表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/187

【第24話:誓いの夜】

――静寂。


それは、あまりに残酷な幕引きだった。

かつて笑い合った声も、差し伸べられた手も、今はもう届かない。


 


クロは膝をつき、月明かりの中で一人、血と涙に濡れていた。

自分の手に残る温もり。

それは、確かに彼女だったもの。


 


「……ミ゛ナ゛ァ゛……」


 


その名を呼んだ瞬間、クロの中で何かが弾けた。

感情が、記憶が、そして“力”が奔流のように体内を駆け巡る。


 


突如、クロの体を包む緑の光。

その光はただの魔力ではなかった。

森そのものの息吹。精霊の意思。ミナの想い。


 


その光の中で、クロの姿が変わっていく。

筋肉はしなやかに引き締まり、皮膚はより人に近く、しかし神秘的な翠の文様が全身を覆っていく。

瞳は深い緑に染まり、視界のすべてが“生きている”ように見えた。


 


「これは……俺の……」


 


草木がざわめき、空気が震える。

森が、彼に応えていた。


 


「自然が――答えてくれてる……?」


 


目の前にはリゼル。

未だ余力を残しながらも、予想外の変貌に警戒の色を強めていた。


 


「貴様……それは、精霊の力か……!」


 


クロは一歩、前に出る。

その瞬間――


 


「喰らえっ!!」


 


地を蹴ると同時に、彼の背後から巨大な樹木の根が咆哮のように躍り出た。

蛇のようにうねる蔦がリゼルの足元から飛び出し、動きを封じる。

空からは、鋭く尖った枝葉が槍のように降り注ぐ。


 


「逃がさねぇ……!」


 


リゼルが魔法で迎撃するも、クロの一撃は止まらない。

風が唸り、彼の手から放たれた一閃の“緑の刃”――それは、風と蔓の合成魔法のような自然の斬撃。


 


ズバァッッ!!


 


その刃がリゼルの肩を裂いた。


 


「ぐっ……このッ!」


 


「ミナの想いを、汚すなッ!!」


 


クロは吼えるように叫び、地面に手を突く。

その瞬間、地割れのように木の根がリゼルの足元を突き破り、巨大な拳のように打ち上げた。


 


リゼルの体が宙を舞い、木の幹に叩きつけられて崩れ落ちる。


 


それでも、クロは動かない。

とどめを刺す好機はあった――だが彼は、それを選ばなかった。


 


「……殺しても……ミナは、戻らない」


 


月明かりの中、静かにクロは立ち尽くす。

その瞳は、怒りでも悲しみでもない。

ただ、誓いを宿した者の目だった。


 

「貴様…やはり普通ではない…名を名乗れ…!」



 瀕死のリゼルの問いに、クロは一瞬、目を閉じた。


(昨日までの弱虫なクロはもういない…これからはミナと共に生きていく…!)


 そして、叫ぶ。



「――クロナだ! ミナの想いを継ぐ者として、俺はここに立つ!」



 その声が、森全体に響いた。

 風が唸り、大地がうねり、リゼルの足元を縛り上げるように草木が蠢いた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ