表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

266/271

【第265話:王の格、退く魔影と折れぬ牙】

 城内に満ちた瘴気が、わずかに揺らいだ。


 魔将の動きが止まった、その一瞬を、クロナは見逃さなかった。


 「……分かったか」


 クロナが一歩、前に出る。


 ただそれだけで、床を這っていた影が一斉に立ち上がった。

 意思を持つように、魔将の逃げ道を塞ぎ、空間そのものを囲い込む。


 「これ以上、踏み込むなら――」


 影が、重なった。


 壁となり、刃となり、圧そのものとなって魔将へと叩きつけられる。


 ドン、と鈍い衝撃。


 魔将の身体が数歩分、押し戻された。


 「……っ」


 初めて、明確な動揺がその表情に浮かぶ。


 「力を測りに来たんだろ」


 クロナは淡々と言った。


 「なら、もう十分だ。

  ここから先は――“死ぬ側”になる」


 影が、さらに濃くなる。


 王座の間に満ちるそれは、もはや単なる能力ではない。

 領域。

 支配。


 魔将は舌打ちし、距離を取った。


 「……なるほど。

  確かに、喰影王だ」


 瘴気が収束し、身体が霧のように揺らぐ。


 「今回は退こう。

  目的は果たした」


 影が裂け、魔将の姿は闇の奥へと引き込まれていった。


 静寂が、戻る。


 だが――


 クロナの視線は、すでに城外へ向いていた。


 嫌な予感が、胸を刺す。


 次の瞬間。


 外から、重く響く衝撃音が届いた。


     ◇


 城外。


 地面は抉れ、血と土が混じり合っていた。


 イエガンは片膝をつき、荒く息を吐いている。


 目の前には、もう一体の魔将。

 こちらもまた、深く傷を負っていた。


 互いに、満身創痍。


 「……チッ……」


 イエガンは口の端から血を吐き捨て、斧を握り直す。


 魔将が嗤った。


 「見事だ、牙の将。

  だが――」


 次の瞬間、両者が同時に踏み込んだ。


 刃と魔力が激突する。


 轟音。


 そして――


 イエガンの身体が、後方へ吹き飛ばされた。


 地面を転がり、壁に叩きつけられる。


 「……が……っ」


 胸元には、深く抉られた傷。

 出血は激しく、立ち上がることも難しい。


 一方、魔将もまた膝をついていた。


 腹部を貫く裂傷。

 致命には至らないが、追撃は不可能。


 「……相打ち、か」


 魔将は低く呟き、後退する。


 「貴様の王に伝えろ。

  次は、戦争になる」


 瘴気が霧散し、その姿も消えた。


 残されたのは、倒れたイエガンだけだった。


     ◇


 駆けつけたクロナは、即座に状況を理解した。


 「イエガン」


 その声に、イエガンはかすかに笑う。


 「……申し訳……ありません……クロナ様……

  取り逃がし……ました……」


 「いい」


 クロナは短く言い、膝をつく。


 影が静かに広がり、止血と固定に回る。


 「役目は果たした。

  生きてる。それで十分だ」


 イエガンは目を閉じ、安堵したように息を吐いた。


 クロナは立ち上がり、空を見上げる。


 魔族は、もう一歩踏み込んできた。


 そして――


 王として、それを受け止める段階に入ったのだと、クロナははっきりと理解していた。


 戦いは、確実に次の局面へ進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ