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第6話 え!? こんな状況からでも入れるSランクパーティーがあるんですか!?

 怒り狂う私をよそにヒゲ男とスィアはお互いに睨み合ったまま一歩も引かなかった


「ほぅ、それじゃあ嬢ちゃんは最初からこの女が『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』だと知ってた上でオレ達を泳がせてたってわけかい?」

「『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』と直接の知り合いではない。ただ『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』の話は冒険者ギルドにいれば誰の耳にでも入ってくる有名な話。だから『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』の事はこの辺の冒険者なら誰でも知っている」

「ねぇ、お願い! お互いにその呼び方やめない!? 普通にホルスって呼んでください! 呼び捨てでいいからさ!」


 どちらもこちらには一瞥することすらなく、お互いにその視線から一瞬も目を離さない。


「……なぁ、お嬢ちゃん。ふざけるのもいい加減にしてくれねぇか。こっちも仕事でやってんだ。さっきも言っただろう? こいつは貴族様の所に届けなきゃなんねぇんだ。そいつが届かなったとなれば、お嬢ちゃんたちもどんな目にあうことやら……。ここで手を引いてくれりゃあ黙っててやってもいいんだがな……」

「最初に嘘をついた以上その説明も信じることは出来ない。だから、ホルスと女の子は私達がつれていく。もしも本当で弁償が必要な時は冒険者ギルドの窓口にどうぞ」


 ヒゲ男は大きくため息吐いた後ようやくつかんでいた手を離したので、スィアも合わせてその手を離した。

 ヒゲ男に掴まれていた肩を手でパッパと払うと、アイサちゃんの腕を掴んでスィアの後ろに隠れる。

 

「あー、オレは聞き分けのねぇガキは好きじゃねぇんだ。もう一度だけいうぞ。その女から手引け。後悔しねぇうちにな」

「別にしない。それじゃあ、私達はこれで」


 金属のぶつかりあう音を響かせてヒゲ男の抜き放った剣をスィアは盾で受け止めた。

 ヒゲ男はそのままスィアを押し倒そうとさらに強く一歩踏み出す。

 対抗するスィアも腰を落として盾で剣を押し返す。

 遠くでフードを被った男の二人の内の一人が懐に隠していたボウガンをスィアに向けて構えた。

 

「あぶない!」

 

 伝えようと叫んだのとほぼ同時にボウガンから矢が放たれる。

 放たれた矢はスィアに向けて一直線に飛んでいき、当たる直前で横から飛んできた別の矢によって弾かれた。

 ルイダはそのまま二射目を撃つ体勢に入り、矢をつがえて構える。

 スィアの後ろにいた私とアイサちゃんをチアツィが後ろに引っ張り、庇ってくれるように私達の前に出た。

 もう一人のフードの男が同じくボウガンを構えてルイダに向けてお互いに牽制しあった。

 ヒゲ男は剣を振り上げてスィアの盾を足蹴にして、その足に全体重をかけて押しつぶすように力を込める。

 スィアは咄嗟に剣に持ち替えると盾を捨ててクルリと地面を転がって逃げた。

 立ち上がったスィアは踏みつけた盾を睨みつけるヒゲ男に向けて剣を構えなおした。

 隣にいたソシィは杖を構えて体の周りにいくつかの小さな魔法陣を作り出して魔法を放つ準備をする。

 こちらとヒゲ男たちとお互いに睨みつけあい、静かな沈黙が続いた。

 

「……クソガキ。必ず後悔させてやるからな。覚えておけよ」


 そう吐き捨てるとヒゲ男は背中を向けて森の中へと逃げていく。

 武器を構えていたフードの男たちもその後につづいて森の中へと姿を消していった。

 相手を見送ったスィアが剣を収めると、ルイダとソシィも武器を納める。

 一気に緊張の糸がほどけて、腰の力が抜けてその場にへたり込んだ。


「ホ、ホルスさん! 大丈夫ですか!?」

「う、うん、アイサちゃん。平気、平気。ちょっと気が抜けちゃっただけだから。私生きてる、ハハハ」


 もうほんと一気に疲れがやってきた。

 もうなんでみんないきなり戦いだすの! 話し合いで解決してよ! 暴力反対!

 怖かったよー! 誰か死ぬかと思ったー!

 ほんと助かってよかったー! ありがとー女神様ー!

 ハハハと乾いた笑いを漏らしていると、横で見ていたチアツィが手を差し出してくる。

 

「大丈夫か、『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』。ほら、掴まって」

「その名前で呼ばないで下さい。ホルスでお願いします」


 その手を取ってゆっくりと立ち上がった。

 スィア達の方に振り返り、小さく咳ばらいをして改まって挨拶する。


「助けて頂いて本当にありがとうございました。Sランクパーティーのみなさん。私は、皆さんしって貰えているようですけど、元神官で冒険者のホルス! ホルスといいます」

「知ってるー。『ムチムチプリンのー

「ホルスです! 私の名前はホルス! それからこちらがアイサちゃんです。よろしくお願いします」

「ア、アイサです。よろしくお願いします。みなさん、助けてくれてありがとうございました」


 アイサちゃんが礼儀正しく深々と頭を下げた。

 もうほんとここまで色々ありすぎたけど、とにかくアイサちゃんの事守れてよかったです。

 それはちょっと人に褒められるような助け方ではなかったですけれども……。

 しかも知らなくてもいい事実まで判明してしまいましたけども……。

 それでもアイサちゃんが無事だからよかったです。

 一番大切なことはそれなんですから。

 女神様、感謝いたします。

 

「あの、それじゃあ私が馬車でみなさんの事お送りしますので……! が、頑張りますので! よろしくお願いします!」

「あ! はいはい! 私も! 私も手伝いますからね! 頑張ろうね、アイサちゃん!」


 アイサちゃんに顔を合わせてニッコリと笑いかける。

 見返したアイサちゃんもニッコリとほほ笑み返してくれる。

 アイサちゃんの笑顔を今日初めて見れた気がする! これだけでも頑張った甲斐があるってものですよ!

 もう何でもこいってんですよ! この笑顔の為なら私はなんだって頑張りますからね!

 そんなことを考えてる私の方をスィアがチョイチョイとつついてきた。


「大丈夫。馬車は私とチアツィで動かす。何回か使ったことあるから慣れてる」


 って、エー! せっかく二人でやる気出してたのにー! 


「使えるなら使えるって早くいってよ! せっかくこっちでやる気出してたのに!

ちょっと前のやり取りなんだったの!」

「その時は馬車は使える話じゃなかったから。今は男の人もいなくなったし、この馬車は私達で冒険者ギルドまで持って帰って説明する。大丈夫。二人の事は町まで私達で必ず守る」


 その言葉に思わず口をつぐむ。

 守るって! そんな事言われたらこっちから何も言い返せないじゃないですか!

 何この子美人な上にイケメンなの!? こんな優しい対応されたの教会に居た時以来だよ!

 

「いいよー、アイサちゃーん。ホルスちゃーん。こっちこっちー」


 ルイダが馬車の荷台から大きく手を振って呼んでくれる。

 アイサちゃんと二人で呼ばれた場所へと向かい、体を支えて馬車に乗るのを手伝ってあげた。


「ありがとうございます。ホルスさん」

「ウフフ。いえいえ、こういうのは私の得意分野なので」


 孤児院で手伝ってた時もいつもこういう事してたからね!

 後に続いて大杖を担いだソシィがやってくる。

 身長は頭が馬車の荷台を少し超えるぐらいで乗り込むのは一苦労だろう。

 子供とはいえ町まで私達を守ってくれる大切なお方です。

 手伝うのが人として当然だよね!

 手を差し伸べるとソシィがビクっと体を震わせた。


「アハハ。怖がらなくてもいいよ。乗るの手伝ってあげる」

「あ、は、はい。ありがとうございます」


 ソシィは一瞬ためらいを見せた後、こちらの手を取る。

 その体を後ろから優しく支えてあげて馬車にのせてあげた。

 ソシィが乗り込むとルイダは楽しそうな顔をしてこちらによって来た。


「アハハー。大丈夫ー、ソシィー? エチエチになってないー?」

「う、うん。たぶんなってないと思うけど……」

「こらこら! 手伝ってあげた人に失礼じゃありませんか! 私はエチエチなんかじゃありません! 清廉潔白ですからね!」


 ルイダの事を窘めなつつ馬車に乗り込む。

 まったくもう! いったい誰が私の事を『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』だなんて呼んでいるんだか! 絶対に犯人見つけ出してやるんだから!

 

「みんな、行くよ」


 馬車の前の方からスィアの声が聞こえた後、手綱を引く音がして馬車が動き出した。

 ガタガタと馬車が動き始めると、ニコニコしたルイダが話しかけてくる。


「それにしてもすごい偶然だったねー。こんなところで有名なあの『ムチムチプリンの――』」

「ん!?」


 険しい目線を向けるとルイダは口元に手を当ててすぐに言い直してくれる。


「有名なホルスさんに会えるなんてー。前に見たことあるけどやっぱりすごいおっきいお胸ー。ソシィの千倍はあるよねー。さわってもいいー?」

「こらこら。初対面の人にそんなこと聞いたらダメでしょう。まずは名乗ってからにして」


 名乗ったら触ってもいいのかというとそんなことはないけれど。

 人懐っこいのはいいけれど、どうにもデリカシーとか初対面の人との距離感とかが足りないエルフちゃんだなぁ。

 注意されてもエヘヘって笑ってるし、天然な子なのかなぁ。

 このエルフの子はちょっと要注意だね。


「私ルイダだよー。ルイダ=イメンドっていうの。よろしくねー」


 いつもの笑顔がさらに口角が持ち上がって花が咲くようにかわいらしい笑顔になる。

 その笑顔には思わずこっちの頬もデレデレに緩んでしまうほどに可愛らしい。

 多少の失礼があってもどこか憎めない、もしも姉妹なら末っ子タイプの子かもしれない。

 

「よろしくね。私はホルス=タインです。決して『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』なんて名前じゃありませんからね! そこだけは間違えないように!」

「アハハー。はーい」


 ホントに分かってるのか、ゆるい返事である。

 すると今度はアイサちゃんがおずおずと前に出て声を出した。


「あの、私はアイサです。アイサ=レテールって言います。よろしくお願いします」

「アハハー。よろしくねー、アイサちゃんー」

 

 自己紹介をしたアイサちゃんにルイダが笑顔を向けるとアイサちゃんの顔もつられて笑顔に変わった。

 私が引き出すのにあんなに苦労したアイサちゃんの笑顔をこんな簡単に引き出すなんて……、これがSランクのコミュニケーション能力なんだろうか。


「ほらー、ソシィー。ソシィも挨拶したらー?」

「あ、私ですか?」


 馬車の荷台で足を崩していたソシィは姿勢を正してちょこんと正座しなおした。

 

「私はソシィオロ=ヨウキフです。みんなからはソシィって呼ばれています。よろしくお願いします」

「ソシィはねー、私達の中で一番胸が小さいこと気にしてるんだー。だからホルスさんの胸が余ってたら分けてあげてほしいなーって」

「ル、ルイダ……! 余計なこと言わなくていいです……!」

「大丈夫だよ。大人になったら自然に大きくなってきますから。ソシィちゃんはまだまだ成長途中なんだから、そんなこと全然気にすることないですからね」

 

 ホントにこれが分けられるならいつだって分けてあげたいぐらいだよ……。

 身長は大きくて便利な事はあっても胸が大きくよかったことなんてないし、小さい方がかわいいと思う。

 ルイダはピョンと飛び上がり、馬車の前方にいるスィアとチアツィの所に向かった。


「それでー、こっちの赤い猫がチアツィでー、白い方がスィアだよー」

「紹介するならもうちょっとまともに紹介しろよ。アタシ、チアツィ=エルモ。よろしくな」

「スィア=イメッタです。よろしくお願いします」


 スィアは真っ直ぐ前を見たまま、チアツィは半分だけこちらを振り返って返事をした。

 最初はぶっきらぼうな口調で乱暴な子かと思ったけど一応は人への気遣いはするチアツィに対して、最初は真面目だと思ったけども、真面目を通り越して余計な気遣いは一切しない仕事人なスィア。

 Sランクパーティーなんていいつつ、全員見た目が未成年の女の子なだけでも驚きなのに、その性格にもなかなか癖のあるメンバーである。

 馬車の前方にいたルイダがまたコチラへと戻ってきて今度はアイサちゃんの隣にしゃがみ込んだ。


「ねぇー、アイサちゃんー。アイサちゃんのお父さんってもしかして聖騎士さんだったりするー?」

 

 問いかけてくるルイダにアイサちゃんの顔が驚きの表情に変わった。


「あ、あの! 私の父はカテッサ=レテールです! 父の事を御存知なんですか!?」

「あー、やっぱりー。カテッサさんの子供なんだー。私じゃなくてスィアが知り合いなんだよー」


 ルイダとアイサちゃんに視線を向けられたスィアは、真っ直ぐ前を見たまま小さく首をかしげた。


「ごめん、ルイダ。名前覚えてない」

「ほらー、大分前に白ヒゲのおじいちゃんと一緒にー、スィアの事を何度も聖騎士にスカウトしに来てた人だよー。スィアが断るのメンドくさくなってきたってグチってた人ー」

「あぁ、あの人。思い出した」


 アイサちゃんの顔が少し曇ったので、そっと肩に手を置いた。

 そりゃそうだ。実のお父さんが他人からそんな風に思われてたなんて聞いたらショック受けるよ。

 この子達はせっかくのSランクなんだから他人への気遣いもSランクになるべきだと思う。

 アイサちゃんは頑張って気を持ち直して口を開いた。 


「あ、あの……、それで父の事を他に何か御存知ないでしょうか? その、父の遠征の事とか……」

「カテッサさんに会ったのってもう1年も前だからさっぱりだねー。何かあったのー?」


 アイサちゃんはキュッと唇の端を噛み、気持ちを整えてから言葉を口にする。


「その……、父が遠征先で魔物に……、殺された、とか……」

「それはない」


 スィアがキッパリと声に出して言った。


「あの人はすごく強い。その辺の魔物に負けるような人じゃない」

「アタシも信じられないな。あの人は魔物にやられるような奴じゃない」

「スィアとチアツィの二人よりも強かったもんねー。あの人が魔物に負けるとは思えないなー」

「アタシは負けてない。スィアのタイミングが悪かっただけ」

「うん。チアツィが私の言う事をちゃんと聞いてくれてたら勝ってた」


 言った後に無言で見つめ合うスィアとチアツィ。

 二人ともさっきまでと変わらない表情をしているが交差した視線がバチバチに火花をあげている気がする。

 そんな事にも我関せずと言ったようにルイダはニコニコ笑顔である。

 

「アハハー。ともかくー、私達の知ってるカテッサさんなら魔物にやられるなんて絶対ないから大丈夫だよー」

「そ、そうですか……! あの、ありがとうございます!」

「アタシも信じられないな。その話は何かの間違いだと思うぜ。それにそんな強い魔物が出たんなら前みたいに冒険者ギルドから私達に呼び出しが来てるはずだろ。町に着いたらギルドマスターに聞いてやるよ」

「はい、はい! お願いします!」


 アイサちゃんはチアツィに向けて深く深くお辞儀した。

 目に涙を浮かべているがその顔はどこか晴れやかな明るい笑顔だった。

 私はただ黙ってアイサちゃんのそんな横顔を見て微笑んでいた。

 え? アイサちゃんのお父さんってそんなに有名人なの? もしかして同じ教会に所属してて知らない私って年上としてかなりマズイ? 

 でも、今更そんなこと言われたって私もう教会の所属じゃないし、もう調べる方法も頼れる人もいないから今更知る由もないし。

 よし、もしなんで知らなかったのか聞かれても偶然たまたま何かの手違いで知らなかったんですで押し通そう。

 たぶん嘘じゃないですし、これぐらいは許されますよね、女神様?

 私はただ微笑みながらアイサちゃんの横顔を見つめた。

 その横でソシィが小さく手を挙げて発言する。


「あの、私思ったんですけど……、もしかしてその話でやられたのって、魔物にじゃなくて……、女の人ってことはないですか……?」


 聞いた瞬間にルイダ、スィア、チアツィの三人がそろって「あ~」なんて声を上げるもんだから思わずビクリと体を震わせた。

 

「確かにー、いつも周りに女の人いたもんねー。白ヒゲのおじちゃん以外はずっと隣に女の人が立ってた気がするかもー。確かにー、その可能性はー……」

「あぁ、確かに……。あの人、すごいモテてたもんな。女冒険者の人にバツイチの高給取りだから玉の輿のねらい目だって言われてた。そっか、それはあるかもな……」

「うん、女冒険者の人だけじゃなくて、村の女の人にもすごく人気だったの思い出した。いろんな人と酒場に来て毎日別の人とお酒を飲んでた気がする。否定はできない」

「わ、私、実は、あの人が酔っ払って女の人と肩を組んだり、その、抱き合ってるのを……、見ちゃっ、たり……」

「お父さんっ……」


 アイサちゃんの全身がその場に崩れ落ちる。

 その顔の曇り具合はさっきまでの比じゃない。ショックで目が死んでる。

 生きてる可能性が出たことには喜ぶべきことだけど、愛人説はもうかなり濃厚になってきたよ。

 アイサちゃんのお父さん? あなたの罪はとても重いものとなりました。アイサちゃんの為に今すぐ悔い改めてください。

 馬車の中の空気がどんよりとかわり誰も気まずそうにお互いに目を合わせない。

 アイサちゃんの隣のルイダすらはにかんだ笑顔のまま口を開こうとはしない。


「あ、あのさ、『デルモウィーク』のみんなってもう知り合って長いの? みんな昔からの幼馴染みとか?」


 このまま町につくまでどんよりしたまま馬車に乗ってるわけにいかないよ!

 年上として何とか場の空気を和ませないと!


「あー、四人とも幼馴染みといえば幼馴染かもねー。私達4人ともお隣さんだったからー」

 

 よくやったルイダちゃん! いいぞ、ここから話を広げていこう!

 明るい話題を取り戻すんだ!

 

「へ、へー! じゃあ小さい時から一緒に同じ村で育ってきて、みんなで冒険者になったってこと? 仲良しなんだねー!」

「どうなんだろうねー、お隣さんだったけど小さい時からみんな一緒だったかは誰も分からないんだー」

「え、えーっと……、それはどういう?」

「私達みんな二年より前の記憶が誰もないんだよねー。なんかある日、気づいたら一緒にいたみたいなー」

「えぇ!? それってどういうこと!?」

「お父さんとお母さんらしき人が言うにはー、弓の練習してる時に木の間を飛び回らせてるうちに足を滑らせて落ちて記憶をなくしたんだってー」

「えぇ!? 子供にどんなハードな鍛え方してるの!?」

 

 噓でしょ!? ルイダちゃんのご両親は10歳の子供にどんなハードな芸を仕込もうとしてるの!?

 しかもルイダちゃんエルフ耳なのにまだ12歳なの!? 普通エルフってもっと長生きして年上だったりするんじゃないの!?


「アタシは山で熊相手に特訓してる時に運悪く頭にぶつかって記憶を失ったらしい」

「わ、私はダンジョンにもぐって魔物相手に三日三晩休まず魔法を使っていたら、倒れてそれまでの記憶をなくしたそうです……」

 

 続けて話すチアツィとソシィの言葉に思わず耳を疑ってしまう。

 この流れ、もしかしてスィアも……!?


「私は体力づくりで雪山に行かされて、一週間遭難してそれまでの記憶を失ったらしい」

「いや内容も内容だけど、みんな記憶失いすぎだよ! そんな都合よく消えるかー!」


 ルイダがアハハーと笑って、ニコニコしたまま話をつづけた。


「誰でもそう思うよねー。それにお父さんとお母さんはエルフじゃないんだー。隔世遺伝なんだってー。意味はよくわからないけどー」

「隔世遺伝!? エルフが!? ちょっと私も意味わかんない!」

「そうなのー。しかも下に二人兄弟がいて二人とも普通で私だけエルフ耳ー」


 ルイダが指先で尖った耳の先をピンピンとはじいて見せた。  


「そんなことってあるの!? でも、ご両親がそういうならホントなのかな……?」

「ううん、たぶん嘘ー」

「嘘なの!?」


 ルイダがアハハーと笑っていると今度はチアツィが声をあげる。


「アタシは5人兄弟姉妹でアタシだけがこの獣耳と尻尾なんだよ。お父さんが昔酒場で獣人の女の人とワンナイトしてその時出来た子供を引き取ったのアタシだって」

「出生の秘密がハードすぎるよ! お父さん何してるの!」

「あぁ、でもたぶん嘘なんだ。お父さん下戸で前にコップ一杯の酒で吐くのを見たからワンナイトなんて出来るわけないと思うんだけど、そういうなエチエチな事になると話って違うのか? どうなの、ホルス?」

「えぇ!? 私に聞かれましても! エチエチな事にご縁がないので!」


 横で聞いていたソシィが小さく手を挙げて口を開いた。


「あ、わ、私の両親はどちらも普通の人で私は二人みたいな事はないんですけど……」

「あぁ、そうなんだね。ソシィちゃんは普通なんだね」

「でも、お父さんが四十歳でお母さんが二十七歳の年の差婚なんです。それで私の年齢を十二歳だとして逆算すると、二十八歳のお父さんが結婚して子供を産ませた相手が十五歳のお母さんってことになっちゃうんです。そうすると十五歳だったお母さんは自分の倍近い年齢があるオジサンと恋愛をして私と産んだという話になるんですが……、しかも私の三つ下の妹もいて、そうなると十八歳の時にも……これはもう絶対ありえないなって思って……」

「こ、これは、ちょっと……! あの、それでスィアちゃんは……」


 最後の一人、スィアはゆっくりと口を開く。


「私の両親は二人とも女。コウノトリが運んできたって言ってた」

「……スー……」


 もう常識はずれ過ぎてツッコミも何も出来ないよ。

 女と女から女が生まれてくるようになっちゃたらもう男性が地上からいなくなっちゃうよ。

 まさかコウノトリさんが世界の理を滅ぼす存在になるなんて誰も思いもよらなかっただろうね。


「その後、二人とも別の男の人と結婚して子供を産んで今は弟と妹が二人ずついる」

「もう何がどうなったらそんなことになるの!? ややこしいなんてレベルの話じゃないよ!」


 女二人で結婚して娘がいる状態から別れてそれぞれ別で結婚し直して子供を産んだの!?

 聞いたことを後悔するレベルの事情の複雑さだよ!


「そんな感じで私達はみんな実質的に出生不明という感じでしてー、みんな二年ぐらいお隣さんで過ごしてたんだけど、なんとなく家に居づらくなった四人で冒険者になりましたー」

 

 ルイダは明るく笑顔でそんなことを言うが、つられて笑えるほどの元気もなかった。

 重いよ! 冒険者になった理由が想像以上に重いよ! 結成理由の重さがSランクだよ!

 せっかく助けて貰ったけれど本当に助けが必要なのは私ではなくてこの子たちの方なのでは?

 最近の子ってこんな境遇の中でこんなに頑張って生きてるの? 世間冷たくない?

 隣にいるアイサちゃんの表情も完全に死んで、もはや呆然としてる。

 しょうがないよ! 私だってなんて答えたらいいかわからないもん!

 女神様! 今のこの状況は私はアイサちゃんを救えたと言ってもいいんでしょうか? それともいまだに地獄は継続中ということでしょうか!?

 だめだ! こんな状況じゃ! 明るい話題! 明るい話題を考えなくちゃ!


「と、とにかく、あの、あれだね! アイサちゃん! 町についたら冒険者ギルドにいかなくちゃね! 生きてるかもしれないし、お父さん! まだ死んだとは決まってないから! 何か連絡とか来てるかもしれないし!」

「は……、は、はい! そ、そうですよね! ま、まだその可能性もありますもんね!」


 アイサちゃんの目に一筋の光が戻って意識を取り戻す。

 危うくこのままアイサちゃんの意識が帰らぬ人になるところだった。

 私がしっかりしてこの子の事を守ってあげなくちゃ!


「そうだねー。アイサちゃんは冒険者ギルドにいったらおハゲちゃんの所にいってー、それで、ホルスさんはどうするのー?」

「え?」


 ルイダに言われて少し考えてみる。

 えっと、とりあえずアイサちゃんに付き添いでギルドマスターの所にいってお父さんの話を聞くでしょ。

 その後はどうしよう。

 アイサちゃんの泊まれる場所を探す?

 でも私がそもそも借金してここにつれてこられてるからお金なんてないし、どこに泊めて貰えるの?

 宿屋のおじさんに頼んでみる? いや、すでに私の分ですら滞納してるのにこの上もう一人泊めてほしいだなんて言えるわけがない。

 教会に戻ればアイサちゃんは孤児院で面倒を見てもらえるだろうけど、教会にいく馬車にのる金がない!

 あれもこれもそれもどれも何をするにしてもそもそも私、お金がない!

 これからパーティーを探してまともに働いてお金なんて稼げるわけない!


「そうだよ! 私、町に戻っても仕事もお金もなくて生活していけないよ! どうしよう!」

「アハハー。お金ないのー? それは大変だー」


 そうだよ! 自分の事なにも考えてなかったけど私も極限状態じゃん!

 最悪、何があってもアイサちゃんの食事代と泊まる場所は確保しなきゃないしこれは……、これはもう……、体で稼ぐしか……!

 しかし、神官の身でそんなことをするわけには、いや、しかし、子供の安全が第一、いや、しかし、それは……!


「ホルス。ホルスは誰かとパーティーは組んでないの?」


 スィアがまっすぐな瞳でこちらを振り返ってそう尋ねてくる。


「うっ……、そ、それは……、ちょっと色々あって今は誰とも組めてなくて……」

 

 今は、というよりもホントはいつも、だけど。

 自分でも理由が分かるぐらいダメダメなヒーラーですし、パーティーなんて組めませんよ。

 戦闘では初級の回復魔法しか使えないほとんど足手まといだし、それでも寄ってくるような人はカラダ目当ての変な人ばっかりだし……。

 でも、今はアイサちゃんもいるんだから四の五の言ってられない。

 変な人でも何でもとにかく稼がなくちゃ。

 最悪……、体を売ってでも……。


「ホルスってヒーラーだったよね」

「え? は、はい。そうですけど……」

 

 スィアが続けて質問してくる。

 教会で回復魔法を覚えてきた由緒正しいといってもいい神官ですよ。

 使えるのは初級の回復魔法だけですけど。

 もっと高度な魔法を使えたらいいパーティーに入れたんだろうか。

 それこそ、この四人みたいなSランクパーティーに。


「それならちょうどいい。私達のパーティーに入ってほしい」

「え?」


 今なんて言った? パーティーに入って欲しい?

 私が? このSランクパーティーに?


「エ!? エェェェ!?」

  

 その場で飛び跳ねて、スィアのいる方へと馬車の前方までバタバタと四つん這いで駆け寄る。

 

「な、なんで!? なんで!?」

「私達のパーティーにヒーラーがいないから誰か入れなさいって受付の人にいつも怒られる。ホルスがヒーラーでどこのパーティーにも入っていないならちょうどいい。泊まる場所なら私達のパーティーで使ってる家があるから好きにつかっていい。部屋ならいっぱい余ってる」

「私!? 私でいいんですか!? 『ムチムチプリンのエチエチ大魔王』でも!?」

「うん。私が聞かされていたよりもずっといい人だと思うから。私は構わない。他の三人も反対しないと思う」


 バッと隣のチアツィと目を合わせるとゆっくりと口を開いた。


「アタシも別にホルスは悪い人じゃないからいいと思う」

 

 後ろのルイダを振り返る。


「私もいいよー。ホルスさん好きだから入ってくれたら嬉しいー」


 ソシィに目を合わせる。

 

「わ、私もホルスさんは悪い人じゃないと思いますので、反対しないです」


 最後にアイサちゃんに目を合わせる。


「あ、あの、えっと、が、頑張ってください! ホルスさん!」


 ゆっくりと顔を前に戻して、最後に遠くの空を眺めた。

 女神様、こちらからお知らせがあります。

 私、Sランクパーティーに入れることになりました。


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