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【第271話】夜を喰い破るもの

 決起集会が終わった直後だった。


 まだ空気には熱が残り、各部隊が配置確認や再編の最終調整に入っている、その最中――

 空が、不自然に静まり返った。


 風が止み、虫の声が消える。


 最初に異変を察知したのは、目部隊の哨戒兵だった。


「……上空、異常あり!」


 叫びが終わるより早く、夜空が裂けた。


 黒でも赤でもない、濁った闇。

 それが“穴”のように広がり、そこから何かが落ちてくる。


 ――魔族。


 数ではない。

 質だ。


 着地と同時に、大地が砕け、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。

 訓練平原の外縁、防衛線の一角が一瞬で吹き飛んだ。


「来たか……!」


 イエガンが即座に前に出る。


「牙部隊、迎撃! 爪部隊は後方下がれ、補給線を死守しろ!」


 命令が淀みなく飛ぶ。

 つい先ほどまで“想定”だった配置が、現実の戦場として一斉に動き出す。


 魔族の先陣は、異様な静けさを纏っていた。

 咆哮もなく、無駄な動きもない。


 ただ、踏み込んだ一歩で、防衛兵が三人吹き飛ばされる。


「チッ……小物じゃねぇぞ!」


 イエガンが斬りかかる。

 刃がぶつかった瞬間、火花が散り、腕に重い衝撃が返ってきた。


 ――硬い。


 いや、硬さ以上に“抵抗”がある。

 まるで、この世界そのものが敵に味方しているかのような感覚。


 一方、後方。


 クロナは、まだ動いていなかった。


 高台から戦場を見下ろし、ただ静かに状況を把握している。


「……速いな」


 侵攻は正面突破ではない。

 複数の地点に同時出現し、防衛網を引き裂く動き。


 そして何より――


「魔将級が混じっている」


 影が、足元でざわりと蠢いた。


 その瞬間。


 別方向の防衛線から、悲鳴が上がる。


「左翼、突破されます!」


 鬼族の混成部隊が迎撃に出るが、魔族の一体が腕を振るうだけで、数名がまとめて吹き飛ばされた。


 鬼族の将が歯を剥く。


「これが……魔族の本気か」


 空気が、重い。

 さっきまでの咆哮と熱気が、現実の暴力によって急速に削ぎ落とされていく。


 クロナは、ようやく一歩踏み出した。


「全軍、防衛優先。深追いはするな」


 声は低く、しかし揺るがない。


「これは様子見じゃない。――本戦の始まりだ」


 闇の裂け目は、まだ閉じていなかった。

 むしろ、ゆっくりと広がっている。


 魔族は告げている。


 ここから先は、逃げ場はないと。


 グリムファングと鬼族の初陣は、

 宣戦布告すら許されない形で幕を開けた。

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