表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

217/273

【第216話:外側の胎動、歪んだ空の下】

裂け目は、静かに揺れていた。


空間が終わりを迎えつつある中で、そこだけが異質な“出口”として形を保っている。黒く歪んだ縁取りは脈打ち、内側からはぬるい風のような気配が漏れ出していた。


クロナは、その前に立っていた。


黒翼はすでに畳まれている。だが、影は足元から離れていない。皮膚の下を流れる感覚のように、常に力が巡っていた。


背後で、空間が小さく崩れ落ちる音がした。


イエガンが、ようやく体勢を立て直していた。肩で息をしながらも、その視線は裂け目へと向けられている。


「……外……ですね……クロナ様……」


短い言葉にも、警戒が滲んでいた。


ティナはすでに歩み寄ってきていた。


影を引きずるようにではなく、影と並ぶように歩く。その足取りは静かで、無駄がなかった。


「……気配が……変わっています……内側とは……違う……重さです……」


クロナは裂け目に手を伸ばした。

触れた指先が、歪んだ空間にすり抜ける。水に触れたときのように、波紋が走り、空気が大きく揺れた。


次の瞬間、視界が反転した。

落ちるという感覚ではない。引き剥がされるような感覚でもなかった。ただ、景色そのものが裏返る。


クロナたちは“外”に出ていた。


空は、夜ではなかった。


だが、昼とも言えない。灰色の雲が幾重にも折り重なり、その隙間から淀んだ光が地上に落ちている。空そのものが、歪みに耐えきれず、引きつったように波打っていた。


足元は、乾いた大地だった。


だがひび割れた地面の奥底には、赤黒い脈が走っている。それはまるで、この世界そのものの血管のように蠢いていた。


クロナは、ゆっくりと息を吐いた。


胸の奥に残っていた圧迫感が、少しだけ薄れる。それでも違和感は消えなかった。この場所は“正常”ではない。


「……くせぇ空気だな」


低く呟いた。


イエガンは周囲を素早く見渡しながら、クロナの少し後ろに立つ。


「……戦場の……臭いです……クロナ様……」


ティナは、しゃがみ込み、地面に指先を触れた。


「……流れています……かなり……深いところで……」


風が、吹いた。


乾いた音を立てながら、黒い砂のようなものが舞い上がる。それはただの砂ではなく、砕けた“影”の破片のように見えた。


そして、遠くの大地が、盛り上がった。


最初は錯覚のようだった。だが次の瞬間、はっきりと“何か”が持ち上がっているのが見えた。


地面が割れ、黒い骨のようなものが突き出す。


それは一本ではなかった。

何本も、何本も。


まるで大地の内側から、巨大な肋骨が押し上げられているようだった。


クロナは、それを見て笑った。


「……なるほどな」


声には、わずかな高揚が混じっていた。


「……静かな世界ってのは……やっぱ嘘だったか」


大地の割れ目の奥。

そこから、何かが動き始めている。

外側の世界は、すでに目覚めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ