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第二話 お金がないならギャンブルで増やせばいいじゃない!(破滅)

@ホルスの泊まっている安宿


 翌朝、早朝から宿屋の入口のカウンターの奥で座る店主に深く深ーく頭を下げる所から朝が始まる。

 

「ほ、本当にごめんなさい! もう少しだけ宿代のお支払いを待って頂けませんか!」

「あぁ、いいよいいよ。うちの宿屋も聖王教会には色々お世話になってるんだ。苦しい時はお互いさま、教会からきた神官様のお力になれるなら本望だよ」


 本当にもう下げた頭が上げられない。

 冒険者になるときに教会から支給されたお金はすでに底を尽き、手元の全財産は昨日倒したゴブリン討伐の少ない報酬、をさらにきっかり五等分した僅かなお金。

 もしもこれを払ってしまえば、私にはもはやパンの一切れをかじる事も夢のまた夢となり果てる。

 ひもじい、まさか人生でそんな言葉を身に染みて感じることがあるだなんて思いもしなかった。

 そんな中で宿代の支払いを待ってくれる、それも一週間も待ってくれるこの店主はもはや神と呼ばずにはいられない。

 この宿屋神がいなければ今頃は薄暗い街角でホームレスとして生活することになっていたのは間違いない。

 宿屋神様様、いまなら私の信仰は女神からあなた様に改宗してもいいとまで思ってます。


「んー……、もう一週間かぁ……」

「……」


 前言撤回いたします。何でもするからいますぐ助けてください女神様。

 頭を上げた時に私はどんな顔を店主に向けたらいいんですか。教えてください女神様。

 このまま私の腰か上がらないまま年をとっておばあちゃんになったら一体どんな体勢になっちゃうの? 二つ折り?

 そんな事になったら私はパンの一切れを食べるのも一苦労ですよ女神様!

 自分の信者が頭を逆さにしてパンをかじってる姿を見ても平気なんですか女神様!

 毎日毎日お祈りしてるんだから一週間の宿代ぐらいぽーんと貸してくださいよ女神様!

 返せるアテはありませんけどね女神様!

 

「で、出来る限りはやくお支払い致しますので……! し、失礼いたします!」


 頭は下げたままにくるりと後ろを向いて、それから顔をあげた。

 これならせめて顔は見なくてすむからね!

 マナーとしてはかなり良くないけど!

 背中に視線がザクザクと刺さってる気がするけど気のせい!

 逃げるように、ではなく元気よく宿屋の入口から外にでる。

 スタスタと歩いて宿屋から離れた後、大きく息を吸い、そしてため息を吐いた。

 

「どうしよう……」


 誰に宛てた訳でもない言葉がポロリと口から漏れ出てしまう。

 だってもうどうしようもないもん。

 ギルドに行けば知らぬ間に『パーティークラッシャー』なんて異名を付けられててマトモなところは入れてくれないし、誘ってくるのは変な人しかいないし、かと言って一人で魔物を倒しにも行けないし、子供でも使える回復魔法しか使えないし、武器もないし、お金もないし、お腹すいたし、行くところもないし、友達もいないし……。


「あー、もう! 女神様のバカ! なんで私が冒険者なんかやらなくちゃないのよ! いつでも見守ってくれてるならそれぐらいの事分かるでしょ! 私が冒険者なんかなれるワケないよ!」


 頭をぐしゃぐしゃにかきむしりながら大通りで思いっきり叫んだ。

 通りすがりの人がびっくりしてようがもう関係ない!

 二か月間自分なりに頑張ってきた! でももう限界! 教会に帰りたい!

 お祈りしたりお掃除したりお洗濯したり教会の孤児の子に勉強教えたり食事をつくったり一緒に遊んだりお昼寝したりしたい!

 あぁ、あの頃が懐かしいよ。今すぐ戻りたいよ。

 教会にいた時は周りのみんなは勇者みたいなかっこいい冒険者様と一緒に旅したりするのを夢見てた人も沢山いたけど、私はそんなものよりも明日はどんな料理作ってあげようかなとか一緒に何して遊ぼうかなとか子供と過ごす明日を夢見てる方が好きだったんですよ。

 そのために初級の回復魔法だけはがんばって覚えてシスターの資格だけは取って、いつか教会から出される時は田舎の小さな教会とか孤児院とかに務めて子供と仲良く暮らしていければいいなって思ってたのに!

 それがなぜがどうしてどうなったら私が冒険者になるんですか!

 パーティーメンバーが私の目の前で大怪我なんかされても私は治せませんからね!

 女神様は冒険者の命を大切に思ってないんですか!? 大切に思っているなら私よりも回復魔法が得意だったフレンちゃんとかレンドちゃんと入れ替えるべきだと思います! 前から冒険者になってみたいっていってたし夢を叶える事も出来るし一石二鳥ですよ!

 その二人じゃなくたって私より向いている人いっぱいいたじゃないですか……!

 どうして私なんですか……。

 頭を抱えてその場にうずくまり、またため息をついた。

 お腹の虫がキュルキュルとなるのは空腹なのかストレスなのか。

 何もしなくてもお腹だけはただ空いていく。ただ空しい。

 もう一つ深いため息を吐き捨てた後、ゆっくりと立ち上がり足を前に進める。

 とにかくご飯を食べて今日も冒険者ギルドに行かなくちゃ。

 朝ごはんを食べたら手元のお金はもうなくなってしまう。

 どれだけ気が進まなかろうと、どうにかお金を稼がないと生きていけない。

 立ち上がる前にもう1つおまけにため息をついてノロノロ動き出すと、年季の入ったボロボロの靴が現れた。


「おやおや……、嬢ちゃん。もしかしてだけど、お金に困ってるんじゃないかい?」


 顔を上げるといつの間にか目の前にでっぷりとした腹にシミだらけ顔をした小太りのオジサンが立っていた。

 古臭いコートを着て使い古した帽子を目深に被ったその様相からはとても真っ当な生き方をしている印象は見られない。

 これを怪しいと思わないのは教会から冒険者として派遣されたばかりの世間知らずの小娘ぐらいだろう。

 こういうのについていくとよく分からないうちに露出の多い恥ずかしい服を着せられそうになったり報酬が高いからと怪しい仕事を手伝わされそうになったりするのだ。

 残念だが今の私はそんな話に騙されるような小娘ではない。

 この二カ月で私は成長したのだ。シーフさんにも言われてるし。

 こういうのは最初に毅然とした態度でハッキリ断るのが大事。


「悪いですけどこう見えても私は女神様に仕える神官の一人です。教えに反するような行いは出来ませんのでそう言ったお話はお断りさせて頂きます」

「ありゃ、そりゃ残念! なーんてな。安心しなよ。風俗や裏の仕事の紹介なんかじゃあないさ。ただ困ってる神官様の力になってやりてぇだけだよ。こう見えても神様には毎日お世話になってるもんでね」


 ムムムっ……? なんだこのおじさん。

 お金がないだけで聖王教会の信徒の1人とかだったりするのかな?

 まぁ教会の活動の中にも貧しい人達に炊き出しして食事を振る舞ったり清潔な衣服を配給したりすることもあるし、私もよく参加してましたからね。

 この二ヶ月の経験で人を疑う事になれすぎたのかな……。

 よく考えたら身なりだけで相手の人となりを判断するなんてシスターの資格取得者として人間性に問題アリになっちゃうもんね。

 話ぐらいは聞いてあげてもいいかな……。


「ンンッ。失礼致しました。それでお話とは一体どのようなものでしょうか?」

「へへへ、女神様に感謝を。なぁに、簡単な話さ。嬢ちゃん、今いくらなら金があるんだい? それをちょちょーっとするだけで簡単に稼ぐ方法があるんだが興味ないかい?」

 

 あーあ、聞くだけ時間の無駄だった。

 ただの風俗業のスカウトじゃないですか。

 そんなの女神様の教えを守る神職に勧めるなっつーの! っていうか女神様も見守ってるならそんな人を信仰者に会わせてくるなっつーの!

 

「すみませんけど! 私は女神様に仕える神官です! 例えどれだけ苦しい生活を強いられようとも、そういったお仕事をお受けすることは生涯に誓ってありませんのでお話はこれで終わりという事で!」

「ブハハハハ、早とちりな女神さんだなぁ! たしかに嬢ちゃんの体は貴族様だって欲しがるくらいの素晴らしいもんだが、オレが言ってるのはそういう話じゃあないさ」


 大口を開けて下品に笑った怪しいオジサンは口元をニタリと歪めて黄ばんで汚れた歯を見せつけてきた。


「嬢ちゃん、『競馬』って知ってるかい?」


ー ー ー ー ー ー ー

@町外れの競馬場


「あー! トップを走っていた馬が突然よろけ、そして、そしてきたー!! 大外から追い上げてきた六番が今! 今! 六番がトップに躍り出たー! 六番そのまま後方をどんどん引き離していく! 大穴六番! 最後の力を振り絞り、目の前の名だたる強豪を押しのけて今トップを独走です! ゲストで貴族ののルイワ=ツーヤさん! この展開いかがでしょうか!?」

「いやー、今日は大変な日ですねー。番狂わせのトラブルがこうも三回続けても起こるなんてすごい日ですよー。いやホント」

「あー! 六番、今最後のコーナーを抜けて! 二番三番を大きく引き離したまま、今、今、今! ゴールー!! 一着六番ー! これは大穴だー!」


 六番の布を纏った馬が一等でゴールロープを駆け抜けたのを観客席の最前線で確認した瞬間、腕を振り上げながら勢いよく席から立ち上がった。


「やったー! やった! やった! やったー! 大当たり! 十三倍ですよ! 十三倍! オジサン聞いてます!? 十三倍ですよ! ねぇオジサン!」

「ブハハハハ! いったろぅ! この馬は間違いなく今日絶対に来るってよ! 女神様のくれた直感のいう通りってなもんよ!」

「ホントにオジサンの言う通りです! 当てたのもうコレで3回目ですよ! オジサン、女神様に愛されすぎなんじゃないですか!?」

「ブハハハハ! だーから言ったろぅ! オレは女神様にゃあ毎度毎度お世話になってるからなぁ! こんな儲からせてもらってるのに道端で困ってる神官様を見捨てちゃあこの運も底を尽きちまうってもんよ! 嬢ちゃんも女神様にはよーく感謝したほうがいいぜぇ!」

「キャー! もう女神様大好き! 超愛してる! 結婚してー!」


 女神様への愛の代わりに手元の馬券にたっぷり頬ずりしておく。

 絶対当てるからというオジサンの言葉と、どうせ朝食一回分だけの少額だしと自暴自棄な気持ちで手持ちのお金を全賭けしたらなんと三度目の大勝利!

 1レース目では一番人気の馬がなんと中盤で急にコースの外に外れていってそこから大混戦になってオジサンの予想していた馬が一着で四倍に!

 それだけでも奇跡なのに、オジサンが絶対当てるから全額賭けなという熱弁にほだされて嫌々賭けた2レース目では最初にゲートから飛び出した馬同士がぶつかるトラブルが起きて荒れに荒れてまたまた買った馬券の馬が一着になってなんとなんと九倍に!

 そしてこの3レース目でなんとなんとなんと! 十三倍に!

 たった朝食一回分でしかなかったお金が4×9×13でなんとなんとなんとなんと! 468倍に!

 信じられない! 朝食が468回も食べられるんだよ! 信じられない!

 それだけじゃない! 宿代も払えるし新しい下着も買えるし他にもなんだって出来る!


「ヒャッハー! 女神様最高無敵愛してるー! 女神様の事信じててよかったー! さぁ、オジサン! 換金に行きましょう! 今夜はパーティーですよ!」

「ブハハハハ! そりゃ助けた甲斐があるってもんだ! 二人の出会いに、女神様に感謝を!」

「女神様に感謝をー!」


 うっきうきの足取りで換金所に向かう。

 あぁー、もうどうしよう! お金が入ったら何しようかなー!

 とにかく宿代は払うでしょ、その後は色んなお店を回って欲しいもの買ってー。

 そうだ! シーフさんと魔法使いさんを探して一緒にご飯食べよう!

 あの二人にはとってもお世話になったんだもの! それぐらいして当然だよ!

 冒険者ギルドにいたら見つかるかな? 二人とも冒険者だし見つかるよね!

 まぁ、もし今日見つけられなくても全然平気だけどね! だって、今の私は468日もご飯食べられるんだから! 明日また探せばいいよね!

 換金所について馬券を渡す。

 受付の人は券を受け取るとお金を用意するために奥へと向かっていった。

 高額当選だからねー。時間かかるよねー。

 焦らない焦らない。今の私には余裕があるからね。時間も、お金も!

 オジサンと二人でゆっくりとここで待ってますからねー。

 

「もし。そこのお嬢さん。随分と調子がいいようですね」


 受付で待っていると一人の男が近寄ってきて声を掛けてきた。

 なんだか高そうな綺麗な服に身を包んで首と手にはこれまた高価そうな宝石やら装飾品をジャラジャラと身に着け、金ピカのメガネをかけたヒョロヒョロの男がそこにいた。

 

「どなたですか? 私は今忙しいんですが……」

「ホホホ、これは失礼を。私はアークニン商会を経営させて頂いているアークニンと申します。先ほどの観客席でのご様子を伺いました所、どうやら随分と調子のよいご様子で」


 うわっ! さっきの見られてたのかー! 観客席の一番前で大分浮かれちゃってたからなぁー……。

 恥ずかしい……。冷静に考えたら私が勝ってても周りには負けてる人もいるんだもんね。

 そんな人から見たら面白い姿じゃなかったよね。ちょっと反省しよう……。


「お見苦しい物をお見せしてすみませんでした。今後は自重いたしますので……」

「あぁ、いえいえ。そういうお話ではないのですよ。どちらかといえば、その逆。我々も是非その運にあやからせて頂けないかと思いましてね。」

「え?」


 男は左手の中指でメガネをクイっと持ち上げて見せた。

 

「どうです? 一つ我々の代わりに賭けてみませんか? 我々も少し事情がありましてね。百万をお貸ししますので買った後に二百万をお返し頂けないでしょうか? 二百万以上はどれだけの金額を勝とうとあなたの取り分で構いません。例えば、百万の十三倍で千三百万儲けようと我々に返すのは二百万だけ。残りの千百万はまるまるそちらに差し上げます。それだけあれば恐らくは数年は働かずに贅沢三昧出来ることでしょう。我々としても色々事情があってどうしても急ぎで要り様な物がありましてね。どうやらあなたは随分と愛されておられるようですし、ここは一つ、私達もあなたにあやからせて頂けないものかと思いましてね」

「はぁ……、そうですか……」


 なんかよく分からないけど急に話しかけられてそんな話されてもなぁ。

 そんなに儲かるって言われても別にもうお金に困ってはないし、そりゃお金はあればあるほどいいんだろうけどさ。

 なんだか怪しいし、この話は断らせてもらおうかな。


「すみません。そういった賭け事は私は

「おい、嬢ちゃん……!」


 隣で一緒に話を聞いていたオジサンが私の袖を引っ張ってきて小声で呼びかけてくる。

 

「ど、どうしたんですか…?」

「この賭け、受けようぜ」


 オジサンはニタリと楽しそうな笑みを浮かべてそんなことを言ってくる。


「え、えぇー……。でも、負けたらお金なくなっちゃうし……」

「ぜってぇ大丈夫だ。なぜならコレ、来ちまったからよ」


 そういったオジサンは人差し指を立てて自分のこめかみをトントンと叩いて見せてくる。

 コレ? コレってまさか……! まさかまさかまさか!? お告げが来ちゃったってこと!?


「その賭け! 引き受けます! ですよね! オジサン!」

「あぁ、そうだ! その賭け、オレ達が請け負うぜ! 当然さ! よっしゃぁ、次のレースで全賭けで一生働かなくてよくしてやらぁ!」


 くぅー! 今日の自分はどれだけ幸運なんだ!

 これに勝ったらもしかして、もしかして夢だった自分の孤児院つくれちゃうのでは!?

 そしたら教会にいた子たちもみんな呼んで、あとシーフさんと魔法使いさんにも紹介して、そしてみんなで一生幸せに暮らしていくんだ!

 頼むよ女神様! おじさん! 私のここ一番がこの勝負かかってるんだから!

 戻ってきた受付の人が持ってきた全財産を勢いよくつかみ取り、スキップしそうになるのを抑えながら馬券売り場へと向かった。


「さぁオジサン! 急ぎますよ! この勝負で私はこれまでの人生を変えて見せるんですから!」

「ブハハハハ! そりゃいいね! 人生変える勝負にしてやろうぜ!」


ー ー ー ー ー ー ー

@町はずれの競馬場 ~その後~


「あ、あ、あぁ……、そ、そんな……、そんな……そんな……」


 私は確かにオジサンの言った通りの馬券を買った。

 確かに、この耳でしっかり、大穴の二番だって聞いて、言われた通りの馬券を買った。

 なのに、なんでなんでなんでなんで!


「一着は七番! さすがは今レースの大本命。当初の予想通り、他の馬を一切寄せつけない素晴らしい、まさしく王者による王道の走りでした。ゲストのルイワ=ツーヤさん。いかがでしたか?」

「いやー。見事な走りでしたね。朝からトラブル続きで今回のレースもどうなることかと思いましたが、いやー、今レースは何も起こらず、当然の結果、順当といった所でしょうかね」

「ありがとうございます。それでは続きまして第5レースの馬の紹介にうつっていきたいと思います……」


 おかしい。おかしいよ。そんなわけないよ。これまで全部当たってたんだよ! それがなんで急にこんなことになるの? さっきまでちゃんと当たってたの! 奇跡が起きてたんだよ!? それがなんでこんな……、こんな一番大事な所で外すことになるの!?

 

「オ、オジサン……!? こ、これは一体……!?」


 隣をみてもそこにオジサンの姿も、影も形もなにも残ってない。

 あ、あのオジサン! この土壇場で逃げた! 嘘でしょ!?

 信じられない! オジサンが大丈夫だっていうから賭けを受けたのに! 男らしく責任取ってよ!

 どうしようどうしようどうしよう、だって借りた百万を二百万で返さなきゃダメなのに。

 さっきまでの勝ち分も全部つぎ込んじゃったのに! なんで残してなかったの私! 信じられない!

 もう賭けるお金も何残っても残ってないよ! っていうかオジサンいないんだからもう当てられもしないし! もうおしまいだよ! なんであんなオジサン信じちゃったの私! バカ! 私のバカ!

 と、とにかく謝って、謝って謝って謝ってそれで許してもらうしかない!

 もう私に出来ることはそれしかない!


「おやぁ、お嬢さん? なんだか浮かない顔をされてますねぇ?浮かない顔をしてますねぇ……」

「ア、アークニンさん……」


 やって来たアークニンさんの後ろには体格のいい筋肉質な男が二人控えていた。


「あ、あは……、あはは……、そ、その……、えっと……、借りたお金……、その……負けちゃって……」

「えぇっ!? それは困りますよ!」


 アークニンさんは大袈裟な程のデッカイ声で切羽詰まった表情で詰め寄ってきた。


「困りますよ! あのお金は大事なお金なんですよ!? それが負けちゃったでは許せませんよ、ホルスさん!」

「ヒィィ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! なんとか、どうにかしてお支払いしますからどうかそれまで待って下さい!」

「出来ませんよ! あのお金は今すぐ必要なんです! だから返すのはどれだけ儲けても二百万でいいと破格の条件をつけたんじゃありませんか! 困ります困ります! 今すぐお返し頂かないと、ホルスさん!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 返そうにも返せるお金がないんです! 他に出来ることなら何でもしますから! どうかお金は待って下さい!」

「今何でもすると言いましたか?」


 そう言ったアークニンさんは私から離れて落ち着きを取り戻したように息をついた。


「実はですね……。お恥ずかしながら、私にも少しばかり借金がありまして……。その仕払いに大分難義しておりましてねぇ……。ここだけの話ですが……、その……、先方から利子の代わりに私の娘を……」

「へっ……? エ、エェッ!? それって奴隷売買!? ま、マズイですよそれは!」


 思わず素っ頓狂な声をあげて驚くと、アークニンは口に指をあてて静かにするように動きで伝えてくる。


「シー! あまり大声で騒がないで下さい! 奴隷じゃありませんよ。ただ利子を払うまでの間、働いて体で返すというだけの話です! 何も違法なことはありません! そもそも利子を払っていただければ何も問題ありませんから! 何にも悪い事ではないですよ! ただぁー……、その利子の支払いが二百万ほどでございまして……」

「ウッ……! ウゥッ……! すみません! すみません!」


 そ、そうか……! だから二百万だけどうしても欲しかったんだ……!

 あぁ、もうどうしよう……! なんで私こんな賭け事しちゃったんだろう!

 私のバカ! バカバカ! 信じられないほどの大バカだよ! どうしようどうしよう!

 

「あぁ……、このままでは私の娘が利子代わりに……。せめて元手の百万が残っていれば……」

「す、すみませんすみませんすみません! 本当にすみません!」


 私なんてことをしてしまったんだ! 私がアークニンさんの大事なお金を賭け事になんて使ってしまったばっかりに娘さんが……!

 私は本当のバカです! 救いようのない大バカです! 女神様! どうかバカな私に今すぐに天罰を与えて下さい!


「ですが、ホルスさん。あなたがそこまで謝るほど悪いと感じておられるなら……、なんでもすると仰って下さいましたし……、1つだけ詫びる方法が無くもないのですが……」

「ふぇ……?」


 本当ですかアークニンさん! 大切なお金を賭け事に使っちゃうようなバカな私が今からでも償う方法があるって言うんですか!?


「や、やります! やらせて下さい! 何でもしますから! どうか私に償わせて下さい!」

「そうですか。私共と致しましても心苦しいお願いとなりますが……、それでは……」


 アークニンさんがメガネをクイっと上げて後ろを向いた後、その表情が見えないまま声をあげた。


「借金の代わりとして、ほんのすこーしだけ、私の娘の代わりに働いて頂けませんでしょうか?」


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