【第223話:黒砂の衝突】
影の番人が大地を踏み鳴らした。
砂地が爆ぜ、黒い粒子が竜巻のように巻き上がる。外側世界の空間は安定せず、地面も空気も歪みに満ちている。
クロナはその乱れの中を突き抜けるように走った。
足元の影が、またわずかに跳ねる。
意思で動かしたわけではない。だが、今はその反応すら利用しない理由がなかった。
(…勝手に手伝うなら、その分叩き込むだけだ)
影の番人が三本の腕を同時に振り上げ、砂嵐の奥から襲いかかる。一本は横、一本は上から、もう一本は正面の刺突。
「クロナ様、来ます!」
ティナの声が背後から飛ぶ。
クロナは息を吐き、身体を沈めた。
そして――影がまた揺れた。足を押し出すように、もう一段階前へと加速させる。
横薙ぎの腕をすり抜け、上からの叩きつけを影の跳ねで流し、その勢いのまま真正面の突きを避ける。
その動きは、クロナ自身も追いきれないほど滑らかだった。
(……ちい、やはりまだ完全にはコントロールできないか)
だが、驚いている暇はない。
クロナは翼を広げ、低空で滑るように番人の胴体近くへ入り込んだ。
影の番人の黒い身体が波打つ。
内部で渦巻く影が鼓動のように震えていた。
クロナは拳を握った。
喰界王の力が骨の奥で脈動する。影の残滓がその力に反応し、拳の周りに黒い残像が揺れる。
イエガンが叫ぶ。
「クロナ様! 一気に畳みかけてくださいませ!」
「言われなくても――!」
クロナは飛び込む。
影が再び跳ね、身体を押し上げる。
拳が影の番人の胸――黒い中心部へ向かう。
その瞬間、番人の影が急激に収縮し、全ての腕が一点に向けて突き刺すように集まった。
まるで罠だ。
「……ッ!」
クロナは即座に影へと意識をむけた。
影の残滓が、一瞬だけ――クロナの背を押した。
予期せぬ速度が生まれ、番人の連撃を紙一重で抜け、そのまま拳が中心核へ迫る。
ドガンッ!!
黒砂が爆散し、影の番人の胴が大きくひしゃげた。
巨体が歪み、砂の群れのように崩れかける。
ティナが息を呑む。
「……効いています! クロナ様、影が攻撃の衝撃を増幅しています!」
「増幅……? 勝手な真似しやがって……!」
クロナはそう呟きながらも、口元はわずかに笑った。
腕の奥に確かに残る“重み”。
喰界王の力だけではない。影の王の残滓が、一瞬だけ拳に重ねられていた。
(……使えるなら使うだけだ)
影の番人が咆哮し、黒い砂の奔流を巻き起こす。
空気が爆ぜ、視界が砂の闇で覆われた。
クロナは翼を広げ、影を踏みしめる。
「――次で沈める」
影がクロナの背で揺れ、番人の影が地を割り、砂嵐が渦巻く。
決着の一手が、今まさにぶつかろうとしていた。




