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第八話 Sランクの12歳の女の子達の子供だけの共同生活!

 その後、冒険者ギルドの受付で手続きがあるとスィア達と別れてアイサちゃんと二人で冒険者ギルドの端のテーブルで待っていた。

 なんなのあのリコロンとか言う人は!

 会ったことも話したこともないくせに人のこと噂だけで勝手に決めつけおって!

 おまけに『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』なんて名前までつけてくれちゃって!

 私は今までもこれからもエチエチ大魔王になることなんかないっての! 

 散々に言ってくれて! さすがの私も怒りましたから! こうなったら私もアダ名付け替えしてやりますからね! これくらいの復讐は許されますよね! 女神様!

 メガネ、受付嬢、あとえーと、陰険! は言い過ぎか……。ネクラ! ってわけでもないし……、うーん……。


「あ、あの、ホルスさん」

「ん? あ、うん! なに、アイサちゃん?」


 向かいに座ったアイサちゃんに振り向いてしっかりと笑顔をつくる。

 かわいいアイサちゃんには私がこんな事考えてるなんて知られちゃいけないからね!

 アイサちゃんはなにやら頬を赤らめてモジモジとしていた。

 

「あの、私、ホルスさんに助けて貰ったお礼ちゃんと言えてなかったなって思って……」

「フフ。お礼なんていらないですよ。私は元でも神官ですからね! 子供を助けるのは当然のことですから! ……なんて言っても、ホントにアイサちゃんの事助けたのは『デルモウィーク』のみんなだけどね。お礼ならみんなに言ってあげてね。私なんてあんまり役に立てなかったもんね」


 結局私がしてあげられたのなんてアイサちゃんと一緒にいるぐらいしか出来なかったし、スィア達が来なかったらホントに今頃どうなっていたことか。泊まるところも冒険者ギルドの事も全部スィア達にまかせっきりだしね。

 最初は守らなきゃって一生懸命考えてたけど、思い返してみれば気持ちだけで何もしてあげられてなかったよね。反省。

 ホントにスィア達にあえてよかった! そのお陰で今、アイサちゃんもこうして無事で一緒にいられるわけだし、出逢わせてくれてありがとう女神様! これからも沢山お祈りしますね! 天罰も含めて! 

 

「そ、そんな……! そんなことないです! 私はホルスがさんがいてくれてホントに救われましたから!」

「エッ? そんな、大袈裟だよ。でもまた困った時はいつでも私に言ってくれていいからね! 私はいつでもアイサちゃんの力になるから! ー―私に出来る範囲で!」

 

 両腕を振り上げてガッツポーズをとって見せる。

 アイサちゃんは口元を押さえて小さく笑った後、顔いっぱいの笑顔で返事を返してくれた。

 

「はい! いつでも頼らせてますね!」


 天使さながらのかわいい笑顔のアイサちゃんに思わずこっちも笑顔になってしまう。

 子供ってホントなんでみんな可愛いんだろう! お金よりもどんな物よりもこれが一番の報酬だよね! 私頑張ってよかったです、女神様!

 アイサちゃんと二人でニコニコ笑い合ってると、不意に頭の後ろから女の人の声がきこえた。


「へー、なんだか昨日とはうってかわって随分頼れる冒険者になっちゃったみたいね。ホルス」

「人は日々成長するものだもの、シーフ。ホルスは冒険者になったばっかりだし、まだまだ若いからこれからだよ」


 え? うそ? これ、この声って!

 振り返り、そこにいた二人の顔を目を見開いて驚いた。


「魔法使いさん!」

「うん。元気みたいで安心した、ホルス」

「それから――」


 魔法使いさんの隣のシーフさんとお互いに目を合わせ、一拍間を置いてから、


「シェフさん!」

「そう、私は包丁を片手にキッチンという戦場を駆け回り、店に来た客の舌と心を魅惑の料理で奪いさる職業の、ってそれはシェフ! じゃなくて私はシーフ!」


 テキトウなボケにもノリノリでノリツッコミしてくれる! これは間違いなくシーフさんだ!

 大きく両手を広げて立ち上がり、二人に思いっきり抱きついた。


「シーフさん! 魔法使いさん! 二人とも会いたかったです! 本当に会いたかったです!」


 力いっぱいに二人の体を強く抱きしめてその間に顔を埋める。

 あーもうまた二人に会えるなんて夢みたい! すごく会いたかった!


「アハハ! ホルス! 力強すぎだって! 昨日あんな別れ方だったから大丈夫かなって心配してたのに、こんなに元気なら心配する必要なかったわね」

「朝からシーフと一緒にホルスが来るかなってずっと待ってた。待ってたけど全然来ないから、また町で変な男に絡まれてるんじゃないかって、知り合いにホルスが冒険者ギルドにもし来たら教えてって頼んで、シーフと二人で町中を探し回ってた。さっき冒険者ギルドに来たって教えて貰って急いで戻ってきた」

「シーフさん〜! 魔法使いさん〜! 二人とも大好きです〜!」

 

 なにそれなにそれなにそれー! 嬉しすぎるー!

 私のこと心配して町中探してくれたって!? 信じられない! 二人とも優しすぎる! 私のことをこんなに思ってくれる人がこんな所にいたなんて! 女神様、この二人はもしかして天使ですか!?

 嬉しすぎてもう涙まで出てきた! 二人にお礼言いたいのにもう涙も鼻水も全然とまんない!


「ウッゥゥ゛、グスッ! ありがとうございます゛〜! ほんとに゛、ほんとに゛う゛れじいです゛〜!」

「いやいや、泣きすぎでしょう。アンタは迷子の子供かって。まったくもう……」

「ホルス、良かったらこれで涙と鼻水拭いて。このシーフの服で」

「え? いやちょっと魔法使い何いってんの」

「ありがとうございます。それじゃ遠慮なく、チーン!」

「いやぁぁぁ!」


 なんていいつつ、シーフさんの背中で魔法使いさんから手渡されたハンカチに鼻をかんだ。

 魔法使いさんは何でも心得があるだけにこういう事も簡単に出来ちゃうんだね。マジシャンだけに。プププ。

 シーフさんは大慌てで離れた後、私の手に持ったハンカチを見て呆れて笑ってくれる。


「まったくもう! 泣いてたと思ったらこんなイタズラまでしてきて! 次にこんな事したらもうアンタの事なんて心配してあげないからね! 分かった?」

「エヘヘ! すみません、シーフさん優しいからついついイタズラしたくなるんですよね! はい!」

「大丈夫だよ、ホルス。私ももう何度もイタズラしてるけど、口ではそんなこといいつつ最後はいつも許してくれるから。安心してイタズラするといいよ」

「おいおーい。魔法使いはホントに許すのやめちゃうよー? 限度は考えようねー?」


 いった後に私とシーフさんと魔法使いさんの三人で顔を見合わせて声を出して笑いあう。

 あぁ、ほんとによかった。私二人の所に帰ってこれて本当に良かった!

 女神様! 私が女神様に冒険者に選ばれたのは今日のこの日の為だったんでしょうか!

 こんなにかけがえのない友達が出来て、私今すっごく幸せです!

 だからさっきハンカチからちょっとはみ出てシーフさんの肩に鼻水がついちゃったことは黙っておこう!

  だって、こんないい雰囲気こわすなんて出来ないよ! 大事な友達だもん!


「ま! とにかく! ホルスが元気そうでよかったわ! それで、一体どこで何してたの? 二人ですごい探し回ったんだからね」

「もう今日はすごかったんです! お二人にお話ししたい事一杯あるんですよ! えーと、最初はどこから話したものでしょうか……」

「それならホルスが競馬場で大当たりしてハシャいでた所からでいい。そこまではシーフと私で突き止めた」


 一番バレちゃいけない事バレてるー! あー、どうしてそんな所からー!


「そ、それはですね……。今朝、道端でオジサンに話しかけられてギャンブルに誘われてついていったらビギナーズラックで運よくポンポンと勝っちゃって……」

「……あのさぁ、ホルス。変な男に騙されてホイホイついて行っちゃダメって私昨日いったよね? 聞いてなかった?」

「聞いてました……。すみません……」


 シーフさんの冷たい視線が突き刺さる。

 だってー、その時はシーフさんと魔法使いさんが私の事待っててくれてるなんてしらなかったしー! 二人が冒険者ギルドで待ってくれてるって知ってたら私だってついていかなかったしー!

 なんてことは絶対言わない。だってシーフさんは私の事を心配してそう言ってくれてるのだから。


「えっと……、それで、その後、商人さんに話しかけられて商人さんの大金を預ける代わりに勝ったら2倍にして返してくれって、それ以上の儲けはこっちの取り分で構わないからっていう取引をして、賭けをすることになったらそこでタイミング悪く大負けしちゃって約束のお金を返せなくなっちゃって……」

「……」

「……」

「あの? 二人とも? ちょっと前まですごい優しい笑顔だったのに今はすごい呆れたような顔つきになってますよ? 大丈夫ですか?」

 

 ツカツカと足音を立てて近寄ってくるシーフさん。

 そして指をそろえた手の平を振り上げたかと思うと、その手でスパーンと私の頭を打ちぬかれた。


「あいったー!」

「バカ! 典型的な詐欺じゃない! ホントにアンタは世間知らずなんだから! だいたいアンタ神官でしょ! シーフの私が言うのもなんだけどアンタはギャンブルしちゃダメでしょ!」

「で、でも最初はすごい調子良かったんですよ! 朝食一回分しかなかったお財布の中身が4倍、9倍、13倍を三回連続で当てて468倍までいったんです! その最後の一回さえ勝てれば私だけの夢のオリジナル孤児院の建設だって夢じゃなかったんですから! 最後の一回さえ勝ててればなー!」

「そんな金で建てた孤児院に未来はない! そういうのはもっと真面目に働いて運営方法とか経営とか学んでちゃんと計画して作るものなの! 思いつきで作る物じゃないから! いやホント、シーフの私が言うのもなんだけどさ!」

「うぅ……! シーフさんが正論のナイフをグサグサと心に突き刺してくる……! ま、魔法使いさんはどう思いますか?」

 

 それでも魔法使いさんなら! 魔法使いさんならフォローしてくれるはず! 私はまだ冒険者になったばかりだし、まだまだ若いからこれからなんだもん! 魔法使いさんなら!


「流石にこれはフォロー出来ないよ。反省して、ホルス」

「はい。すいませんでした」


 腰を綺麗に折って二人に頭を下げる。

 魔法使いさんにまで怒られたら私にはもう弁明の余地もございません。

 頭を下げるくらいこれまでの経験でもう手慣れたもんだからね! 余裕ですよ!


「ったく、それで、その後どうしたの?」

「借金のカタに商人の娘さんが売られそうになってたので、その代わりに私が売られることになりました」

「えぇ!? 今度は奴隷の売買!? あんたどんだけ犯罪に巻き込まれてるのよ!」

「それで男たちに連れていかれた先で先に誘拐されていたアイサちゃんと出会って仲良くなりました」

「えっと、初めまして。よろしくお願いします、アイサです」

「あぁ、これはどうもご丁寧に。よろしくお願いします、シーフです。じゃなくて! ちょっとわけわかんない! 急展開すぎない!? なんか仲良くなる要素あった? っていうかそれでどうやって冒険者ギルドに戻ってきたの!?」

「その後男達に連れて行かれる道の途中で通りすがりのSランクパーティーに助けて貰いました」

「もう展開が急転直下だよ! 競馬で喜んでたホルスはどこいっちゃったの!? とりあえず助かってよかったね!」


 確かにシーフさんの言う通り、競馬から始まって今日は人生の中でも激動の一日だったなぁ。

 なんだかんだ最後にはアイサちゃんと一緒に無事に帰ってこれたし、思ってみれば初めて冒険者らしい冒険したと言えなくもない気もするかもしれない。

 

「ま、まぁ、分からないけどだいたい分かったわ。でも、ホルス。アンタ、お金ないんでしょう? この子と二人でどうする気なの?」

「あ、そうそう! それで二人に伝えたい事があったんですよ!」

「なに? 言ってみて。さっきまでで十分衝撃的過ぎてもう何言われても驚かないだろうけど」

「私、今日助けてもらったSランクパーティーに入れて貰えることになったんです! 泊まるのも家を貸してくれるって!」

「えぇー!? ホルスがSランクパーティーに!?」


 シーフさんったら何言われても驚かないっていってたのに大声あげちゃってまぁ。プププ、かわいい奴め。

 ま、誰でも驚いちゃいますよね! なんなら私だって驚いてますからね! 


「まぁ、私の人徳っていうんですか。そういうのを気に入って貰えた、みたいな? やっぱり、こう見えても元神官ですからね。内面から滲み出る隠しきれない人柄の良さをSランクに相応しいと思って頂けた、みたいな?」

「うわ、調子乗ってるなぁ……。そのみたいな? って言うのやめて? っていうか、大丈夫なの? ホルスが使える魔法、アレだけって事、パーティーの人達はしってるの?」

「……、みんなには私の精神性をかって頂いてますので……」

「アンタ、まさか……」


 シーフさんの視線と目を合わせないようにサッと顔を背ける。

 まぁ、それはそれ、これはこれだもんね……! 入っていいよって言ってくれたのはスィア達だし。ヒーラーは体だけじゃなくて、心のケアとかそういうのもあるってリーダーとか戦士さんも言ってたからさ……! パーティーへの貢献って単純な能力だけで決まるわけじゃないと思うから……!

 うんうんと頭を振って頷きつつも、シーフさんから飛んでくる視線に目は合わせない、決して合わせない!


「ホルス」


 スィアの声がして顔を向けると、受付を終えたスィア達がちょうど戻ってきた所のようだった。

 その手にはなにやら大きく膨らんだ革袋を持っている。


「あl おかえりなさい、みんな! えっと、シーフさん、こちらSランクパーティー『デルモウィーク』のみんなです! みんな、えっとこちらはシーフさんと魔法使いさん! 私の――、私の……。え、えっと……」


 えっと、これ、い、言っていいのかな? 言ってもいいのかな!? ねぇシーフさん! 魔法使いさん! 私達の関係って、これは、言っても二人に怒られないかな!?

 

「友達でしょ。私はシーフ、よろしくね」

「うん、ホルスと私達は友達だよ。私は魔法使いよろしく、みなさん」

「はい! 友達です! 友達のシーフさんと魔法使いさんです!」

「はい。一応リーダーのスィアです。よろしくお願いします」

 

 キャー! どうしよう! 私初めて冒険者の友達出来ちゃった! 人生でこんなに幸せな一日ってあってもいいのかな! あぁ、私生きててよかった、女神様!

 スィアに続いて、チアツィやルイダ達もそれぞれシーフさん達とお互いに挨拶を交わしていく。

 お互いに自己紹介が終わった後、スィアが持っていた革袋を手渡してくる。

 ジャラジャラと金属の擦れる音をさせるそれは手に持つとズッシリとした重みを感じる。

 

「ホルス、これを渡しておく」

「ん? なにこれ?」


 革袋の口を開くと、なんとそこに入ってたのはまばゆい光を放っているかと思うほど美しい、人生でまだ一度も見たことがない山ほどの金貨が袋一杯につまっておりました。

 

「えぇー!? なにこのお金!? 一,二,三,四,五……、かかか、数えきれないよ!」

「ホルスがパーティーに入ったお祝い金。ホルス、お金に困ってるって言ってたから。キングオークの討伐の報酬」


 えぇ!? なにこれ!? Sランクパーティーってこんなに儲かるの!?

 でもこれは流石にまずいよ! だって私はキングオーク討伐になんて何の役にも立ってないんだから! その報酬を私が全額受け取るのは流石に気が引けるよ!

 

「え!? そんな悪いよ! だって『デルモウィーク』のみんなで討伐したお金なんだから、それを私一人で全部受け取るわけになんていかないよ! 私何もしてないのに!」

「ううん。それは報酬から少しだけ、手で持てそうな分だけお願いして貰ってきた。持ちきれない分は受付の人が銀行に送金してくれる。足りないならもう一袋頼んでくる」


 どんだけ報酬あるの! 革袋一杯の金貨が報酬の一部なの!? 一体全部だと何袋になっちゃうの!

 隣で見ているシーフさんと魔法使いさんも開いた口が塞がらなくなってるよ! ここに金貨いれたら何か反応するかな? 機会があったら試してみよう!

 

「いえ、こちらで大丈夫です。ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」

「うん、よかった」


 スィアに、十二歳の女の子に深く深く頭を下げる日が来るとは思いもしませんでした。

 人生とは思いもよらないことの連続です。こういうのもまた奇跡っていうんですかね、女神様。

 後ろでニコニコしていたルイダがみんなの脇から飛び出してきてアイサちゃんの両肩を捕まえた。


「それでー、アイサちゃんー。今日から家に来るのにー、着替えとかー、色々必要な物足りないかなー、って思ってー、ソシィと一緒に色々買いにいこー?」

「い、いえ、そんな悪いです! 自分の事は自分で何とかしますから!」

「まぁまぁー。いいからいいからー、前から誰かに着せたかった面白い服とかあったしー、いい機会だから遠慮せずにー」

「え? ……え?」

「まぁまぁー。遠慮せずにー」


 ルイダはそのままアイサちゃんの背中をおして冒険者ギルドの入口へと向かっていくと、ソシィもその後へと続いていった。 


「アイサの生活用品を揃えに買い物に行こうと思うけど、ホルスはどうする?」

「えっと、私もみんなについて行きたい所だけど、ちょっと前まで泊まってた宿屋にも少し用事がありまして……! 荷物とか、その色々……」


 あと宿代のツケとかね。お金が手に入った以上、やっぱり払わないでやり過ごすって選択肢はないもんね。

 どのみち宿屋に服とか荷物とか取りに行かないといけないし、ちゃんとお礼と謝罪を言って支払いは済ませてこないと。やっぱり大人としてね! 子供からお金を貰って頭を下げるぐらいの大人でも、大人は大人だから!


「荷物があるなら私が手伝いにいく。ホルスに家の場所も教えないといけないし」

「ホントに? ありがとう、スィア! すぐにすませるようにするから!」

「あー、ホルス? 私と魔法使いも手伝うよ。二人だけじゃ大変でしょ?」

「シーフさんまで! ありがとう。でも私の荷物そんなに


 話の途中でシーフさんの手がグッと私の腰に回されて脇腹の肉をムギュッと摘ままれる。

 何事かと顔を向けると、シーフさんは何かいいたそうに唇を尖らせてこちらを見ていた。

 な、なになに? 私なにかした? 抱き返せばいい?


「それじゃ私はホルスを手伝ってから戻る。ルイダ達によろしく、チアツィ」

「うん。じゃあ後でな、スィア」


 シーフさんにわき腹を摘ままれたままチアツィと別れを済ませて、スィア達と四人で冒険者ギルドを後にした。


ー ー ー ー ー ー ー

@宿屋に行くまでの大通りの道


「ホルス、アンタが入るSランクパーティーって『デルモウィーク』だったのね」


 宿屋につくまでの道のり、隣を歩くシーフさんが顔をこちらに寄せて小さな声で話しかけてくる。

 後ろではスィアと魔法使いさんが楽しそうに話しながらついてきている。


「はい。シーフさん何か御存知で?」

「まったく厄介な所にはいったもんね。あのパーティーには気をつけなさいよ」 

「え? あの子たちに何か悪い噂でもあるんですか?」

「Sランクパーティー『デルモウィーク』、子供とは思えない程の恐ろしい力を持った女の子四人で、冒険者ギルドに来てたった数か月でSランクまで上り詰めた伝説のパーティーよ。今まで何人もの人が彼女たちを自分のパーティーに引き抜こうと頑張ってきたけど、どれも最後は悲惨な末路を迎えているって噂よ……」

「そ、そんな、あの子たちが一体何を……!?」


 コソコソと話すシーフさんは何やら深刻そうな顔つきになって口をつぐんだ後、意を決したように口を開いた。


「あの子たちに関わるとね……! 冒険者ギルドの受付でものすごく嫌がらせを受けるらしいわ……!」

「え?」

「え? じゃないわよ! これはホントの噂なんだけど、ある男冒険者はあの子たちをパーティーに誘った次の日、メガネの受付嬢に受けられる依頼を聞いたら初心者冒険者が受けるような薬草拾いの依頼以外に任せられる依頼はありませんって言われたそうよ。それとまた、別の男冒険者なんだけど、その人が受付にいった受付嬢にだけ、メガネの受付嬢が一声かけると休憩にいっちゃって誰に話しかけてもまともに受付してくれなったり、一番ひどいのなんて、ある男冒険者が受付で報告書を書いていたら誤字脱字どころか1㎜でも字がはみ出そうものなら最初からやりなおしさせられたり、依頼の報告が一生出来ないんじゃないかと思うほどメガネの受付嬢に書き直しをさせられたそうよ。とにかく危ないのよ! あの子たちに関わるとメガネの受付嬢に冒険者生命を狙われるから! あの子たちに変な事しないようにホルスも気を付けなさい!」

 

 『デルモウィーク』に声を掛けた男冒険者に繰り返し嫌がらせをするメガネの受付嬢、あぁ、これリコロンさんだ。

 あの人そんな事で冒険者ギルドで有名なんだ……。

 しかも嫌がらせの規模がちっちゃくていやらしい。子供じゃないんだから……。

 せっかくのシーフさんのありがたい忠告だけど、これは私からもシーフさんに伝えておかなくてはいけない。


「安心してください、シーフさん。すでに手遅れです」

「……そっかぁ。頑張ってね」


 同情と憐みの目をしたシーフさんは私の肩にポンと手を置いた。

 うん。それはもう少し早くいってほしかったな。可能であれば今朝とか。

 

「もう大変なんですよ。せっかくスィア達が入ってもいいよって言ってくれたのに、明日パーティーに入隊の面接するって、じゃなきゃ認めないって言われて……! もうメチャクチャですよ、リコロンっていう受付嬢さん!」

「面接するの? 受付嬢の人がパーティーの? よく分かんないけどさっそく大変そうねぇ……。頑張って、ホルス」

「はい! 私はあの人に負けたりなんかしませんよ! 絶対合格してみせますから!」


 特に勝手に人の事を『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』だなんて名前つけたりする人を絶対放って置けるもんですか! 何をしてこようと絶対に私は負けたりしませんからね! 力を貸してくださいよ! 女神様!

 そんな話をしている間に四人で宿屋の前までやってくる。

 扉を開けてすぐの受付には店主のオジサンが座っていた。


「いらっしゃ……、あ? あああ!? ぐわっ!」


 座っていたオジサンはこちらを見た途端にいきなり椅子から転げ落ちた。

 慌てて駆け寄ってオジサンの様子を確認する。


「オジサン!? 大丈夫ですか!?」

「あ……、あぁ……。あぁ、その、ホルスちゃん、帰って来たんだね……。すまんね……」


 オジサンは腰をさすりながらゆっくりと立ち上がった。


「ご、ごめんね、ホルスちゃん。ちょっと驚いちゃって……。その、今日も泊まっていくのかい?」

「それなんですけど……、えぇっと、実は今日から別の泊まる場所を見つけまして、部屋の荷物を取りにきたんです」

「え!? こ、この宿を出ていく!? ホントかい!?」

「あ! 溜まってたぶんの今日までの支払いはしていきますよ! 安心してください!」


 あぶないあぶない! ちゃんと伝えておかないと兵士さんを呼ばれて捕まっちゃうからね!

 動揺していたオジサンはまだ落ち着かない様子だったが受付の下から鍵を取り出し、こちらへと差し出してくる。

  

「え、えぇっとそれで……! たまってた宿代のお支払いなんですけど……! こ、こちらで……!」

「あぁ、うん……。って、えぇ!? 金貨!?」


 スィアからもらった袋から金貨を1枚取り出して手渡すと、オジサンは素っ頓狂な声を上げた。

 そりゃ驚くよね。私だって驚いたもん。


「え、えぇと、あぁ、お釣りを出さなくちゃね。えっと、お返しは……」

「えぇと、確か宿代が35万ですので……!」

「ハァ!? 35万!? あんたどんだけ宿代ためてんのよ!」


 横で聞いていたシーフさんが突然大声をあげて驚いた。

 うぅ、そりゃもう、一週間も溜めてましたからね。耳が痛いです


「あっ……! いや、ホルスちゃん、それは……!」


 なにやら慌てた様子のオジサンを横に、シーフさんが私の腕をつかんで振り向かせる

 

「ホルス! 35万ってアンタ三か月近くずっと宿代払ってないの!? 二ヵ月前に冒険者になったって言っててそれってことは、アンタ冒険者始めた時から宿代払ってないの!? 」

「え!? いや、一週間分の宿代ですけど?」

「え!? 一週間で35万もとられてるの!? 一泊いくら!?」

「え!? えっと……、逆算すると5万ですか?」

「え!? 5万!? 一泊5万ってどこの高級ホテルよ! ここはそんな高級なホテルじゃなくて普通の宿屋でしょここ! どれだけ高くても7千なんか超えないわよ!」

「え!?」

 

 驚いて店主のオジサンの方を見ると、受付に山ほどの銀貨を用意してこちらに背中を向けていた。


「オジサン!? ねぇ、オジサン!?」

「あぁ、ホルスちゃん。なんだか今まで計算を間違えてたみたいでねぇ……。今までの分もまとめて返すよ……。いやぁ、気づいてよかったよかった……!」

「よかったよかったじゃないよ、オジサン! 私いままでぼったくられてたってことですか!? ねぇオジサン!?」

「ぼったくりだなんて人聞きの悪い! 計算を間違えてただけだっていってるだろ! 元神官なのにそんなに人を疑っていいのかい!? あぁもう、営業の邪魔だからとっとと荷物もって帰ってくれ!」

「オジサン! ちょっとオジサン!」

「あぁ、忙しい忙しい! やらなきゃならない事が一杯あるんだ! 終わったら鍵は受付においとて! あとは勝手にどうぞ!」


 オジサンはバタバタと宿屋の奥へと引っ込んでしまった。

 あのオジサン! 私が何も知らないのをいいことにずっとぼったくりおって! 何が間違えてただよ! 二ヵ月も気づかないわけないじゃん! 絶対許せない!

 女神様! 天罰! 二回でも三回でも! 一回だけじゃ足りませんからね!


「ホルス……! アンタさぁ……。もう少し常識をみにつけたら……?」

「うぅ……! 痛い所を……! シーフさんと魔法使いさんがもっと早く仲良くなってくれてたらこんなことにならなかったんですよ! シーフさんと魔法使いさんにも責任があると思います!」

「ホルスはまだ冒険者になったばっかりだし、まだ若いからこれからだよ。でも、昨日のパーティーといい、もう少し周りの人がどうやって生活してるか知った方がいいと思う。それがホルスの為になるから。まずは自分の責任を自分でみれるように頑張ろう」

「おぉ……、魔法使いさんまで……! あの、スィアは!? スィアは私の味方だよね!?」


 スィアはいつもの無表情のまま、小さく口を動かして答えた。


「遠出する必要のある依頼はリコロンが宿をとってくれるから相場とかは分からない。でも、そんなに高い宿屋に泊まったことはないかもしれない」


 くそう! リコロンめ! 子供に常識を身に着けさせる機会を奪うのはどうかと思うよ!

 スィアが大人になった時に私みたいに困ったらどうする気なの! また許せない理由が一つ増えちゃいましたよ、女神様!

 

「まったく……。とにかく、この悪質宿屋の事は仲間内でも伝えておくわ。こんな宿屋さっさと荷物もって出ていきましょう! 今度からは気を付けてよね、ホルス」

「はい……。ありがとうございます……」

 

 シーフさんに言われるままに、涙目で受付に置かれたお金を袋にしまって鍵を受け取った後、三人を連れて自分の部屋へと上がっていった。


ー ー ー ー ー ー ー

@『デルモウィーク』の家


 その後、宿屋から荷物を受け取った後、スィアの案内で『デルモウィーク』の使っている家に案内された。

 家について、見上げたシーフさんから一言。


「……、ここって高級ホテル?」

 

 シーフさんの目の前には柵と植物に囲まれた広い庭付きで窓の数から二階建ての大きな豪邸が目の前にあった。

 

「ううん、ここが私達の家」

 

 スィアは門を開けると、四人でそのまま豪邸の敷地の中に入っていく。

 広い庭には植物を育てているのかガラス張りの温室の他に果樹園、戦闘の訓練場と思われる的が設置された場所やプールまで見受けられた。

 とても子供四人で生活しているとは思えない広さだ。

 中庭を見ながら少し間の歩き続けると豪邸の入口までついた。


「それじゃあ私達は荷物をおいたら戻るから。また今度ね。ホルス、スィアちゃん」

「また私達見かけたらいつでも声かけてほしい。頑張って、ホルス。スィアちゃんもまたね」

「あ、はい! ありがとうございました、シーフさん! 魔法使いさん!」


 お別れの挨拶をする魔法使いさんの顔をスィアが見つめる。


「魔法使いとシーフも泊まっても大丈夫。みんな喜ぶと思うし、部屋はいっぱいあるから」

「ありがとう、スィアちゃん。でも今日の主役はホルスとアイサちゃんだから、私とシーフはまた次の機会にお邪魔させてもらうね」

「そっか。うん、わかった」


 魔法使いさんにやんわりと断られて、スィアは無表情のままだがちょっとだけ残念がってそうな気がした。

 なんだか年相応なかわいいところを感じられてちょっとかわいいなと思ってしまった。

 

「シーフさん! 魔法使いさん! 二人とも今日は本当にありがとうございました! また冒険者ギルドで会った時はよろしくお願いしますね!」

「ホントにね……。ホルスは見てないとすぐ悪いことに巻き込まれるんだもの……」

「そう、ホントに……。これでSランクになるだなんて不安すぎる……」

「もう! 二人とも! そこはもっと綺麗にお別れしてくださいよ!」


 怒った後、三人でお互いの顔を見あって声を出して笑いあった。

 あぁ、少し前までの不幸が全部帳消になるくらい嘘みたいな幸せな時間。

 今日という一日に感謝いたします、女神様。この二人にも女神様の祝福がありますように。


「ホルス、開いたよ」


 スィアが豪邸の玄関扉を開けた。

 さぁ、これが私のSランクパーティーとしての第一歩なんだ! 頑張るぞ!


「今日からよろしくお願いします!」


 玄関に広がっていたのは雑に脱ぎ捨てられて床に落ちたたくさんの靴。

 中に入った廊下には脱いだ服が端っこに寄せられて、壁には杖やら弓やら剣やらが立てかけられている。

 脇にある戸棚の上には買い食いでもして帰って来たのは、食べ物の包み紙と思われるゴミが散らばり、他にも中途半端に中身の残った飲み物の瓶などが何本も並んでいた。

 惨状は部屋の奥まで続き、その様子は全てまとめてひっくるめて一言で済む。汚い。

 後から入ってきたスィアの声が後ろから聞こえてくる。


「ようこそ、私達の家に」

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