表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

259/271

【第258話:鬼の報せ、迫る魔の影】

昼下がりの城内に、重たい足音が響いた。

 見張りの合図とともに開かれた門の向こうから、赤銅色の肌を持つ一団が現れる。


 鬼族の使者だった。


 武装はしているが、刃はすべて鞘に収められている。

 敵意ではなく、警戒と礼節。その両方を背負った姿だ。


 クロナは玉座から一段降り、真正面で彼らを迎えた。


 「遠路ご苦労。用件を聞こう」


 使者の先頭に立つ鬼族の男が、片膝をつく。


 「喰影王クロナ様。我らが王より、急ぎお伝えすべき件がございます」


 その言葉に、周囲の空気が引き締まる。


 鬼族が“急ぎ”と断る事態。

 それ自体が、ただ事ではない。


 「話せ」


 短い許可と同時に、男は顔を上げた。


 「魔族が、動き始めております」


 その一言で、予感は確信へと変わった。


 「境界近くに、見覚えのない拠点が確認されました。小規模ながら、瘴気の流れを固定する装置のようなものも見受けられます」


 ティナが静かに息を飲む。


 「固定……ということは」


 「はい。長期的な侵食を前提とした動きかと」


 鬼族の男は、さらに言葉を重ねた。


 「また、我らの領内でも、夜毎に影が濃くなる場所が増えております。獣が狂い、土地が痩せる兆しも出始めました」


 それは、グリムファングで起きている異変と、あまりにも似通っていた。


 イエガンが、低く唸る。


 「点じゃなく……線で繋がってきてやがるな」


 クロナは、ゆっくりと頷いた。


 「魔族は、一斉侵攻を狙ってるわけじゃねぇ。まずは世界そのものを“住みにくく”してる」


 喰らう前に、弱らせる。

 魔族らしいやり口だった。


 鬼族の使者は、一瞬言葉を選ぶように視線を伏せ、それから続ける。


 「我らが王は……貴国と限定的な情報交換を進めた判断は、正しかったと考えております。ただし……」


 「ただし?」


 「魔族の動きは、我らだけでは抑えきれぬ規模になりつつあります」


 沈黙が落ちた。


 それは、遠回しな問いかけでもあった。

 ――この先、どうするのか。


 クロナは、使者を真っ直ぐに見据える。


 「鬼王に伝えろ」


 声は低く、だが迷いはなかった。


 「グリムファングも、同じ状況だ。まだ軍を動かす段階じゃねぇが、情報は全て共有する」


 使者の目が、わずかに見開かれる。


 「そして」


 クロナは、続けた。


 「魔族が本気で牙を剥くなら……俺は、黙って守りに徹する王じゃねぇ」


 喰影王としての気配が、一瞬だけ場に滲む。


 鬼族の男は、深く頭を下げた。


 「必ず、お伝えいたします」


 使者たちが退いた後、玉座の間には静けさが戻った。


 だが、その静けさは嵐の前のものだ。


 ティナが、小さく言う。


 「……避けられませんね」


 「ああ」


 クロナは、窓の外を見た。


 まだ平穏な空。

 だが、その下で世界は確実に軋み始めている。


 「次は……魔族が何を仕掛けてくるかだ」


 王としての選択が、また一つ重みを増していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ