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第9話 激闘! Sランクゴミ屋敷VSドラゴン系女子!

 一体……、これはどういう事だ……!

 私は今何をみさせられているんだ……!?

 脱いだコートに外したマントに小手、いくつも壁に立てかけられた剣に杖に弓は端っこに泥がついたままのものまである。

 玄関脇にすぐ近くにある部屋の扉は開きっぱなしで部屋の中から脱ぎっぱなしで床に投げ出された鎧の一部が見え隠れしている。

 どうしてこんなことになってるのか察するのは簡単だ。

 家に帰ってきて重い物はとりあえず玄関に投げ出してみんな部屋に戻っているのだろう。

 まぁ、よく考えたら、十二歳の子供四人だけで暮らしてたらそういう事にはなりそうだけど……!

 でも、仮にもSランクの超強い冒険者なんだよ……!?

 それが私生活だけ年相応なんてことあるの……!?

 スィアは持っていた剣と盾を新たに壁に立てかけた後、靴をスリッパに履き替えると散らかった廊下をずんずんと進んでいく。


「空いてる部屋に案内する。ついてきて」


 奥へと進むスィアの足取りには一切の躊躇がない。

 つまり、目の前に広がるこの光景は日常的にこの状態なんだ。

 つまり……、この家の奥の状況も察するに余りありまくりまくる。

 え、これやっぱり私は宿屋に帰るべき……!?

 いや、ムリムリ! あんなボッタクリ宿屋に帰れるわけない!

 っていうか、ここまできて家が散らかってるから帰るね、なんてせっかく招待してくれた子供に向かって言えないよ! いくらスィアが無表情でも傷つきそうだもん!

 あぁ、女神様! この状況って一体どうしたらいいんですか? 全知全能ならこういう時の対処法も御存知なんですか?

 そんな事を考えている間にシーフさんと魔法使いさんはサッと私の前に出て持ってきた荷物を玄関へと置いた。


「じゃ、じゃあ、私と魔法使いは荷物おいたから帰るねー! またねー、ホルス! 頑張ってー!」

「そ、そうだね、長居しても悪いしー! じゃあねー、ホルス! うまくやってねー!」

「あっ! ちょ、二人ともー! 逃げないでー!」


 二人は滅茶苦茶な早口でそれだけ言うと大急ぎでどこかへと消えていった。

 こんな状況で私一人だけ残していくなんてひどくない!?

 私の事を一日中町を探し回ってくれた友情はどこに消えてしまったの!?

 帰ってきてー! 私の友達ー! こんな状況で私を一人にしないでー!

 

「ホルスー。こっちだよー」


 奥からスィアが呼ぶ声がする。

 あーもう! もうここで戸惑っていてもどうしようもない! とにかく行くしかない!

 散らかった廊下の間をそろそろと通ってスィアの声のする方向へ行く。

 廊下を抜けた先に広がっていたのは二階まで吹き抜けになった広いエントランスホールだった。

 真ん中には2回までつながる大きな螺旋階段があり、左右には大扉、そして奥にはさらに長い廊下が続いていた。

 部屋の中には人間と同じくらい大きな猫やら犬やらのぬいぐるみがいくつも並び、それと同じくらいの大きさの見たこともない何かの生物に牙?に恐ろしい形相の狼に角を生やしたような、おそらく魔物の剥製などがあちこちに置かれている。

 置かれているものはまだまだあり、子供どころか大人四人で寝っ転がっても余裕で乗りそうな大きなクッションからお尻に敷くような小さな物まで大小様々なクッションがあちらこちらに飛び散らかっている。

 クッションの下にはさらに小さい人形やら本やらよく分からない玩具のような物などが様々に転がっていて、しかも、お菓子でも食べながら遊んでいたのかクッキーのようなカスがところどころ散らばっていた。

 広いエントランス全体がまるで子供部屋……! こんな環境で一体どうして暮らして行けているの!? 誰か一人ぐらい片付けた方がいいかなとか感じないの!?


「ホルス、こっち」


 二階の手摺から顔を出したスィアが呼びかけられて、足下を確認しながらゆっくりと階段へ向かう。

 段差に座らされたぬいぐるみたちを踏んづけないように気をつけて登りながらスィアの下へとたどり着いた。

 二階の構造も一回と同じように大扉がそれぞれ二つと奥へと長い廊下が続いており、そして散らかり具合もまた同じようであった。

 予想通りの状態について言葉すらでてこない。


「奥の部屋はどこも空いてるから好きな部屋つかっていい」


 スィアが奥へ進む廊下へと向かうのでその後ろについて行く。

 廊下の片側は窓でもう片側は壁となっていて、その先には扉がいくつも続いている。

 あっちには服がちらかり、こっちには人形がちらかり、向こうには武具に本、一体どこまでこの状態が続いているのか。

 大人のいない状況で子供とはここまで家を散らかせるなんて思わなかったよ!

 お金もあって力もあってなぜ生活能力だけこんなに低いままなんですか!

 女神様! 能力値が極端すぎます! もっとみんな平均になるように祝福してあげてください!

 などと、思っていたのも束の間で、部屋を通り過ぎる度に廊下の散らかり具合は徐々に落ち着きを見せていき、最初の場所から遠ざかるほどに物は少なくなっていった。

 四つ目の扉を過ぎる頃には廊下に散らばったものはほとんどなくなり、そこから先には窓から光が差し込む整然とした長い廊下と沢山の扉が続くだけだった。


「私達が使ってるのは最初の四部屋だけで、奥の部屋は誰も使ってない」


 スィアは五番目の部屋で立ち止まるとそこで扉を開ける。

 開けて貰った扉から中を見ると、そこには大きめのベッドに一人掛けのソファー、化粧台にテーブル、クローゼット等の一通りの家具が揃えられた部屋だった。

 家具は使用感がまったく見受けられるキレイな物で、部屋の隅に多少埃がたまっている程度で、先ほどまでに比べたら随分と綺麗な状態の部屋だった。

 あれ……? なんだか思ってたよりも随分キレイな部屋……? それに家具まで揃ってるし、なんでこの部屋だけこんなに綺麗なんだろう?


「スィア? 一体この部屋って何?」

「誰か来たら泊まっていけるように用意した客間。ここから向こうの角まで全部客間」

「えぇ、そんなに沢山!? 普段からこの家にそんなに人が来るの!?」

「ううん、誰も使ったことない。ホルスとアイサが初めて」


 えぇー! いや、使ってないって! 誰も使ってないのにどうしてそんなに用意しちゃったの! 

 ここから向こうの角まで全部って軽く五、六部屋はあるのに全部使ってないってこと!?

 しかもベッドもクローゼットもソファーもみんな用意して誰も使ってないって!

 ちょっとお金の使い方もド派手に子供過ぎない!?

 隣にいたスィアはこちらの顔を見あげてポツポツと話し始める。


「初めてこの家を買った時に、みんなで友達が遊びに来てもいいようにって沢山用意した。けど結局それっきり誰も遊びに来たことなんてなかったから、この部屋を使うのはホルスとアイサが初めて。だから、ホルスの好きに使ってほしい」


 いつも無表情のスィアの瞳がなんだかちょっぴり期待と興奮でキラキラと輝いてる気がする。

 それを見てなんだかさっきまでの自分がちょっぴり申し訳なくなってきた。

 そんなかわいい理由があるなら先に言ってよ! 心がキュッて切なくなっちゃったよ!

 こんな子供の表情みちゃったら、とてもじゃないけど厳しいことなんて言えない!

 部屋が散らかってるぐらい何さ! 子供四人で元気に楽しく暮らしてるいい証拠じゃないか! そんなのちっとも気にすることじゃないよ!

 

「スィア、案内してくれてありがとう! この部屋は大事に使わせてもらうね!」

「うん。ホルスの好きに使って。ずっと使ってくれてもいい」


 相変わらず表情の変わらないスィアだが、心なしか少しだけ口元が綻んだ気がする。

 なんて可愛いんだろう! Sランクだなんて言ってもまだまだ内面は年相応の子供なんだ!

 あぁ、女神様! どうかこの子達が幸せになれるように見守ってあげていてくださいね!

 その瞬間、頭の中にハッと女神様から天啓がもたらされた!

 

「ホントにありがとう、スィア! こんなに素敵な家に泊めてくれてホントに嬉しい! それで、せっかくだから私から一つ提案があるの!」

「ん? なに、ホルス?」


 そう! この子たちどれだけ強くてもまだ子供! 子供には教え導く大人の存在が必要! そしてこの家にいる大人は私一人!

 スィア達を教え導く大人として、私が今この場で出来る事はただ一つ!


「それでね、スィア。これからアイサちゃんたちもこの家に帰ってきて歓迎会をするじゃない?」

「うん。楽しみ」

「うん、そうだね! それでね、スィア。せっかく歓迎会をするならキレイな家でした方がもっといいお祝いになると思うの!」

「うん。そう、だね」

「だからね、スィア。私と一緒にこれからこの家の掃除をしましょう!」


 スィアの無表情から感情が消えて視線がそっぽ向いた。

 んー? こんな表情初めて見たぞー? スィアちゃんはお掃除嫌いなのかなー?

 腰を落としてしっかりとスィアと目線を合わせて話を続ける。


「今からじゃ、間に合わない、かも……」

「じゃあ出来るところまでやろう! とりあえず玄関とエントランス、それからお祝いにつかう部屋も掃除したいね! 大丈夫! 私、孤児院でもたくさん掃除してきたからこういうのは得意なの!」

「えっと、ルイダとか、チアツィの物とか、一杯あるし……」

「カゴか袋はある? 散らかってる物を一旦まとめてとりあえず見えるところからキレイにしていこうか! キレイにしたらもっと楽しくお祝い出来るよ? 楽しみだね!」

「……汚くても私達は死なないから」

「ううん! 死ぬよ! 人間性が! 人はね、人間性が死んだらただの獣になるの! だから一緒に片付けよう! いいね、スィア!」


 やさしーい笑顔でスィアの肩をガッシリ掴んで、しっかりとその目を見て伝える。

 スィアの大きな目が少しの間キョロキョロと動き回った後こちらを見つめ返す。かわいい。


「……わ、わかった。手伝う」

「ありがとう、スィア! スィアは本当に、本当に偉いね!」


 スィアの頭をヨシヨシと沢山撫でておく。

 よし! こうと決まれば早速取り掛からないと! まず現状把握からだね! アイサちゃんが来る前に使う部屋だけでもキレイにしなくちゃ!

 

「それじゃあ、さっそく一階から片付けていこう! お部屋を案内して、スィア!」


 スィアの頭から手を離して離れようとすると、その手をスィアに掴まれた。


「あ」

「どうかした? スィア」

「……ん。なんでもない。案内する」


 スィアはすぐに手を離すと速足で一階へと向かっていった。

 なんだ! すごいやる気だしちゃって! やっぱり正面から向き合ってちゃんと話をすれば子供にもちゃんと伝わるんだね!

 持っていた荷物だけその場において、すぐにその後を追いかける。

 エントランスの二階へと戻り螺旋階段を下りて一階へと戻ってくる。

 エントランスには先程見た通りのぬいぐるみによくわからないオブジェにクッション他、様々な物が溢れている。

 これ以外にもまだ玄関に武器と服と色々あるし、さて、どうしたものか……。

 先に待っていたスィアはこちらの視線に気づいて指をさしながら説明してくれる。


「ぬいぐるみとクッションはルイダが好きで集めてる。剥製はチアツィがお店で気に入って買ってきた。向こうのドラゴンの牙は私達が初めて討伐したヤツのを加工して作ってもらった」

「うんうん。スィア、とりあえずクッションと服が入るカゴか何かたくさん持ってきてもらえる? まずは玄関の服と小さいクッションをまとめちゃおうか」

「うん、わかった。すぐに持ってくる」


 そう言うとスィアはすぐに奥の廊下へと探しに向かってくれる。

 とりあえず誰か来ても見られる程度には片付けたいよね。

 シーフさんと魔法使いさんみたいに入口でアイサちゃんに帰られたら大変だしね。

 エントランスの小物はカゴにまとめていって、大きい物はとりあえず四隅にまとめていこう。

 それから玄関へと向かう。

 置かれた武具と服と靴の山を一瞥し、半開きの扉から鎧をのぞかせていた玄関の隣の部屋を開けてみる。

 縦長の両側に天井までの棚のある部屋で中には玄関と同じように様々な外套や鎧、剣や盾等の武具があり、そして棚の一番奥側には埃の被った靴が置いてある。

 とりあえず廊下にあるものを入れても少しは余裕がありそうなので、全部ここに押し込んでしまうことにしよう。

 玄関に戻るとエントランスに戻ってきていたスィアがこちらに気づいた。

 その両手にいっぱいのカゴを抱えて、スィアはこちらまで持ってきてくれる。


「持ってきたよ、ホルス」

「ありがとう、スィア! スィア、この辺りに置いてある剣とかってこの部屋にしまっても大丈夫?」

「うん。ホントは靴を置く部屋だったらしいけど、ルイダが持ってくの面倒くさいからって置き始めてからみんなで物置につかってるから問題ない」

 

 とりあえず、みんなに装備品を持って帰らせるのは後にしよう。

 まずは出来ることから始めていきましょう!

 

「ありがとう、スィア! それじゃあ私は玄関の服と剣とかまとめちゃうね! 悪いんだけど、スィアはエントランスのクッションを集めててもらえる?」

「うん。分かった」


 スィアからいくつかカゴを受け取り、服を集めるためにしゃがみこむ。

 長いロングコートを拾い、皮のジャケットを拾い、恐らくソシィのであろうローブを拾い、カゴに詰めていく。

 まったく、玄関でこんなに脱いで脱ぎっぱなしままだなんて普段はどういう生活をしてるんだか。

 落ち着いたらみんなにちゃんとした生活を送れるように私が教育していかなくちゃ!

 服を拾いながら考えていると、スィアがその場から動かないでいた。


「ん? どうしたの、スィア? 何か問題あった?」

「あの……、ホルス。私、偉い?」

「え? うんうん! スィアはとっても偉いよ! 手伝ってくれてありがとうね!」

「……うん。ありがとう」


 それだけ言ってスィアはエントランスへと向かっていった。

 ウフフ。頑張ったら褒めてほしいなんてスィアも子供らしいところあるのね! かわいい!

 終わったらいっぱい褒めてあげよう!

 スィアに負けないように私も頑張らないとね!

 カゴの中に次々と服を入れていく。

 コートにジャケット、ローブにパーカー、ワンピースにブラウス、スカートにシャツ、パンツにブラ。

 パンツにブラ!? なんでパンツにブラがここに!? パンツにブラをここで脱いでいったら中ではどんな生活してるの!? パンツにブラはどうやってもここに落ちてないでしょ!?

 シャツもよく考えたらおかしい! シャツを脱いでいったら下着一枚で普段生活しているっていうこと!? わざわざシャツだけ脱いで上着を着直すなんてある!? そして、それを言うならスカートも! しかもさっきのパンツにブラを総合したらこれ脱いでいった子、全裸じゃん! あの四人の内の誰かが家の中で全裸で生活してる!?

 もうどれだけだらしないの! これは戻ってきたらちゃんと四人に言って聞かせないと! でも、とりあえずは今は片付けるのが優先!

 とにかくカゴに片っ端から服を詰め込んでいき、置かれた装備は隣の部屋に押し込んでいく。

 脱ぎっぱなしの靴を並べ直して靴箱と棚の中にしまっていく。

 それから靴箱の上に散らかったゴミ、食べ物の包み紙などは袋にゴミでまとめるとして、中身の入った飲み物の瓶は一度キッチンで中身を捨てないといけない。

 脇の部屋に全ての装備を押し込んで、服の山積みになったカゴを持ち上げるとエントランスへと向かう。

 エントランスに向かうとそこにはクッションが途中まで詰め込まれたカゴが置かれて、その隣でスィアが本を読んでいた。

 

「ン゛ッ! ンン゛ッ!」


 わざとらしく大きな咳ばらいをするとスィアがバタンと本を閉じてクッション集めを再開する。

 もう! 目を離すとすぐに遊びだすんだから! スィアが完全に子供にしか見えてこなくなっちゃったよ! 私がしっかりしなくちゃ!

 慌てるスィアの所に近づき、話しかける。


「スィア。とっても頑張ってるところを、邪魔して悪いんだけど集めた服を置く場所がどこかにないかな? それから玄関の食べ物のゴミも片付けたいからキッチンも案内してもらえない?」

「う、うん。わかった」


 スィアが立ち上がって奥の廊下へと向かうのでその後ろについていく。

 廊下の両脇にはやはり他の場所と同じように様々な物が山積みになっている。

 この辺りもいずれ片付けなければいけないだろう。

 いくつめかの扉の前でスィアが立ち止まり、その扉を開いた。

 

「ここがランドリールーム。ルイダがたまにみんなの服を洗ってくれる」


 開いた部屋には片側に大きな棚があり、もう片側には吊り棚の下に小さな丸い窓のついた四角い箱が3個並んでいる。

 奥には広い洗濯物の手洗い場と壁一面が大きなガラス窓になっている洗濯物を干す広い場所まであった。

 そして他の例に漏れずにこの部屋にも大量の服が山積みになっていた。


「たまに洗ってくれるのね……。たまに、かぁ……」

「……洗濯は、ルイダの担当だから。ルイダが一杯服を買ってくるから」


 じゃあ、スィアの担当は一体なんなのかしら。というか担当に限らずにこんな状態じゃ一人で洗濯するのも大変だろうに、みんなでキレイにした方がいいと思うべきだと感じますがね。

 そういった事を言うのは今ではないからいいませんけど。

 なんとか空いてるところを見つけてカゴを置き、ふと気になった小さな丸い窓のついた箱の中を見る。

 小さな丸い窓は透明で取っ手がついており、そこから見える中には丸い金属のカゴが入っているようだった。

 箱の上には丸やら三角や四角などの様々な模様が描かれておりそれぞれ、電源、スタート、一時停止など模様の上に文字が掛かれていた。

 

「スィア。この箱って一体なに?」

「冒険者ギルドの紹介で買った魔道具。その中に服を詰めてボタンを押すと勝手に服を洗って乾かしてくれる、らしい。ドラム式洗濯乾燥機っていう最先端の魔道具」

 

 えー! なにそれ便利すぎない!? そんな魔道具なんて孤児院においてたらめちゃくちゃ重宝されてるよ! 


「すごいね、スィア! 使い方は!? 使い方はどうやるの!?」

「えっと、ルイダが知ってると思う。ルイダが使ってるから」


 これは後でルイダからこのスゴイ魔道具の使い方をよく聞かないと!

 とりあえず今は後回しで掃除に戻らないと……。

 

「あ、あの、ホルス。キッチンにもスゴイ魔道具がある」

「え!? ホント!? みたいみたい!」

「うん。こっち」


 キッチンにもスゴイ魔道具が!? それは一度見に行かないと!

 掃除は……、ほら! どっちみちキッチンにも行かなきゃいけなかったし、その後でもいいよね!

 ちょっぴりだけ得意げな雰囲気を出したスィアと一緒に部屋をでて案内してもらう。

 今度はエントランス側に戻って、左右にあった大扉の片方をひらいた。

 広い部屋で、暖炉の前に高そうな絨毯とソファーに囲まれたローテーブル、それから、その隣には10人ぐらいは座れるぐらい大きなダイニングテーブルとイスが置かれていた。

 部屋にはもう一つ大扉と別の部屋に繋がる通り抜け、それから庭に向く壁は外がのぞける大きなガラス窓になっている。

 この部屋にも色々な物が散らかってはいたが、他の部屋ほどひどい有様にはなっていなかった。

 服やクッションは四隅に固められていて、特にテーブル周りは二つともおおよそキレイに片付いている。

 おそらく、みんな普段ここで生活しているからこの部屋だけ少し片付いているのだろう。

 それでもキレイとはいいがたい現状だけど。

 

「ここがリビングダイニング。いつもみんなここで一緒にご飯を食べてる。隣がキッチン」


 スィアに案内されるままに通り抜けの方へ一緒に向かう。

 抜けた先にはこれまた広いキッチンの部屋が広がっている。

 真ん中には広い調理台がドーンとでっかくおいてあり、コンロは何台も用意されている。

 端から端まで両手を広げたくらいの大きさの巨大冷蔵庫に豚ぐらいなら入れられそうな大きなオーブン、食器をしまう大きな棚の他にも沢山の引き出しのついた大きな棚に調味料などをおいておくパントリーまで別で用意されていて、さらに、それとは別に奥にもう一室、貯蔵庫のような場所がある。

 もちろん洗い場もかなりの広さで、しかし蛇口だけは変わったデザインの物がついている。

 そしてここにも調理台の上には色とりどりの様々な袋が置かれていて、食べかすとソースのが残ったお皿が何枚も積み重なり、洗い場にはたくさんのお皿にカップにスプーン、フォーク。

 ある程度分かっていたから驚きもしないけど、ここも片付けリスト入り。

 スィアに連れられて冷蔵庫の前までやってくると、スィアが大きな扉を開いてこちらに見せてきた。


「これ、冷蔵庫。中に入れたものを冷やしてずっと保存しててくれる」

「え? あ、あぁ、うん! 大きい冷蔵庫だね!」


 スゴイ魔道具ってもしかして冷蔵庫の事? 孤児院にいた時も私がキッチンに入れてくれる年の頃にはあったから特に驚くところもないんだけど……。

 スィアが期待を抱いた目で見てくれてるんだけどもしかして驚いて貰えることを期待していたんだろうか……。

 ど、どうしよう。もっと大袈裟に驚かないと期待に応えられないかな……?

 すると、スィアは見つめてくる目を少し細めた。

 

「……ホルス、冷蔵庫を知ってる?」

「あ、あー……、その……。冷蔵庫は孤児院にもあったから知ってる、かな……。ご、ごめんね、スィア!」

「ううん……、いい……。ごめん、ホルス」


 スィアはパタンとゆっくり冷蔵庫の扉を閉めた。

 あぁ、どうしよう! 声に元気がなくなっちゃった! ごめんね、スィア! 期待に応えてあげられなくて!

 こういう時はなにか別のことで褒めて中和しよう! それしかない! なにか褒めて上げられることを!

 そうだ! 冷蔵庫の中! 食材をちゃんと入れてるか見て褒めよう! お菓子とかジュースばっかりだったら……、それは後で叱るとして今は褒めよう!

 

「で、でも! こんなに大きい冷蔵庫を見たのは初めてだよ! 中はどうなってるの? ちゃんと野菜とかも買ってるのかな?」


 手近にあった冷蔵庫のドアを掴んで引くと、扉は開かずに手前にスッと引き出された。

 しまった! 力任せに引いて壊したか!?

 ガラガラと音を立てて引き出された一部を確認すると、そこには小さく砕かれた氷が箱いっぱいに詰まっていた。

 引き出した箱はある程度以上は出てくることはなく、押し戻すとスムーズに動く、どうやら壊れたわけではないようで安心した。


「すごい! ちゃんと氷を買ってきて細かく砕いて保存してるのね! これは誰がしてるの?」

「これ? これは冷蔵庫で作ってる」

「ん? あぁ、ここが冷凍室なのね。でも冷凍室の中をこんなに氷でいっぱいにしちゃったら他の物入れられなくて大変なんじゃない?」

「ううん。そっちは製氷室。冷凍室はこっち」

「え!?」


 スィアは冷蔵庫の別のドアを引き出してみせる。

 そちらにはまた別に凍らせた肉や何かの瓶が入れてある。

 ということは、スィアのいう通りこっちはホントに氷をいれるためだけの部屋ってこと!?


「スゴイ! 大きいとは思ってたけど」

「う、うん! しかも氷を使うと勝手に氷を作って補充してくれる! スゴイ冷蔵庫!」

「使うと勝手に氷を補充してくれる冷蔵庫!? 最先端の魔道具ってそんな機能まであるんだ! スゴイね、スィア! 見たことない!」

「うん、ホルス! 私も村では見たことなかった! これはスゴイ冷蔵庫! それにこっちにもスゴイのがある!」


 スィアは舞うように華麗なステップで洗い場にいくと下の大きな戸棚を引き出した。

 そこには大きな白いカゴが二層に積み重ねられて、カゴの中にはお皿などの食器がピカピカになって詰め込まれていた。


「これは食器洗い機! このカゴに使い終わった食器を入れて中に押し込んだ後、上のボタンを押すと自動でキレイに洗ってくれる!」

「スゴイ! これも最先端の魔道具!? 食器を勝手に洗ってくれるなんて、そんなに便利な魔道具がこの世にあるんだね!」

「うん! それにこっちも! この洗い場の蛇口なんだけど、ハンドルを左に捻ると暖かい水が、右に捻ると冷たい水が、持ち上げると水が出て下げると水が止まる!」

「いつでもお湯が出るの!? スゴイね、スィア! 魔道具って便利過ぎない!?」


 一緒に喜んでいると隣のスィアの口の端がちょっぴりだけ持ち上がったのが分かった。

 いつものかわいさが何倍にもましてかわいくなっている。

 そんな表情のスィアがキラキラした瞳でこちらを見てくる。


「その、ホルス。それで……、え、偉い?」

「え?」


 なんだろう? なんだかスィアが偉いかどうかにえらくこだわりを見せる。

 偉いかどうか聞かれても、魔道具の事だし、魔道具が偉いっていうのも何か違うしな。

 うーん。でも、案内は頑張ってくれたし、なんだか本人は褒めてほしそうだもんね!

 子供が褒めて欲しそうな時は褒めてあげるのがいい子の秘訣ってママ院長も言ってたし、今はとりあえず褒めてあげようかな!


「うん! スィアは偉いよ!」


 ニッコリ笑顔で褒めるとスィアはジッと見つめ返してくる。


「偉い偉い! スィアは偉いよ!」

「……ん。うん。ありがとう」


 スィアはプイっと顔を背けてしまった。

 なんだろう、ちょっとスィアの気持ちが不安定な気がする。

 喜んだり落ち込んだり、見た目より思春期になってるのかもしれない。

 ちょっと気をつけて見守ってあげたほうがいいかも。

 とっても強くても心の中はまだまだ子供というところを改めて感じさせられる。

 やっぱり私がしっかりみんなの事を導いてあげなくちゃね! 力を貸してくださいね、女神様!


「アイサたちが来る前に片付ける。エントランスに戻る」

「うん! そうだね、スィア! 一緒に頑張ろうね!」


 ちょっと落ち込んでもやることはちゃんと分かっててちゃんとやる! さすがスィアはリーダーなだけあるね! こういうところはホントに偉い!

 スィアの頭に手を伸ばしてその頭を優しく撫でる。


「あ」

「スィア、偉い! みんなが来る前に頑張ってキレイにしようね! キレイにしたらお祝いももっと楽しくなるからね!」

「う、うん! 頑張ろう、ホルス!」


 なんだかスィアが急にやる気を取り戻して目が輝いている、気がする。

 なんで急にやる気を取り戻したのかはよく分からないけど、思春期ならまぁそういうこともあるか。

 ひとしきりスィアの頭を撫でた後にエントランスに向かう。

 あと掃除をするのは玄関の残り、エントランス、それからお祝いするならさっきのリビングダイニングがいいだろう、あと料理を持ってくるならキッチンも片付けておきたいよね!

 よーし! スィアも頑張ってくれるし、私も頑張らなきゃね! 女神様、私のやる気を見ててくださいね!

 意気込みを新たにして、スィアと二人で掃除へと向かった。


ー ー ー ー ー ー ー

@『デルモウィーク』の家 その後


 それから一時間、スィアと二人で片付けて何とか人に見せられる程度までは片付いた。

 各所に散らばっていた服は一旦ランドリールームへと全て避難させ、装備品は玄関脇の部屋に押し込めて、小さいクッションや本等は空いてる部屋に押し込んで、動かしようのない大きなぬいぐるみたちやオブジェはとりあえず部屋の四隅に固めた。

 キッチンではキレイな食器は棚に戻して汚れてるものはスィアに頼んで食器洗い器で洗ってもらったが、それでも入り切らなかった分をスィアと二人並んで手で洗って拭いて食器棚に戻していった。

 リビングダイニングのテーブルとイスとソファーを拭いてまわり、仕上げに玄関からここキッチンに至るまでの床に落ちた食べカスやら埃やらの掃除を始めて今に至る。

 エントランスホールで、スィアがホウキで集めたゴミを塵取りにまとめて袋にしまうとその口を縛った。


「よし! これで一通りはキレイになったね! ありがとう、スィア!」

「うん。頑張った」

 

 スィアの協力のお陰でホントに助かった。

 大きさが大きさだけに自分では簡単に動かせないようなオブジェもスィアが力持ちだから簡単に動かしてくれる。

 普段は面倒くさがって片付けなくてもやる時は一生懸命頑張ってくれる、なんていい子なんだろう。

 やっぱり子供っていうのは褒めてやる気を出させるのがいい育て方なんだと改めて思います。女神様もそう思いますよね?


「ホルス」


 名前を呼ばれた方に顔を向けると、スィアが期待に溢れた目でこちらを見ている、気がした。

 これはきっと褒めて欲しいんだな! よし! めいっぱい褒めてあげよう!


「手伝ってくれてホントにありがとうね、スィア! スィアのお陰で早くお掃除終われたね! スィアはホントに偉い! 」

「ん。ありがとう」


 スィアはお礼を口にしたあともそのままジーっとこっちを見つめてくる。

 何か言い足りないのだろうか?

 それとも私のお礼が足りない?

 もっと褒めてほしいのかな?

 

「真面目に一生懸命頑張ってくれるスィアがいて私とっても助かったよ! スィアは偉い! 本当に本当に偉い子だね! ありがとう!」

「……うん。ありがとう」


 スィアは視線を落として落ち込んだように少し表情を曇らせた、気がした。

 あれ!? なんで!? 私なにか対応間違えた!?

 真面目に一生懸命のところが都合よく使ってるみたいで引っかかったのかな? そんなつもりはなかったんだけど! 年頃の女の子難しすぎない!?

 

「そ、それにしても、みんな遅いね、スィア! そんなに一杯買い物してるのかな?」

「ルイダが服をいっぱい選んでるんだと思う。ルイダ、あのお店で服を買うの好きだから。もうそろそろ戻ってくると思う」

「へ、へー! ルイダのおすすめのお店があるんだね! 着てる服も可愛かったもんね! 私も行ってみたいな!」

「うーん……。行ってもいいと思うけれど、きっとホルスが期待してるようなお店ではないと思う」

「え? それって一体どういう」


 その時、玄関の呼び鈴が聞こえた。。


「ただいまー。スィアー、帰ってるー? ドアあけてー」

「あ、みんな帰って来たみたいだね! スィア、一緒にお迎えにいこう!」

 

 ルイダの声が聞こえてきたので、スィアの背中を押して玄関へと向かう。


「スィア―。まだー? ホルスさんもいるー?」

「ルイダ。ホルスもドアの前にいる」

「ほんとー? アハハー、ドアあけてー」

「うん―。ルイダ―、私もいるよー。いまドアあけるねー」


 玄関ドアに手をかけて勢いよくバッと開いた。

 そして目に飛び込んできたのは、星の書かれた三角のパーティー帽子にヒゲのついた丸メガネを装着したルイダとソシィ、そしてチアツィまで同じ格好をしている。

 両手にはパンパンに膨らんだ袋を両手にぶら下げていて、まさかこの子たちはこの格好で家まであるいてきたのだろうか。

 いや、そんなことはどうでもよかった。もう一人に比べたらそれはそんなことでしかない。

 目の前にいるアイサちゃんは三人のしているの同じヒゲメガネ、全身は体全体をすっぽりと緑色のぶかぶかの服を身にまとい、背中には黄色いふかふかのトゲとちょこんとした尻尾がついて、大きな目玉の書かれたフードを被っていた。

 それは子供のお遊戯会でつかうようなドラゴンの着ぐるみに似ていて、それを来たアイサちゃんはヒゲメガネをこちらに向けて、両手を挙げてこういってみせた。


「が、がおぉ、ぉ……! た、たったた、たべちゃう、ぞぉ……!」

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