表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/272

【第255話:鬼王の承認、迫る魔の潮】

 鬼王からの返答は、思いのほか早かった。


 グリムファング王城に設けられた応接の間。

 重厚な石造りの空間に、鬼族特有の威圧感をまとった使者が立ち、その背後には鬼王自身の気配が、まるで壁越しに伝わってくるかのように濃く漂っていた。


 「喰影王クロナ殿。貴殿の提案――限定的な交流と情報の共有。我が国は、これを受け入れる」


 低く、しかし明確な声だった。

 その言葉に、イエガンとティナはわずかに肩の力を抜く。


 クロナは玉座に座したまま、静かに頷いた。


 「話が早くて助かる。無駄な駆け引きは好きじゃねぇ」


 鬼王の口元が、僅かに吊り上がった。


 「それは、我も同じだ。だが――」


 その声音が、一段低くなる。


 「貴殿に伝えておくべき話がある。これは“交流”の一環として、だ」


 空気が、わずかに張り詰めた。


 「魔族が、動いている」


 その一言で、場の温度が変わる。


 ティナが息を呑み、イエガンの視線が鋭くなるのを、クロナは背後の気配で感じ取った。


 「表向きは静観を装っているが、我ら鬼族の辺境、そして異界に近い地で、小規模な侵食が始まっている。偵察、拠点構築、力の測定……いずれも、戦の前触れだ」


 鬼王の声には、誇張も焦りもなかった。

 それが事実であることを、逆に強く物語っている。


 クロナは、即座に答えなかった。


 魔族。

 それは、グリムファングにとっても無縁ではない存在だ。

 影の深層、異界の歪み――そのどれにも、魔族の影は絡んでいる。


 「……鬼族だけの問題じゃねぇな」


 ようやく、クロナはそう口にした。


 「無論だ」


 鬼王は即答する。


 「貴殿の国が台頭したことで、魔族は警戒を強めている。喰界王の力、影の王の力、その双方を束ねた存在を……放置するほど、あやつらは甘くない」


 その言葉に、クロナの胸の奥で何かが噛み合った。


 力を得た以上、見られる。

 王として立った以上、避けられない。


 クロナは、ゆっくりと立ち上がった。


 「……軍事提携の話」


 その一言に、場が静まり返る。


 「今すぐに結ぶとは言わねぇ。だが――魔族が相手なら、無視もできねぇ」


 イエガンが、わずかに目を見開いた。

 それが、クロナなりの譲歩であり、覚悟の表明であることを理解したからだ。


 鬼王は、満足そうに鼻を鳴らした。


 「良い。貴殿が“王の視点”で考えるなら、それでいい。我らは急がぬ。ただ、備えるだけだ」


 クロナは、鬼王を真っ直ぐに見据えた。


 「情報は共有する。交流も続ける。その上で――必要になった時、改めて話をしよう」


 「承知した、喰影王」


 その呼び名が、正式なものとして場に落ちる。


 王と王。

 力を知り、脅威を共有し、まだ完全には交わらない距離。


 だがその隙間を、魔族という“共通の敵”が、確実に埋め始めていた。


 クロナは胸中で、静かに息を吐いた。


 ――もう、国内だけを見ている段階じゃねぇな。


 喰影王としての責任は、確実に大陸全体へと広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ