表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

308/320

【第307話:欠けた王と、踏み込む影】

 黒が戦場を覆う。

 先ほどまでの閃光とは明らかに質が違う。

 ただ触れれば消えるという単純なものではない。


 空間の“結果”が先に決まり、そこへ存在したものが排除される。

 そんな理不尽が、この場のすべてを支配していた。


 クロナは影を薄く広げ、その動きを観察する。

 無秩序に見える黒は、実際には整っている。

 逃げる先、動く先、そのすべてに黒が“置かれる”。


 回避を前提にした動きほど、その先で消える。


「……逃げ場を潰してるだけか」


 鬼王が低く笑う。


「なら簡単だ。

 全部ぶち抜けばいい」


 踏み込む。

 一直線。

 躊躇はない。


 黒が展開されるよりも速く距離を詰める。

 しかし魔王の指がわずかに動いた瞬間、その進路に黒が生まれる。

 避けなければ終わる軌道。


 それでも鬼王は止まらない。


「止まってる暇なんざねぇだろうが」


 拳が振り抜かれる。

 クロナの影が横から滑り込み、黒を削る。

 完全には消せないが、一瞬だけ密度が落ちる。


 その隙間に鬼王が身体ごとねじ込む。

 黒に触れる。

 削れる。


 それでも止まらない。

 拳が魔王へ届く。

 衝撃が走り、空気が歪む。


 だがその直後、至近距離で黒が弾ける。

 回避は間に合わない。


 鬼王の左腕が、肘から先ごと消える。


 切断ではない。

 破壊でもない。

 ただ“無かったこと”になる。


 血も断面も存在せず、欠けた結果だけが残る。


「……なるほどな」


 鬼王は表情を崩さない。

 残った右腕を軽く握り、肩を鳴らす。


「痛みがない。本当にただ“なかったこと”になってやがる」


 クロナは一瞬だけ視線を向けるが、すぐに魔王へ戻す。

 影がわずかに揺れる。

 怒りではない。


 判断の速度が上がっただけだ。


「……下がれ」


 短く告げる。


 鬼王が笑う。


「誰に言ってやがる」


 止まらない。

 片腕を失ってなお踏み込む。

 むしろ重心が変わったことで加速している。


 黒が展開される。

 最短距離で突き抜ける。

 最小限の回避で通す。


 残った右腕で殴りつける。

 魔王が受ける。

 衝撃が広がる。


 その直後、再び黒が弾ける。

 クロナの影が前に出る。

 黒を受ける。


 削られる。

 影の一部が消える。

 それでも押し込む。


「……無茶しすぎだ」


 クロナが低く言う。


 鬼王は息を吐くように笑う。


「だから王なんだろうが」


 クロナは答えない。

 影を広げるのをやめ、ゆっくりと沈める。

 黒の表面ではなく、その奥へ触れるために。


 消される前に、“消えるという結果”に噛みつくために。


「……見えてきたな」


 黒は力ではない。

 結果だ。


 消えるという事象が先にあり、その通過として現れているだけ。

 ならば、その結果そのものに干渉すればいい。


 クロナが踏み出す。

 黒が走る。

 避けない。


 影を重ねる。

 触れた瞬間、削れる。

 それでも同時に喰らう。


 完全には取り込めないが、ほんの一瞬だけ“遅れる”。

 その遅れを利用し、さらに踏み込む。

 距離が詰まる。


 魔王の間合いへ入る。


 魔王の視線が変わる。

 初めて、明確に力を込める動作を見せる。

 指先ではない。


 腕全体が動く。

 空気が沈む。

 黒が一点に凝縮される。


 これまでとは違う。

 “当てる”ための一撃。


 クロナは構えない。

 影をさらに沈める。

 防ぐのではなく、喰らうために。


「……やっとか」


 鬼王の腕は消えた。

 それでも止まらなかった。


 なら、自分が止まる理由はない。


 黒が放たれる。

 これまでで最も濃く、最も深い閃光。

 クロナは一歩も引かない。


 影を解き放つ。

 正面からぶつかる。

 消されるより先に、喰らうために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ