【第209話:黒い鼓動、喰らう決意】
ドクン……ドクン……
赤黒い“核”が、目の前で脈打っている。
まるで生き物の心臓だった。
空間そのものがうねるたび、クロナの足元がぐらつく。
「……生意気に、主張強ぇな」
クロナは小さく笑い、拳を握りしめた。
背後からティナの声が響く。
「クロナ様……お気をつけください。周囲の影が……集まり始めております」
イエガンも剣に力を込める。
「囲まれる前に……どうか、ご決断を」
核のまわりの壁が、ゆっくりと裂けた。
ズ……ズズズ……
そこから、黒い獣のような影が何体も這い出してくる。
牙をむき、よだれのように影を垂らしながら、こちらへ歩いてくる。
「……やっぱりな」
クロナは一歩前に出た。
「守られてるって顔だと思ったぜ」
最初の影獣が飛びかかってくる。
爪が空気を裂く音。
クロナは黒翼を大きく振るい、正面からぶつかった。
「邪魔するなぁぁぁ!!」
衝撃が空間を揺らす。
影獣の胴体がひしゃげ、霧のように散った。
だが——
次の獣、さらに次の獣が襲いかかる。
止まらない。逃げない。引かない。
クロナは歯を見せて笑った。
「……いいじゃねぇか」
身体の奥で、黒核が熱くなる。
胸の奥で、ドン、と音が鳴った気がした。
「全部……喰ってやる」
拳を地面に叩きつける。
ドンッ!!
床に広がる黒いひび。
影がクロナの影へと吸い込まれていく。
一体、また一体と……吸い込まれていく。
ティナが息を呑む。
「……影が……消えて……」
イエガンが低く呟く。
「……喰界王の力……」
だが、その瞬間。
核が大きく脈打った。
ドクン……ドクン……!
空間が震え、影が逆流する。
床から、巨大な“腕”が伸びてきた。
柱のように太く、天井へ伸びるほどの大きさ。
その先には——
ひび割れた“顔”。
『……来るか……喰う牙よ……』
低く、重たい声。
クロナはゆっくりと顔を上げる。
「……来てやったぞ」
黒翼を大きく広げる。
足元の影が、ざわりと騒いだ。
「覚悟しろよ……“本体”」
核の鼓動が、さらに激しくなった。
空間が叫ぶ。
影がうねる。
戦いは、もう逃げ場のない場所まで来ていた。




