第7話 強襲! 自称Sランクパーティー専属受付嬢!
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@冒険者ギルド
町に到着した後、スィア達と一緒にアイサちゃんを連れて冒険者ギルドにやってきていた。
正面に構えられた大扉をチアツィが開けてそれに続いてぞろぞろと中に入っていく。
もしかしてシーフさんと魔法使いさんがいないかなと思って、室内を見渡すも二人の姿はどこにも見当たらなかった。ちょっとだけ寂しい。
ふとこちらを見てヒソヒソと話す男の冒険者集団が目についた。
「おいおい……、なんだあの子供たちは……。いつから冒険者ギルドはガキの遊び場になっちまったんだ……」
「知らないのか……。あれはSランクパーティーの『デルモウィーク』だ……。タダのガキじゃねぇ……。命が惜しくなきゃ覚えておくこったな……。怒らせたらタダじゃすまねぇぜ……」
「おいおい……。とんでもねぇ奴らだな……。関わり合いにならない方が良さそうだ……」
フフーン、実はそのパーティーにいるのは今は子供だけじゃないんだよなー!
まぁ、みなさんは御存知ないと思うけど、今の私はもうこのパーティーの一員だからね!
これもひとえに神のお導き! 一心に女神様を信仰してたおかげだね! サンキュー女神様! 愛してる!
と、そこでヒソヒソと話す男集団と目が合った。
「おいおい……! なんだあの巨大なおっぱいは……! いつから冒険者ギルドは大人の遊び場になっちまったんだ……!」
「知らないのか……! あれはSランクおっぱいの『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』だ……! タダのおっぱいじゃねぇ……! 金が惜しかったらよく覚えておくこったな……! 怒らせたらタダじゃすまなくなるらしいぜ……!」
「おいおい……! ホントにとんでもねぇ話だな……! ぜひとも積極的な関わり合いをさせて頂きたいな……!」
女神様、あの不埒者たちに天罰を。なるべく長く苦しめるヤツでお願いします。
誰がSランクおっぱいだ! 一体その呼び名は誰が広めてるんですか!?
歩いて進みながら、男達の顔が見えなくなる前にキッと強めに睨みつけておいた。
そうして一際大きな扉の前までくると、チアツィはノックもせずに扉を開けた。
「マスター。討伐終わったぞ」
「おぉ、お前らか! 仕事が早いな! 流石はSランクパーティーだ! ガハハ!」
部屋の中で筋肉質な太い両手を広げて出迎えてくれたのは、全身ムキムキで頭に光を反射させたガタイのいい中年の大男だった。
スィア達の前まではやってきた大男は腰に手を当てて胸を張り、白い歯をむき出しにしてニッと笑ってみせた。
「それでどうだ、お前達? 少しはやりがいあったか?」
「大したことなかった。もっと強い奴見つけてきてよ」
「余裕」
「楽勝だったよー」
「探す方が大変でした……」
「ガハハハハ! そうかそうか! まったくお前達は大したもんだよ!」
チアツィ達が口々に述べた感想を聞いて、大男は再び豪快に笑う。
ひとしきり笑って落ちついた後、息を整え直してスィアの方へと顔を向けた。
「さ、それで、後ろのお嬢さん方は一体どういう関係者で? お前達、今度は一体どんな悪さやらかしてきた?」
「悪いことはしてない。人助けしてきた」
「ほほーう、人助けねぇ。人助けっていうならお前達よりもそこにいる元神官様の方が向いてるんじゃないのかい? なぁ、ホルスさん?」
大男がこちらを向いて歯をむき出しにして笑った。
これはどうやら、このギルドマスターさんはこちらの素性を分かってやっているようだ。
そうとなれば私からも自己紹介するべきだろう。
「初めまして、冒険者ギルドのギルドマスター様。私はホルスと申します」
「またの名を『パーティークラッシャー』、そのまたの名を『」
「ホルスと申します! それ以外の名前は私は認めていませんので!」
筋肉ハゲマスターはガハハと豪快に笑っている。
くそう! ギルドマスターめ! 分かってて煽ってるな!
一体誰がその名前を広めているの! 責任者でてこい!
「すまんすまん。ウチのギルドの受付嬢が何度もそう呼ぶもんですっかり覚えちまってな」
ギルドの受付嬢さんまで私のことをそう呼んでいるの!?
私のそのあだなって一体どこまで広がってるの!?
本当に広げた犯人が恨めしい! 女神様! 天罰を与える準備をしておいてください!
それから筋肉ハゲマスターはスィアの方へと視線を向けて指を向けながら声を掛けた。
「おい、スィア。リコロンにはこの事内緒にしとけよ。まさかお前達が元神官様と帰ってくるなんて思ってなかったからよ。アイツにはこの事黙っとけよ」
「大丈夫。受付に居て目が合ったけど声を掛けられる前にここに逃げてきた」
スィアの言葉に筋肉ハゲマスターは片手でツルピカの頭を押さえた後に大きなため息をついた。
なに? なんで私がこのメンバーと一緒にいたらダメなの? 嫉妬?
「おいおい、勘弁してくれよ。またオレがアイツに付き合わされるハメになるじゃねぇか。たまにはアイツの言う事も少しだけでいいから聞いてやってくんねぇか?」
「うん。だからホルスをヒーラーとして私達のパーティーに入ってもらう事にした。前からヒーラーを一人パーティーに入れなさいって言われてたから」
「ハァッ!?」
筋肉ハゲマスターが大きな声を上げて頭から手を滑らせた。
フフ! どうやらさすがのギルドマスターも驚いたようね!
そうですよ! 私も今日からSランクパーティーの仲間ですからね!
さっきまでの態度を謝るなら女神様に天罰を祈るのを勘弁してあげてもいいですけど?
「冗談だろ、おい! そりゃ誰入れるかはお前達の自由だけどよ……! チアツィ! ルイダ! ソシィ! お前らも賛成したのか!?」
「うん、アタシもホルスならいいと思う」
「私も賛成したよー」
「わ、私も、ホルスさんは悪い人じゃないので……」
「マジか……」
どうだ、筋肉ハゲマスター! これは私の日ごろの行いを女神様が認めてくださった証!
あぁ、女神様ー! 子供に認めてもらえるのってなんでこんなに嬉しいんでしょう! 私今きっと世界で一番幸せです!
私きっと頑張ります! なんの役に立てるのかは正直自分でも全然分からないですけど! きっとこの子たちの心の支えになってみせますからね!
「後でどうなってもオレは知らねぇからな……。そういう事ならリコロンにはお前達からも一回は説明しろよ?」
「うん。言っておく」
スィアの軽い返事にギルドマスターは頭を抱えて深い深いため息をつく。
なんだろう、リコロンという人はそんなに頭を抱えるような人なんだろうか。後でスィア達に聞いてみよう。
頭を抱えたギルドマスターの前にチアツィが一歩前に出る。
「それよりもマスター。聖騎士から魔物討伐の依頼きてないのか? それかさっきの奴よりもっと強い魔物が出たって話とか」
「ん? どうしたチアツィ? 聖騎士団ならワイバーンの巣を探して遠くの山をもう二ヵ月もお散歩中だぞ。そのせいでお前らにオークキングの討伐依頼をだしたんだからな。オークキングより強い魔物が出たなんて話は聖騎士からもどっからも来てないぞ?」
「そっか……、そうなると……、女の方なのかな……」
「あ、あの、チアツィ! 私がいうのもなんですけど、それで決まったわけじゃないので……! そういうのってアイサちゃんの前では……!」
チアツィのつぶやきを私が叱る前にソシィが諫めてくれる。グッジョブ。
アイサちゃんは少しだけ顔を伏せた後に、胸の前でギュッと拳を握ってギルドマスターの前にでる。
「あ、あの、ギルドマスターさん! 私はレテール家のアイサといいます。聖騎士のカテッサ=レテールの娘です。父について何か御存知ないでしょうか?」
「おぉー、お前があのアイサなのか! カテッサならよくしってるぞ! オレは聖騎士団の団長と古い知り合いでな。遠征に行く前に騎士団長とカテッサ達も交えて飲みにいったばっかりだ! そうかそうか! アイツは飲みの席でオレの娘は世界一かわいいんだとしきりに自慢ばかりしてやがったが……。なるほど、確かにアイツが自慢するだけの事はあるな! こりゃあとんだべっぴんさんだ! ウチの娘に欲しいくらいだよ! ガハハ!」
アイサちゃんはちょっとだけ顔を赤らめて押し黙った後、再び口を開いた。
「あ、ありがとうございます……。えっと、そうじゃなくて、その……、父が遠征先で魔物との戦いで戦死した……、という話は聞いたことがありますか?」
「カテッサがか? いや……、それはないだろうな。アイツは今更ワイバーン如きにやられるような奴じゃないさ。アイツは聖騎士団の中でも仲間からの信頼も厚いし、騎士団長も次に副団長の席が空いたら間違いなくカテッサを推薦するって褒めてたぐらいの腕前だからな。それに、もし聖騎士団で被害が出る程に強ぇ魔物がでたら、間違いなく各地の冒険者ギルドにも連絡が入るはずだが、そんな話これっぽっちも聞いたことがない。安心してくれ、アイサちゃん。お前のお父さんはそこらの魔物程度に負ける男じゃねぇさ。オレが保証するぜ」
「そ、そうですか! ありがとうございます!」
アイサちゃんは一度大きく吸い込んで、気持ちを落ち着かせた後、再び口を開いた。
「それでは……、父が……、その、女の人と何か問題あった、などの話は御存知だったりはしませんか……?」
「カテッサが女の問題……? いや、アイツは嫁と娘一筋の真面目な奴だったし、そういうのは……」
ギルドマスターは顎に手を当ててうーんと唸って少しの間考えて、
「あるかもしれねぇな」
アイサちゃんの体がガクッと床に崩れ落ちる寸前でどうにかキャッチして受け止めた。
正直、私の中でのアイサちゃんのお父さんの評価ではあるかもしれないなと思ってました。
「いや、すまんな。この前、カテッサ達と飲みに行ったって話しただろ? そん時オレ言っちまたんだよ。あいつのアイサちゃんの自慢話の後にな。でもよ、そんなかわいい年頃だと女の子だし、色々父親には相談できないような事もこれから出てくるんじゃないかって。そろそろ誰かと再婚とか考えてみてもいいんじゃないかってよ。いや、ごめんな、アイサちゃん! 悪気があって言ったわけじゃなかったんだけどよ! アイツ、女の事で何かやらかしたのか? いや、まてよ……」
そこで、ギルドマスターはハッと何か気づいたように目を細める。
「戦死した話といい……、まさかアイツ、女に刺されたのか? おいおい、今まで付き合った女は嫁一人だけだとか言っていたが……、まさかあの男が女とそんな付き合い方をするとは……。人ってわからねぇな……」
「あのそれはあくまで可能性の話ですので! その辺でおしまいにしてもらっていいですか! アイサちゃんの心が心配なので! 先に私がお話してもいいですか!?」
手の中でフラフラとするアイサちゃんを支えながら代わりに答える。
あまりに罪深すぎるよ、アイサちゃんのお父さん! 知らない女の人なんかより実の娘をもっと大切にしてくださいよ! ほんとに悔い改めてくださいね!
「あぁ、すまんすまん。それでホルスさん、そういやなんでこいつらと一緒にいるんだ?」
「私ハメられたんです! ヒゲの男たちに!」
「えぇっ!?」
それを聞いた途端にギルドマスターは急に飛び跳ねてアタフタとしだした。
「ちょ! おま! ヒゲの男たちにハメられたってお前! 子供たちの前で何言ってんだ! おい聞くんじゃねぇお前ら!」
「騙されたって意味ですよこのおハゲ! あなたこそ何言ってるんですか! 変な方向に捉えないで下さい!」
「え? あ、あぁー! そうだよな! すまんすまん! 通り名のイメージでついつい」
くそう! また『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』のせいか!
だいたい、こんなにたくさん女神様にお祈りしてるのになにが私のどこに大魔王の要素があるんですかね!
その名前を広めた奴には不埒者にはしっかり天罰を与えておいてくださいね、よろしく頼みますね、女神様!
「それで誰に騙されたって? 詳しく話してみてくれよ」
筋肉ハゲマスターの問いかけに一回咳ばらいを挟んでから順序だてて説明をする。
「いいですか。今朝私が通りで頭を悩ませているとそこに現れたオジサンからギャンブルに誘われて、最初は調子がよくかけてたんですけども、そこでアークニンっていう商人さんからお金を借りてギャンブルで増やしてお返しするって話になったんですけど、それで大負けしてしまって、それでアークニンさんに返すはずだったお金の代わりにヒゲの男たちに馬車で連れていかれそうになったんです! それで、連れていかれる途中でこの四人が助けてくれたんです! 分かりました?」
最後までしっかり説明すると、目の前で聞いていたギルドマスターから一言。
「ホルスちゃんよぉ……、それって自業自得っていうんじゃねぇのか?」
ですよね! 自分でいっててもこれちょっと自業自得かなって思いますもん!
でもそうじゃないもん! 私ちゃんと聞いたんだもん!
「でも、ヒゲ男が私の事をハメられてるって言ってたんです! だから誰かが私の事を騙してそうなったのは間違いないんです!」
「そう言われてもなぁ……。誰にハメられたのか分からなきゃなんともな……」
誰にって……! それは私も知りたいよ! どこからハメられてたのかなんて分からないから困ってるんじゃない! 察してよ!
「まぁ、借金のカタでも奴隷売買はこの国では禁止されてるからよ。そのヒゲ男とそれからアークニンって商人については兵士に伝えておいてやるよ。後でどんな奴か教えてくれ」
「え? アークニンさん? なんでアークニンさんもなんですか?」
「そりゃお前、借金したお前さんをそのヒゲ男に預けたのがそのアークニンさんなんだろ? じゃあヒゲ男と知り合いの可能性が高いじゃねぇか」
「あっ、確かに」
ギルドマスターに頭を抱えて深いため息をつかれた。
しょうがないじゃん! こう見えてもこっちは教会から出てきてまだ二ヵ月なんだよ! そんなに世間の常識なんてわかんないよ! 目の前のアイサちゃんを守らなきゃって大変だったんだから!
「やれやれ。それでそっちの嬢ちゃんの方はいったいなんで捕まってたんだ?」
手の中でフラついていたアイサちゃんが気を持ち直して立ち上がって喋る。
「あの……、お父さんが遠征先で魔物との戦いで戦死して、その上、愛人まで作って、その人に借金までしていて、借金の代わりだといって私も家を追い出されて男たちに連れていかれたんです……」
「おいおい……。こっちはこっちで信じられねぇ話だな……。しかし、なるほど。それでさっきの話を聞いてきたわけか……」
ギルドマスターは眉をきつく寄せたまま天井を見上げて苦々しそうに言葉を口にした。
「そうか……、そうなると魔物相手にやられたってのは……、騎士団長の恩情なのかもしれねぇな」
「恩情?」
「あぁ……、女に刺されたカテッサの事を、その名誉のために魔物との戦いで死んだって事にしたのかもしれねぇな……。となると、この話はくれぐれも他言無用だ! 故人の名誉にかかわる問題だからな! ここだけの内緒の話だぞ!」
ギルドマスターは口元に指をあてて秘密にするようにと一人ずつ顔を見て念押しする。
そんなことしなくてもこんなこと誰にも言えないよ!
アイサちゃんのお父さん! もうちょっと他人に誇れるお父さんであってよ! アイサちゃんがかわいそうだよ!
「しかしカテッサもいねぇ、家に帰りゃ愛人がいる。アイサちゃん、これからどうする? それでも家に帰るか?」
「……家には帰りたくないです」
「だよなぁ……。よし! わかった!」
ギルドマスターはポンと一つ手の平をうって、白い歯をニッとむき出しにした。
「アイサちゃん! 今日からこのギルドの受付嬢になってくれねぇか! しっかり給料も出す! それでここで暮らしていきな!」
「え、えぇ!? い、いいんですか!? 私まだ十二歳なんですけど……」
「あぁ、いい! オレがそう決めた! このギルドじゃあ法律の次に偉いのがギルドマスターのオレだからな! 誰にも文句は言わせねぇ!」
アイサちゃんは嬉しそうに目を細めて口元を綻ばせて大きく頷く。
「はい! 私! 私ここで働かせてください!」
「よし! 決まりだ! そうとなりゃ早速色々準備しなくちゃな! さて、とりあえずは――」
「マスタァー! マスタァァーー!! マスタァァァーーー!!!」
部屋の外から地響きのような大きな女の人の声とドタバタとかけてくる足音が鳴り響く。
なになに!? 一体何事!? 緊急の事件ですか!?
そして足音が部屋の前までやってくるとその扉がバーンっと勢いよく開け放たれた。
現れたのは冒険者ギルドの受付嬢の制服に身を包んだ黒髪にメガネをかけたツリ目で少し性格のきつそうな女性だった。
「マスター! 一体どういうことですか! なんで『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』が『デルモウィーク』と一緒にいたんですか! 一体どういうことか説明してもらえますか! 私のかわいいSランクパーティーにあんな不潔な女を近づけないでもらえますか!」
ハァー!? 誰が不潔な女だってこの女! 初対面で失礼すぎませんか!
こちとら元神官だぞ! 私は不潔なことなんかこれっぽちもしたことありませんから! ですよね女神様!
メガネ女はこちらを見るとクイッとメガネを持ち上げるとこちらをジッと睨みつけてくる。
「あーら、これはこれはホルスさん! まだこんな所にいらっしゃったんですね? 昨日も男性とのもめごとでパーティーを解散されたようですけど早く新しい男を見つけにいかなくてよろしいんですか? それともモテない男性冒険者に貢がせてるから自分ではもう冒険にいく必要がないということでしょうか?」
ハァ!? なにこの女! 出てくるなりなんで私ここまで侮辱されなくちゃならないの!
別にもうパーティーなら入ってますし! 私から男に貢がせたことなんかありませんけど! 貢がれたことは、ちょっとだけありましたけど!
「ちょっと! いきなりなんなんですか、あなた! なんで私そんなにひどい事を言われなきゃならないんですか! 私あなたに何かしました!?」
「あなたのお噂はかねがね! 二ヵ月前に冒険者ギルドにいらしてから様々なパーティーを組まれたようですけど、そのどれもが男関係で即解散! 二股三股当たり前! 男とみたらすぐ関係をもっては侍らせてパーティーの人間関係をめちゃくちゃにして回るいやらしい女と存じておりますが! 中には同じパーティーの交際相手のいる男性にまで手をだしたとか……! この『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』! 子供たちに近づかないで!」
「私は今まで男性とそんな関係になったことなんて一度もありませんけど! 全部向こうが勝手に言い寄ってきてるだけです! 全部ただの言いがかり! 私は無実ですから! そのあだ名だって誰がつけたか知りませんけど、私は認めてませんからね!」
「火のない所に煙は立たない! 何が勝手に言い寄ってきてるですか! どうせやらしい恰好で誘っておいて「そんなつもりじゃなかったの~」とか言ってるんじゃないですか! 認めるも認めないも『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』と名付けたのは私ですからね! あなたなんてその名前で十分です!」
「えぇー!? あなたが名づけの親なの!?」
とうとう犯人みつけちゃいましたよ! 女神様!
一体誰が広めているのかと思ったら犯人が受付嬢さんだったの!?
その名前の所為で一体私がどれだけの迷惑をこうむってきたか!
女神様! この人をいますぐに改心させてください! 天罰を!
メガネの女性はフンと鼻をならして私とスィアの間に遮るように移動する。
「さぁ、スィアちゃん! チアツィちゃん! ルイダちゃんもソシィちゃんも! こんないやらしい女の人に関わっちゃいけませんからね! エチエチがうつっちゃったら大変です! 四人の事は全部私が! 私が専属で担当させて頂きますからね! 『デルモウィーク』の事は私が守ってみせますから! マスター! その人は冒険者ギルドからすぐに叩きだしておいてくださいね! 二度と私のSランクパーティーに近づかないように言っておいてください!」
キー! もう信じられない! 女神様! 私初めて人をビンタしても許されるでしょうか! 許されますよね! だってケンカを売って来てるの向こうからなんですもん!
だいたい何が私のSランクパーティーじゃい! 誰が『デルモウィーク』の事を守って見せるじゃい! スィア達に入っていいよって言われたのは私! 冒険者でヒーラーの私なんですけど!
「受付嬢さん! あなた私のSランクパーティーだなんていってますけどね! 私はもうスィア達からパーティーに入ってもいいよって言われてるんですからね! 今まではどうだったか知りませんけどね! 今はもう受付嬢さんのじゃなくて私の! 私のSランクパーティーなんですけど!」
「な! ななな……! なんですってー!? 本当なの、スィアちゃん!? 嘘ですよね! 嘘だと言って! スィアちゃん!」
「リコロン、ホルスは私達のパーティーに入ってもらう事にした。前からリコロンがパーティーにヒーラーを一人いれなさいって言ってたから」
リコロン! そうか、この人がリコロンなのね! どうりでギルドマスターもめんどくさそうな顔をするはずですよ! なんなのこの人!?
「ダメ! ダメよ、スィア! この人だけはダメ! 他のヒーラーなら誰でもいいけどこの人だけはダメ! いーい? こういう悪い噂がたつ人は必ず原因があるんですから! この人に関わっちゃダメ! 別の人にしなさい!」
「ちょっと! なんであなたが横から茶々いれてるんですか! 私は四人からちゃんと選ばれてここにいるんですからね! それをパーティーの部外者! 部外者のあなたの意見が割り込む余地なんてこれっぽちもありませんから! ねー、スィア! 別の人より私の方がいいよねー?」
リコロンを手で横に押しのけてスィアの前に出る。
隣で睨みつけてくるリコロンの目を眼力を込めて睨み返してやった。
やるか! このやろー! ここまで言われて私だって容赦しないぞ!
「マスター! この冒険者が受付嬢に暴力を振るいました! すぐに冒険者ギルドを出禁にしてください!」
「マスター! この受付嬢が冒険者に不当な言いがかりをつけてきます! 受付嬢をすぐに変えてください!」
「おいおい、お前ら……。子供の前で恥ずかしくねぇのか……」
恥ずかしいとかそういう問題じゃない! これは私とリコロンの個人の尊厳を賭けた戦いだよ!
向こうも同じ気持ちなのかお互いに睨み合ったまま一歩も引かない。
「やれやれ……。なぁ、リコロン。お前がスィア達を心配するのも分かるが、ホルスちゃんも元神官で悪い奴じゃないみたいだし、何よりスィア達が自分達で決めて選んだ人なんだからよぉ。ちょっとぐらいやらせてやってもいいじゃねぇか。お前も前からパーティーにヒーラーがいないの心配してただろ? ホルスちゃんは教会から来た優秀……、かどうかは置いといてヒーラーだぜ! なら、お前もこれで安心だろ?」
ギルドマスターに窘められたリコロンはギリギリと歯をきしませながらもこちらからゆっくりと離れた。
まずは一勝といったところかな……! へへへ!
「分かりました……! 分かりましたよ……! そこまで言うのならいいでしょう!」
「おぉ、珍しく物分かりがいいな! リコロン! さすがは室長だ! じゃあこの話はお」
「面接です!」
え? 何? 何? 面接? なんで?
「ホルスさん! あなたが本当にこのパーティーにふさわしいか! 私とメンバーのみんなで面接させて頂きます! よろしいですね!?」
「え? え? ちょっとまって、なんで面接? 私が? いや、もうスィア達からいいよって言ってもらってるんですけど!」
「やるったらやりますから! 絶対やる! やらなきゃ認めない! これから!」
「これから!?」
これからなんてどうしようもないよ! え? 面接って何聞かれるの!? 志望動機とか!? そんなの急に言われてもないよ! 私だって急に入ってもいいよって言われただけだし!
でもさっきまであんなに言い合いしてたのにこんな所で引けないよ!
「い、いいですよ! 受けて立ちましょう! やりましょう、面接! ぜったい受かりますからね!」
「言いましたね! マスター! 会議室使いますからね! ぜったい落としてやりますから!」
「落とす前提の面接官なんてアリなんですか!? スィア達も面接官にいれてください! スィア達のパーティーなんですからね! それは入れてくださいよ!」
「お前ら! ちょっと落ち着け!」
ぶっとい腕がリコロンと私の頭を掴まれて押さえつけられる。
ものすごい力で頭を押さえつけられて全く頭が上がらない。
それはリコロンとお互い同じのようで、向こうも押さえつけられるままに頭を下げている。
しかし、それでもお互いに相手の顔を睨みつけるのは止めない!
「リコロン! どうしても今日中にお前に頼まなきゃならない仕事がある! 明日から新しい受付嬢が入るからその準備だ! お前にしかできねぇ! 明日までに間に合わせるからこれからやって貰わないと!」
「え!? 新しい受付嬢!? 私聞いてないんですけど! いつから来ることになってたんですか!?」
「いやー、急に決まったことでな! めちゃくちゃ忙しいんだ! 他にも色々仕事が立て込んでてな! お前じゃなきゃ出来ねぇ! 頼りにしてるぜ、室長!」
「え、え、そんな、だって私今、え、えぇ? えぇー!?」
ギルドマスターはリコロンにそんな話をしながら、後ろ手でシッシッと追い払うような仕草を見せた。
どうやら今のうちに行けという合図らしい。
寄ってきたチアツィが私の腕を掴んでそのまま部屋の扉の方へと向かった。
アイサちゃんはルイダがその手を引っ張って、みんなで揃ってその場を後にしていく。
そうして逃げるように部屋から出ていった後、ギルドマスターの部屋がバーンと開かれた。
「明日! 明日、朝九時から面接やりますからね! 逃げないで下さいよ! ホルスさん!」
誰が逃げるか! 覚悟するのはそっちだからな!
リコロンに向かって舌を出して返事を返してやると、リコロンは悔しそうな顔をしてギルドマスターの部屋に戻っていった。