【第197話:胎の門、赤い脈動】
胎へ繋がる通路は、まるで心臓の中を歩いているようだった。
足元から、赤い脈がじわりと広がり、壁の奥へ消えていく。
それは血流ではなく「敵の体内の信号」。
ここ全体が、本体と繋がる“胎の管”になっている。
クロナは黒翼を広げる代わりに、歩幅を整えて拳へ力を込めた。
ここでは無駄な翼展開は逆に存在を触れ込ませる。
観測を加速させるだけだ。
「……これ以上、学習されるのは避けたい」
ティナが周囲の脈を慎重に観察しながら答える。
「この胎動……向こう側の“本体”と連動しているはずです。
本体は、こちらの刺激すべてを材料としているのだと思います、クロナ様」
イエガンは静かに前へ出る。
「クロナ様。前方の空気の密度が変化しております。
門が近いかと」
赤い脈が一点に収束する。
そこに、薄く膜のように張り付いた黒い壁が揺らいでいる。
黒い“門”だ。
しかしそれは閉ざされているわけではない。
あちら側が「まだ開く必要を感じていない」だけだ。
クロナは拳を構え、黒核へ意識を向ける。
黒核が応えるように脈動し、濃い黒が拳へ集束する。
「……これを割る」
一瞬、赤い脈がざわついた。
まるで門の向こうが「抵抗」を示したかのような反応。
クロナは迷わない。
拳を真っ直ぐに突き出した。
鈍い破裂音とも爆音ともつかない衝撃が走り、赤黒い膜が波打つ。
そして――静かにひび割れた。
ティナが息を呑む。
「今の一撃……向こうへ届きました」
イエガンもわずかに気配を固くする。
「クロナ様。この先は、後戻りできません」
クロナは一歩踏み出した。
「元から戻る気なんてない。
ここを抜ければ──“本体”の正体が見える」
ひび割れはそのまま扉の線となり、ゆっくりと裂け開いていく。
奥から、赤い息吹が漏れた。
それは熱ではなく、強烈な「存在」。
向こう側で、何か巨大なものが形になろうとしている気配だった。
クロナは黒翼を少しだけ広げた。
「行くぞ。決着をつける」
赤い脈動の門をくぐり、三人は胎の奥へ足を踏み入れた。




