表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

257/271

【第256話:魔の爪痕、動き出す深層】

 異界に近い大地は、常に薄暗い。

 空は曇っているわけでもないのに光を拒み、地平線の向こうでは黒い靄がゆっくりと渦を巻いていた。


 そこに、かつては存在しなかった“塔”が立っている。


 岩と骨を無理矢理組み合わせたような不格好な構造物。

 だが、その表面を走る紋様は生き物の血管のように脈動し、確かに意思を持って呼吸していた。


 塔の根元、影よりも濃い闇の中で、数体の魔族が跪いていた。


 「……グリムファング……喰影王……」


 囁くような声が、空間を這う。

 それは一体の口から出たものではない。魔族たちの背後、塔そのものから滲み出る声だった。


 「影と喰らいを束ねる王……予想以上に、早く形を成したな」


 跪く魔族の一体が、頭をさらに低く下げる。


 「報告いたします。鬼族が接触。限定的交流を開始した模様。軍事的連携も視野に入れているかと」


 沈黙が落ちた。


 塔の脈動が、一拍、強くなる。


 「……鬼王め……老獪な」


 その声には、苛立ちと同時に、わずかな愉悦が混じっていた。


 「だが、好都合だ。まとめて叩く理由ができた」


 別の魔族が進み出る。


 「先遣の準備は整っております。外側の世界、境界付近に“種”はすでに配置済み。あとは刺激を与えれば――」


 「焦るな」


 声が、ぴたりと制した。


 「喰影王は、力を試される段階だ。小手調べ程度で終わらせては意味がない」


 塔の上部、裂け目のような開口部がゆっくりと開く。

 その奥に、赤黒く燃える“視線”が浮かび上がった。


 「鬼族。グリムファング。巡礼騎士団……」


 名を呼ぶたび、空間がわずかに歪む。


 「全てを同時に揺さぶれ。恐怖と混乱を撒け。王とは、守れぬものが増えた時に、真価が問われる」


 魔族たちは、一斉に頭を垂れた。


 「御意」


 次の瞬間、塔の周囲に複数の黒い裂け目が走る。

 それぞれが異なる方向へと口を開き、瘴気と共に魔の気配が流れ込んでいった。


 ――境界。

 ――交易路。

 ――人族と魔族の緩衝地帯。


 そのすべてが、同時に“侵食”を始める。






 一方、グリムファング。


 城の高台から、クロナは夜の空を見上げていた。

 風に乗って、微かな違和感が流れてくる。


 説明できない。

 だが、確かに“嫌な気配”だった。


 「……嫌な気配だ」


 誰に言うでもなく、クロナは呟く。


 喰界王として培った感覚。

 影の王の力がもたらす、世界の歪みへの反応。


 それらが、同時に胸の奥でざわついていた。


 まだ、戦端は開かれていない。

 だが、確実に――魔族は盤上に駒を置き始めている。


 クロナは、ゆっくりと拳を握った。


 「さて……どう動くか」


 王として。

 喰影王として。


 次に動くのは、こちらか、それとも――。


 夜は静かに広がりながら、確実に戦の匂いを孕み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ