【第195話:黒核の案内、川底の門】
西の川は、夜の冷たい光を映していた。
クロナは川辺に降り立ち、水面にそっと手を触れた。
黒核が脈打つ。
川底のもっと奥……“底の下”に、気配が沈んでいる。
「……ここだ」
ティナが横で息を呑む。
「川底に“門”があるというのですか」
「正確には……川底そのものが『蓋』になってる。隠すための蓋だ」
イエガンは河原の石を蹴り飛ばした。
「臆病なやつほどこういう場所に潜る。閉じたまま外を見張る。そういうタイプだな」
クロナはゆっくり立ち上がり、黒翼を広げる。
黒核に意識を集中させると、脈動が水面に触れ、微かな色の揺らぎが走る。
その揺らぎは、渦のような模様に形を変え――
川底の石が、一枚ずつ外へ押し出されるようにずれていく。
まるで巨大な鍵が開いていくように。
「……見えた」
クロナは低く呟いた。
そこには、黒く縦に裂けた穴があった。
水の下ではない。
川の“内側”のさらに奥へ向かう、異様な暗い通路。
ティナは慎重にクロナへ視線を向ける。
「クロナ様。この先には……従来の影とは違う、異質な匂いがあります」
「わかってる。幼体を喰った時、少しだけ感じた。
あいつら自身が“素材”みたいな作りの存在だ。俺たちとは違う」
イエガンは剣を背へ戻した。
「戻れない道なら、なおさら行く。
群れを守る牙は、主人の背中にあるもんだ」
クロナは薄く笑い、翼をたたんだ。
そして通路へ足を踏み入れる。
薄暗い道は、川の水音がどんどん消えていき、
ただ、低い重い呼吸のような響きだけが残っていく。
黒核が静かに脈動し続ける。
ここから先は伺われている。
こちらの癖も、戦い方も、全部“観察”されながら進む道だ。
だが――
それでも進む。
「行こう。ここから本物の勝負だ」
クロナの言葉と共に、
黒い通路はさらに深く、その奥へ続いていった。




