【第211話:黒核の咆哮、喰界の牙】
空気が、焼ける音を立てた。
クロナと“本体”の間で、見えない圧がぶつかり合い、床に無数のひびが走る。
黒核は脈打ち、心臓のように不規則に光を放っていた。
『……来るがいい……喰う牙……』
三本の腕が、同時に地面を叩く。
轟音。
床が砕け、破片が雨のように舞った。
「——だから、でかい音出すだけは通用しねぇって言ってんだろ」
クロナは踏み込んだ。
一歩で距離を詰め、地面を蹴り飛ばす。
黒翼が大きくうなり、身体が弾丸みたいに前へ飛んだ。
腕の奥が熱くなる。
喰界王の力が、血の中で暴れ出す。
「来いよ……本体!」
拳で来るかと思った瞬間。
“本体”の胴体が、不気味に開いた。
中心に黒核。
その周囲に、無数の“口”。
歯の並んだ影の口が、花みたいに咲く。
『……喰う……喰う……喰う……!』
闇の牙が、一斉に噛みついてきた。
バキィィン!!
クロナは空中で身をひねり、黒翼で弾く。
衝撃が腕に響くが、構わず突き進む。
歯の波を抜け、核の正面へ。
そして。
拳を握り締めた。
「俺は……」
腕に影を集める。
喰った力。
積み上げてきた力。
影も、闇も、血も。
全部、ここに集める。
「喰った力を……遊ばせる気はねぇんだよ!」
ドンッ!!
渾身の一撃が、黒核に叩き込まれた。
ひび割れる音。
光が、暴れる。
空間が、悲鳴を上げた。
『……グ……ォ……!』
“本体”の全身が震え、三本の腕が勝手に暴れ出す。
だが、まだ終わらない。
核は、まだ生きている。
その時だった。
背後から、澄んだ声が響く。
「……クロナ様……!」
ティナ。
振り返らなくてもわかる。
影が、彼女の足元でしっかりと地面に縫い止められている。
以前の、頼りない揺らぎはもうない。
ちゃんと、“彼女の影”だ。
イエガンの声も響いた。
「……どうか……無理はなさらぬよう……クロナ様……!」
クロナは、笑った。
「無理……?」
目の前の核を、強く睨む。
「ここからが本番だろ」
黒翼が、大きく広がる。
影が、俺の背中で咆哮を上げた。
空間が歪むほどの気配。
“本体”が、最後の抵抗のように、全身を黒く染め上げる。
『……来い……喰う王……』
クロナは、地面を蹴った。
空を裂く。
影が吠える。
拳を振り上げる。
「喰われるのは……」
黒核の目前。
瞳が紅く、深く光る。
「お前の方だ」
闇と闇が、真正面からぶつかり合った。
轟音は、世界の奥まで響き渡った。




