表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

226/271

【第225話:影の従属、揺るがぬ進軍】

 影の番人が従属し、静かに膝をついた余韻がまだ残る闇の広間。

 クロナは深く息を吐き、自分の胸奥で脈動する“影の王”の力を確かめるように手を握った。完全ではない。むしろ片鱗にすら届かない微量──しかし、それでも異質で強大な何かが確かにそこにある。


 ティナが一歩、クロナの横に寄った。


「クロナ様、意識はまだ安定していますか?」


「ああ……大丈夫だ。俺の意思の範囲内で収まってる。今のところ、な」


 軽く笑おうとしたが、完全には形にならなかった。

 ティナはその曖昧な揺れを読み取ったように、クロナの横顔をじっと見つめる。


「影の王の力は、魂の奥に干渉する類いのものです。片鱗とはいえ……油断は禁物です」


「分かってる。……だけど、使うしかない」


 その言葉に、ティナは小さく頷いた。

 “外側の世界”はただでさえ不安定で、状況は刻一刻と悪化している。立ち止まる余裕などない。


 遠くで、影の番人が新たに生まれた使命を静かに受け入れていた。

 以前とは異なる光──いや、暗さ──を宿した瞳がクロナへと向けられている。


「クロナ様、命令を」


 影の番人の低い声が響く。


「……前へ進む。次の層へ向かうぞ。案内できるな?」


「御意。影の王の眷属として、影道を開きましょう」


 影の番人は床に手を触れた。

 瞬間、黒い水面のような影が波紋を広げ、奥へ奥へと続く道が形成されていく。


 ティナが目を細める。


「異常……ですが、安定しています。影の王の力と、番人の影域が噛み合っているようです」


「都合がいいなら、そのまま使わせてもらう」


 クロナは歩みを進めようとしたが──

 足元の影がわずかに盛り上がり、まるでクロナに呼応して揺れた。

 見間違いではない。明確に“従う”動きだった。


「……今の、俺がやったのか?」


「はい。クロナ様の影が……少しだけ、王の形を取り戻しているのかもしれません。まだ危険域ではありませんが」


「危険域か……それは避けたいな」


 軽口を返しながらも、クロナの胸中には別の感覚があった。

 まるで影そのものが意思を持ち、クロナに寄り添うように動いている。

 召喚でも支配でもない。もっと根源的な──帰巣のような感覚。


 その正体が何であれ、今は進むことが優先だ。


「よし……行くぞ。ティナ、ついて来い」


「もちろんです、クロナ様」


 二人は影の番人が開いた“影道”へ足を踏み入れる。

 闇が波打ち、空間がねじれる。

 まるで世界そのものの裏側を歩いているような、不思議な浮遊感が身体を包む。


 ティナが声を潜める。


「影の番人が倒されたことで、ここを支配していた防壁の一つが消えています。深層へ近付いていますね……」


「なら次は、もっと厄介なやつが出てくるってことか」


「はい。それはもう、確実に」


 クロナは前方を見据えた。


 影の番人は従属した。

 影の王の力は“片鱗”とはいえ確かに目覚めつつある。


 だが──喜ぶにはまだ早い。


 この“外側の世界”の奥底には、もっと深い闇がいる。

 王を名乗ることを赦さないほどの深淵が。


「来いよ……お前が何であれ、俺は喰らって前へ進む」


 その呟きは静かだったが、

 影道そのものがわずかに共鳴し、黒い波紋が走った。


 クロナの歩みは止まらない。

 ティナもまた黙って隣を歩き続ける。


 そして──

 影道の先、黒い門のようなものが姿を見せ始めていた。


 深層の入口が、ついに開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ