【第196話:黒い観測者と、胎の懸け橋】
川底の奥へ続く黒い通路は、空気さえも押し返すような重さを持っていた。
歩くたび、足音が吸い込まれて消える。
生きている“腹の中”に踏み込んでいるような感覚だった。
クロナは黒核の脈を感じながら進む。
「……ここは、影そのものじゃない。何かを組むための場所だ」
ティナが息を潜め、慎重に言葉を重ねる。
「これほどまでに形を持たない空間……通常の影世界の構造ではありません」
イエガンは静かに頷いた。
「クロナ様。先行して偵察を行うべきなのでしょうか」
クロナは軽く首を振った。
「いや。これは……罠だ。俺たちの動きを記録して、学ぶための」
その瞬間、通路の先で“揺れ”が走った。
黒い海のような影が、壁から滲み出るように形を作り始める。
歪む輪郭。ぼやけた人型。
だがその動きは──妙なほど流れるように滑らかだった。
一体。二体。三体。
クロナ達の前へ、静かに揃って立った。
ティナが目を細める。
「動きの癖が……私たちの戦い方に似ています」
「観て、覚えて、形にしてるんだろうな」
クロナは深く息を吸い、黒翼を広げた。
敵はまだ幼体の延長。
本体へ繋ぐ“観測者”。
ここで時間をかければかけるほど、本体は学習し、強くなる。
ならば──
速攻で潰す。
クロナは黒翼を一閃。
黒い衝撃が影の人型へまとめて叩き込まれ、影肉は一気に霧散した。
「……今の段階ならまだ間に合う。急いで奥へ行くぞ」
ティナが頷き、小走りで追う。
「本体は、この先の“胎”で繋がるのですね」
「そうだ。向こうから流れてる力が分かる。
多分……これが本物への橋だ」
通路の奥。
微かに赤く光る、鼓動のような音が混じる空間があった。
胎動。
生まれかけの闇。
本体はここで“準備”している。
この先こそが、喰うべき敵の核だ。
クロナは黒翼を畳み、拳を握った。
「行くぞ。ここを突破する」




