ぜる。
だが、浅い。
魔王の巨体は僅かに揺れただけだった。
「その程度か、食影王」
低く、重い声。
魔王の瞳が赤く輝く。
次の瞬間、黒い魔力が爆発的に膨れ上がった。
地面が崩れ落ちる。
クロナの身体が弾き飛ばされ、数十メートル先の岩壁へ叩きつけられた。
だが、すぐに立ち上がる。
息は荒い。
それでも視線は揺れていない。
「……やはり強いな」
淡く吐き出す言葉。
それは恐怖ではなく、純粋な評価だった。
魔王はゆっくりと歩み出る。
その一歩だけで、大地が沈む。
「貴様は面白い。元はゴブリンでありながら、ここまで我に迫るとはな」
黒い魔力が渦巻き、周囲の岩石が浮き上がる。
だがクロナは構えを崩さない。
その背後で、鬼王が一歩踏み出した。
「クロナよ、時間は作る」
短い言葉。
クロナは視線だけで応える。
鬼王の筋肉が膨れ上がる。
次の瞬間、地面が爆ぜた。
鬼王が真正面から魔王へ突撃する。
拳が振り抜かれる。
空気が割れる。
魔王の腕がそれを受け止めた。
衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
「愚かな」
魔王の腕が押し返す。
だが鬼王は退かない。
むしろさらに踏み込む。
「クロナ!」
叫びと同時に、全力の拳を叩き込む。
魔王の身体がわずかに揺れた。
ほんの一瞬。
だが、それで十分だった。
その隙を、クロナは見逃さない。
地面を蹴る。
身体が黒炎を纏いながら加速する。
魔王の背後へ回り込み、刃を振り抜いた。
今度の一撃は深い。
黒い血が宙に散る。
魔王の瞳が細められる。
「……なるほど」
怒りではない。
興味だった。
魔王の魔力がさらに膨れ上がる。
空間が悲鳴を上げる。
その圧力の中で、クロナは静かに息を整えた。
仲間たちは戦い続けている。
イエガンは命を削って道を開いた。
ティナは速度の極限を超えて勝利を掴んだ。
ならば、自分が止まる理由はない。
クロナの瞳が鋭く光る。
「来いよ、魔王」
低く、静かな宣言。
「ここがお前の終点だ」
魔王が笑う。
その瞬間、世界が揺れた。
王と王の力が再び激突し、戦場の中心で巨大な爆発が巻き起こる。
その衝撃は遠くの戦場にまで届き、空を覆う雲をも吹き飛ばした。
戦いはまだ終わらない。
だが確実に、終わりへと近づいていた。




