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第十話 今日から始めるSランクなお母さん!(仮)

 ドラゴンの着ぐるみを装着したアイサちゃんの威嚇をただただ無言で見つめ返した。

 これは一体どういう状況なんだろう。

 待って、みんなその格好で町中を恥ずかしげもなく歩いてきたの?

 待って、どうしてアイサちゃんはドラゴンの着ぐるみなんて着ているの?

 待って、それで威嚇された私は一体なんて反応したらいいの?

 メガネの奥で顔を赤くしたアイサちゃんの潤んだ瞳がこちらを見つめる。

 これは、やるしかないな。

 ゴクリと唾を飲み込み、天に祈る!

 どうか私に力を貸して! シーフさん!


「あ、あーれー! こんなところにドラゴンがー! こわいよー! にげなくちゃー! だれかー! たすけてー!」

 

 大袈裟におびえたふりをしてその場に膝から崩れ落ちてみせる。

 こんな感じでよろしかったでしょうか?

 チラリとアイサちゃんの方を確認すると、その顔全体がみるみる内に真っ赤に変わっていき、両手でドラゴンのフードを深く被ると、その場で卵のように丸くなってうずくまってしまった。

 ごめんね、アイサちゃん。うまく驚いてあげられなくて……。

 恐らくは黒幕であろうルイダはお腹を抱えて楽しそうに笑っていた。


「アッハッハッハー! すごいすごーいー! びっくりさせられて良かったー! やっぱりー、この着ぐるみはー、アイサちゃんに似合うと思ったんだー! 大成功だねー!」

「うぅぅ……、恥ずかしいです……」

 

 本人が立ち上がれなくなってる程度にはわりと失敗だと思うが。

 丸くなったアイサちゃんの頭をフードの上からポンポンと撫でておいた。


「もう、みんなでアイサちゃんに何させてるの? 服を買いにいくってまさかこういう服ばっかり買ってきたわけじゃないよね?」

「ううん-。ちゃんとした服も買ってきたよー。これは私の趣味ー。いつもはソシィに着せてもらってるんだけどー。今度は一緒に着てもらうのもいいかもー」

「わ、私は着なくてもいいです……!」


 満面の笑顔のルイダの隣で、ソシィが身震いしていた。

 そうか、こうしてルイダが買ってきた服がどんどん家の中に増えていくってわけね。

 そりゃあ本人のお金なのだし買ってきてもいいけれど、買ってきた服の片付けについても今度ルイダにちゃんと教えなくちゃね。

 すると、チアツィが袋を開いてこちらに中身を見せてくれる。


「アタシが買ってきたのは服じゃない。ちゃんと肉と色々、食べ物買ってきた」


 明けた袋からはふんわりと香ばしいイイ匂いが漂ってくる。

 中には大きな葉にくるまれた物や金属製の容器に入った食べ物などがいくつも入っていた。

 あぁ、今日は色々あってまともにご飯食べてる時間もなかったし、こんないい香りをかいだら急にお腹が空いてきた。

 と、自前のお腹の虫が鳴くよりも早く、目の前のチアツィのお腹からグゥゥと音がなった。


「……」

「チアツィ、お腹空いてるの?」

「……別に」


 再びチアツィのお腹がグゥゥと大きな音を鳴らして返事した。

 顔をみると、チアツィのほっぺがほんのり赤く染まっている気がする。

 なんでちょっとだけ見栄を張ったんだろう。照れるぐらいなら正直に言ってくれればいいのに。


「とりあえず、みんな家の中に入りましょうか。私もすっごくお腹空いちゃったし、チアツィの買ってきてくれたご飯早く食べたいな」

「ホルスが食べたいなら早く食べよう。私は別に大丈夫だけど。ソシィ、手伝って」

「私もー、お腹すいたー。はやく食べたいー。アイサちゃんもー、早くいこー」

「あ、あの……、二人とも食べる前にお皿洗わないと……」


 四人がそれぞれ家の玄関へと入ってくると、アイサちゃん以外の3人はそろって歓声を上げた。

 

「うわー、すごいー! 家の中がキレイになってるー! 私達の家じゃないみたいー!」

「わわわ……! あんなにあったルイダの服がどこかに消えてます……! もしかして全部燃やしました……?」

「スィア、一人で片付けたの? よくやったな」


 三人とも玄関のあちこちを見回しながら随分と驚いてくれているようだ。

 ふふん! まぁ、スィアと二人で片づけを頑張りましたからね!

 存分に驚いてくれるがよい!


「私とホルスの二人で片付けた。たまってた服はランドリールームに押し込んである」

「わー! ありがとー! あとで私も洗濯がんばるねー。ご飯食べてからー」


 ルイダは靴を脱いで玄関に上がると、持っていた袋を壁の脇に置いて顔につけていたヒゲメガネをその上に置くと、エントランスの方へと向かっていった。

 チアツィとソシィも同じようにヒゲメガネを玄関に置いて、さらにソシィは羽織っていたローブも脱ぐとその脇に置いてエントランスへと向かった。

 なるほど。こうやって置いていってどんどん散らかっていくんだな。

 ご飯を食べ終わったら、みんなにはすぐに片付けて貰おう。

 アイサちゃんは着ぐるみのまま玄関までのしのしと歩き、靴を脱ぐ場所で立ち止まった。

 

「どうしたの、アイサちゃん? アイサちゃんも中に入って一緒にご飯食べよう? 着ぐるみ着たままじゃ大変だろうし、ここで脱いで行きましょう。後でまとめて片付けるから」

「あ、いえ、その……、実は……」


 アイサちゃんはもじもじしながら、赤くなった頬で潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。

 

「その……、私いま、な、中に……、見せられるものを着てなくて……!」

「えぇ!? じゃあ今ハダカで着ぐるみ着てるってこと!?」

「ち、違います違います! し、下着と肌着はつけてますから! でも、その、さすがに人の家にそんな恰好で上がるのは抵抗があるといいますか……!」


 アイサちゃんが両腕を大きく振って否定して見せる。

 危ない危ない、いくら着ぐるみとはいえ、裸に着ぐるみ一枚は痴女一歩手前みたいなものだからね。

 肌着と下着だけか……、自分の家だったとしてもさすがに下着姿で歩き回るのはちょっとどうかと思うもんね。


「大丈夫だよ、アイサ。みんな、お風呂上りとか暑い時は下着姿で家の中を歩き回ってるから。家の中ならみんな気にしない」

「私が気にするからね、スィア。それは今日から禁止だよ。たとえ私がいなくても!」

「はい」


 ホントにもう普段どれだけだらしない生活をしているのか……。

 とりあえず玄関脇に置いてある買ってきた物の袋からすぐ着れそうなものを探すとしよう。

 ルイダの買ってきた袋の口を開いて中を確かめていく。

 えぇっと、中には紺色のレオタード? みたいな服に、それから足から腰まで長いスリットが入った不思議なドレスに背中が大きく開いたわけのわからないセーター、白い厚手のワンピースに十字のついた白い帽子、バニーガールに猫耳付きのメイド服、他にもまだまだ……。

 メイド服だけ取り出して猫耳を袋に戻した後、すぐに袋の口を縛って元の場所に戻した。

 取り出したメイド服をアイサちゃんに手渡した。


「ごめんね、アイサちゃん。これが一番普通かもしれない。とりあえず、これ着て中に入る?」

「あ、ありがとうございます。すぐ着替えますね」

 

 アイサちゃんは着ぐるみをずらしてシャツを着た上半身だけ出した後、メイド服に着替えていく。

 着ぐるみの内側に服を通して少し手直しした後に、アイサちゃんは着ぐるみの外に体を出した。

 なんともまぁ、買ってきた服のモノ事態は良かったようで、見栄えのいい黒の布がアイサちゃんの滑らかな金髪をより美しく際立たせて、服に飾られた沢山の白いフリルがそのアイサちゃんの愛らしさをより際立たせている。

 袋の内容は別として服のチョイスはなかなかに見る目があるみたい。


「アイサちゃんすごく似合ってるよ! とってもカワイイ!」

「あ、ありがとうございます。エ、エヘヘ……」


 アイサちゃんの照れ笑いする顔が服とか相まってなおさら可愛い。

 脱いだ着ぐるみは玄関脇にまとめた後、スィアとアイサちゃんと三人でエントランスへと向かう。

 先に行った三人はすでにキッチンへ向かったようで大扉が開けっ放しになっていた。

 その奥からはなんだか三人の賑やかな声が聞こえてくる。


「お皿キレイになっててよかったねー。前みたいにソースが混ざらなくてー。私は嫌いじゃないけどー」

「なぁ、これって全部大皿でいいよな。食べたい人が食べたいところだけ手でとって食べるってことで」

「あぁ、またピザにピーマンがのってます……。せっかくのピザにどうしてこんな邪悪な物をのせるんでしょう……。先に捨てておきましょう……。あ、こっちにも……」


 スィアとアイサちゃんの方に出来るだけ優しーい笑顔で振り向いて話しかける。


「スィア、ちょーっとだけ、アイサちゃんを連れてお部屋案内をしててもらえるかな? 私はご飯の準備をしてくるから! 向こうの三人と!」

「うん。分かった」


 スィアはアイサちゃんの手を引くとエントランスの階段から二階へと向かっていった。

 そうしてすぐにダイニングを抜けてキッチンへと向かう。

 キッチンについて目に飛び込んできたのは袋から出されてテーブルの上に広げられた色とりどりの料理。

 それを手づかみで皿の上に盛りつけて指をペロペロとなめているルイダ。

 大きな皿に二つも三つもまとめて一気に乗せようとするチアツィ。

 ピザの上にのったピーマンを指先で取り除いて別の皿に移し替えるソシィ。

 もうー! この子達はホントいつもこんな暮らし方してるの!? ご両親から戦い方以外の事は教わってないの!?


「あ、ホルスさんー。もう盛り付け終わ」

「ルイダ! ソースのついた指なめないの! 手はちゃんと水で洗いなさい! お皿がベタベタしたらルイダだって嫌でしょ?」

「わわわっ。い、今洗うー」


 パタパタと慌てて流し台へと向かうルイダを横目に、チアツィがソースのかかった肉を盛り付けた皿の上に重ねて魚のフライやサラダの料理を乗せようとする手を引きとめる。


「チアツィ! 一つの皿にそんなにいっぱい料理乗せないの! 料理は一つずつ美味しく食べれるように作ってあるんだから、他の料理と味が混ざっちゃうでしょ! ちゃんと別々の皿にキレイに盛り付けてあげて!」

「お、あうっ、う、うん。わかった、ホルス」


 食器棚に皿を取りに行ったチアツィの裏で、その背中にこっそり隠れていたソシィに近寄っていった。

 

「ソシィ。何してるの?」

「……な、何もしていませんよ。私はピザをよりおいしい状態で提供しようとしているだけですので……」

「そう。でもね、ソシィ、そのピザを作った人はみんながおいしく食べられるように味付けをした上でピーマンを載せて作ってあるの。だから、ソシィも好き嫌いしないで! おいしく食べてほしいな!」

「うぅ……! で、でで、でもですよ! この邪悪な野菜を取り除くことによって私を含むみんながより! おいしく! 食の幸せを感じられるのであれば、それが、こう、女神様に対する私なりの奉仕の形といいましょうか……! なので、これは、儀式みたいなものでして……!」

「女神様はそんなこと望みません! それにね、いい、ソシィ!」


 ソシィの両肩をガッシリと掴んで、小さな耳に口元をよせてこっそりと耳打ちする。


「好き嫌いする子は大きく育たないよ」

「えっ……!?」


 ソシィは目を大きく見開いて持っていたピーマンを落とした。


「そ、そんな……、嘘です……。こんな邪悪な野菜にそんな効能があるわけ……。でも……、この家でピーマンを食べないのは私だけですし……。えぇ、そんな……まさか……、この野菜のせいで私だけ……、嘘……」


 ソシィは非常にショックを受けているようだが、どうやらこの様子ならこれ以上はピーマンを取り除くことはしないだろう。

 そうして、洗い場で手を綺麗に洗い終わったルイダと何枚かのお皿を抱えたチアツィもテーブルへと戻ってくる。


「ホルスさんー、手洗ったよー」

「偉い、ルイダ! それじゃあトングか何かある? 手掴みじゃなくてキレイに盛り付けようね!」

「ホルス、お皿これでいい?」

「ありがとう、チアツィ! それじゃあ一つずつ分けて料理に盛り付けようね! その方がみんな食べやすくて喜ぶからね!」

「わ、私も……、これ以上取り除くのは……、やめておきます……」

「伝わったみたいでよかった、ソシィ! 好き嫌いしないで美味しく食べてくれるソシィの事を女神様もきっと褒めて、祝福してくれるからね!」


 ちゃんと話せば、みんな素直に言う事を聞いてくれる。

 なんていい子たちなんだろう。

 家の中に子供たちだけだからこんな自堕落な生活になっちゃってるだけで、この子たちはちゃんと教えたらちゃんとした生活が出来るんだ。

 それを教えてあげられるのは今ここにいる私だけ! 私がしっかりしなくちゃ!


「よーし! それじゃあ、みんなでアイサちゃんと私の歓迎する準備するよ! えいえいおー!」

「おー! ホルスさんとアイサちゃんの歓迎パーティーだー」

「なぁ、ソシィ。歓迎パーティーの準備って本人がするものかな?」

「うーん……。まぁ、本人がやる気なのでいいんじゃないでしょうか……」


ー ー ー ー ー ー ー

@デルモウィークの家 その後


「わぁー! 豪華な料理ですね! 家にいた時もこんなにたくさん料理が並んだ事はなかったです!」

「ウフフ。デルモウィークのみんなが頑張って準備してくれたお陰だね! デルモウィークの家にようこそ、アイサちゃん! アンド、私! 乾杯!」

「アハハー。乾杯ー」

 

 その後、三人と一緒にダイニングに準備した料理を運んだ後に、スィアとアイサちゃんも揃ってテーブルを囲み、みんなで乾杯をあげる。

 乾杯が終わるとともにみんな勢いよくテーブルに置かれた料理から手元の皿へと料理を取り分けて移していく。

 みんなが元気よくご飯を食べている姿を眺めているとなんだかとっても嬉しくなってくる。

 おいしそうにご飯を食べるルイダやチアツィ達の顔に思わず頬が緩んでしまう。

 あぁ、女神様! 私頑張った甲斐がありました! とっても報われた気分です!

 今日も私達に豊かな食事を与えて下さったことを感謝いたします! 明日もまたこの子達が健やかでいられるように祝福をお与えください! いただきます!

 胸の前で手を組んで食事の前に女神様に祈りを捧げる。

 

「あの、ホルスさん。何をされてるんですか?」

「うん? これは食事の前に女神様にお祈りを捧げてるんだよ。今日も私達においしいご飯を食べさせてくれてありがとうございますってね。教会では食事の前に必ずこれをするんだよ」


 隣に座っているアイサちゃんが不思議そうな目をこちらに向けていたので、笑顔でそう説明する。

 説明を聞いたアイサちゃんは慌てた様子でもっていた皿をテーブルに置くと、自分と同じように胸の前で手を組んで目を閉じた。


「わ、私も! 私もお祈りします!」

「アハハ。いいんだよ、アイサちゃん。女神様への信仰はみんなの自由だから。アイサちゃんがやりたいならやればいいし、無理にお祈りしなくても大丈夫だよ。女神様は寛大な心でみんなの事を愛してくれますからね」

「でも、ホルスさんがやるなら私もやります!」


 アイサちゃんがギュッと目をつぶって一生懸命にお祈りする姿に思わずクスリと笑ってしまう。

 アイサちゃんは出会った時からホントにいい子。

 こんなにいい子が愛人作るようなお父さんに育てられてたなんてホントに信じられない。

 スィアたちとは別の意味で親の顔がみてみたいよ。


「ホルスさんー。私も聞きたいことあるんだー」

「いいよー、ルイダー。何でも聞いてー」


 ルイダがお肉を片手にもったままひらひらと手を振る。

 子供とお互いに理解を含めるにはこうした何気ない会話が一番大事だからね。

 私もみんなと仲良くなりたいし、質問があるなら何でも聞いてほしい。

 手元のスープをスプーンで一口分すくい口に含む。


「ホルスさんってー、男の人としたことあるのー?」


 ブフ―と呑みこみかけたスープを勢いよく全部噴き出した。


「キャー! ホルスさん! 大丈夫ですか!?」

「ゴホォッ゛! ゴフォゴホォッ! ルイダ! な、なに!? なんでそんなこと聞くの!? 男の人とそういうことなんてしないよ! 私は元でも神官なんだからね!」

「ホルスさん大人だしー。やっぱりそういうことあるのかなー、ってー。彼氏とかはいないのー?」

「彼氏!? 彼氏なんかいないし出来たこともないよ!」

「そうなんだー。じゃあ子供とかはいないのー?」

「いません! そういうことしたことないんだからいるわけないでしょう! なんで急にそんな事聞いてくるの!?」

「そっかー。いい話が聞けると思ってたのになー」


 ルイダは残念そうな顔をした後に肉を頬張った。

 もう、いい話ってなによ。ルイダはそういう話に興味があるお年頃なの?

 まったくもうルイダはおませさんなんだから! まだそんなこと気にする年じゃないでしょう!

 

 

「ねぇ、ホルス。アタシも聞きたい事あるんだけど」

「ん? なに、チアツィ? チアツィも何か聞きたい事があるの?」


 チアツィだったら何か食事に関係することだろうか。

 食べる前から大分お腹空いてたみたいだったし、テーブルにあるもの以外で何か食べたいご飯でもあるのかな。

 手元のスープをスプーンで一口分すくい口に含む。

 

「男の人のアレってどのくらい大きいのか知ってる? ホルス、見たことある?」


 ブフ―と呑みこみかけたスープを勢いよく全部噴き出した。


「キャー! ホルスさん! 大丈夫ですか!?」

「ゴホォッ゛! ゴフォゴホォッ! チアツィ! な、なに!? なんでそんなこと聞くの!? 見たことない! 見たことないから分からないよ!」

「そっか。ホルスなら大人だし見たことあるかなって。知ってる? ドラゴンの睾丸って凄く大きいんだ。アタシとスィアが並んでもまだ余りそうなくらいの大きさでさ。男の人もやっぱりそれくらいあるのかなって。そうだ、アイサはお父さんのとか見たことある? 大きかった?」

「ど、どどど、どうでしょう? 一緒にお風呂に入ってたのはホントに小さい時だけでしたので、そういうことはあまり覚えてないといいますか……!」

「チアツィ! その話ストップ! 食事中にそういう話をしちゃいけません! もう少し普通の話にして! みんながいつも話しているような話!」

 

 最近の子ってこんなに進みが早いの!?

 ご両親はどういった情操教育をされてきたの!

 ホントにもうSランクなのは力だけなんだから!

 倫理観とか常識もSランクであってよ!


「いつもしてる話か。でも、アタシ達いつもこういう話してるよな。なぁ、スィア」

「うん。敵の弱点を調べることは戦闘の基本」

「戦闘では基本かもしれないけど、コミュニケーションでは基本じゃないの! もっとこう、年頃の女の子といえば、そう! 好きな男の子の話とか! そういうのはないの?」

「男か……」


 チアツィ達はみんなで頭をうーんとひねった後、

 

「特にいないな。スィアは?」

「いない。ルイダは?」

「うーんー。私もー、特にいないかなー。だいたいー、男の人って話しかけると逃げていくもんねー。受付の方をみながらこうササ―ってー」


 それってもしかしてリコロンが受付から睨みつけてるんじゃ……!

 そういえばシーフさんもそんなこと言ってたし、確かにそれじゃあ話しかける以前の問題だよね……!

 リコロンさん! やりすぎて子供の為になってるかどうか分からないよ!


「そういう恋愛の話はやっぱりソシィだな。ソシィが一番詳しいもんな」

「え!? いや、あれは、その、そういう本の話ですので……! あんまり関係ないかと……!」

 

 チアツィに言われたソシィは顔を赤くして慌てて否定をしている。

 あらあら! ソシィは本の中の王子様が恋しちゃってるのかな?

 現実の男の子じゃないのは残念だけど、今日聞いた中では一番女の子らしくて素敵じゃない!

 これは是非詳しくきいてあげないと!


「フフ。ソシィの好きなその本はどんな本なの? 私にも詳しく教えてほしいな?」

「あ、いえ! あの、あれは! 好きとかそういうのじゃなくて! 橋の下に落ちてただけの本でして……!」

「ん? 橋の下に本が落ちてたの? 誰かの落とし物ってこと? それで好きになれる本と会えるなんてすごい巡り合わせだね」

「あー、いえ、そのー……。そういう、本、じゃなくて……」

「あぁ、すごい本なんだ、ホルス。街中で暴漢に襲われそうになってた主人公の女の子が、そこで助けてくれた王子様と夜のベッドで激しい恋愛をする絵がのってて」

「ストーップ! チアツィそこまで! それ以上は言っちゃダメ!」

「うん? わかった」


 まったくもう! 誰なの! 子供の目につく所にそんな本を捨てていったのは!

 ソシィもどうしてそんなよく分からない本なんか拾ってきちゃうの!

 絶対に持ち主をみつけて突き返してやるんだから!


「ソシィ! その本すぐに出して! 私が預かります!」

「え!? ホルスさんもこう言った本読むんですか!?」

「読まないよ! その本はソシィ達にはまだ早いから捨てるだけ! っていうかソシィもそんな本読んだらダメだからね!」

「よ、読みません! 読みませんよ! 私も! きょ、興味ないですから! そんな本!」

「でもー、パーティーの名前を決める時にもその本からもらってたよねー。インパクトある名前がいいよねー、って話してたらソシィがこのセリフとかどうですかってー」

「あぁっ! ルイダ! それはいっちゃダメです!」

「ちょっとまって……! 『デルモウィーク』のパーティー名の由来ってまさか……!」


 ソシィの顔を強い視線で凝視すると、ソシィは顔いっぱいに引きつった笑いを浮かべる。

 そんな……! うそでしょ……! ほんとにそんな理由でパーティー名を決めたの!?

 あぁもう! ほんとにもうこの子たちは!!

 

「あ、あの……、ホルスさん……! ちゃんとした理由も考えたんですよ! 私達のパーティーはですね! とっても強い魔物のデーモンの弱点って呼ばれる位強いパーティーになろうねっていう意味が込められているんです! どうですか、それっぽいですよね?」

「今更それっぽい理由をいわれてももう最初の理由を忘れられないよ! いーい、みんな! 私以外にその理由いっちゃダメだからね! 今度からはソシィの考えた理由以外は言っちゃダメ!」

「はいー。わかりましたー」

「うん。わかった」


 ルイダとチアツィも返事をして頷き、スィアもモグモグと口を動かしながら頷いて見せた。

 ちゃんと言ったらちゃんと聞いてくれる、こういう素直な所はみんなのいい所だね!

 スィアはモグモグしていた食べ物をゴクンと飲み込んだ後、こちらの顔を見あげて口を開いた。

 

「ホルス、何だかみんなのお母さんみたい」

「えっ!? そ、そうかな……?」


 お母さんというか、孤児院で働いてた時もずっと子供の面倒を見ていたから、今のスィア達の生活を放っておけないだけなんだけど……。

 スィアの言葉にルイダ達も次々とうんうんと頷いていく。


「ほんとー。お母さんみたいー。誰かに叱られたのなんて久しぶりかもー」

「アタシも。お母さんにこんな事叱られたことなんてなかったから、ホルス見たいな人は初めてかもな」

「そう、ですね……。私も家ではお母さんと魔術の事以外で話しなんてしませんでしたし……。こ、こういう事で人に怒られるのは初めてかもしれません……」


 私が、お母さん……、うーん……。

 子供の面倒は今までも沢山みてきたけど、私がお母さんかって言われると、それはどうなんだろう。

 私自身もお母さんどころかお父さんもいなかったから孤児院に居て育ってきたわけだし……。

 私、お母さん、なのかな……?

 みんなから集まる視線がなんだかすごく期待に満ちている気がする。

 ちょっと疑問は残るけれど、子供にこんな期待されたら応えないわけにいかないよね!

 

「よ、よーし! みんなそういうなら、私がここに居る間はみんなの面倒は私がしっかり見させて貰いますからね! みんな、よろしくね!」

「アハハー、うれしー。ホルスさんー、ずっといていいよー」

「うん。ホルスの事、パーティーに誘ってよかった。よろしく」

「よろしく、ホルス」

「あの、ホルスさん。や、野菜に関してはお手柔らかにして頂けると……!」

「それは一番ダメ! 好き嫌いしないで栄養を一杯とってもらうのが大きくなるのには一番なんだから! ソシィには明日からも野菜食べてもらうからね! ちょっとずつでいいからさ」

「うぇぇ……。が、がんばりますぅ……」


 泣きそうな顔をして答えるソシィとのやり取りを見ていたルイダが笑い出す。

 チアツィも頬を緩め、アイサちゃんもフフフと小さく笑っていた。

 スィアも優しい目つきでソシィを見守り、みんなの注目を集めたソシィは照れたように頬を赤くして小さく笑った。

 みんなが和やかな空気に包まれたまま、食事会は楽しく続いた。


ー ー ー ー ー ー ―

@デルモウィークの家 お風呂


 食事を片付けた後はみんなでデルモウィークの家のお風呂場に移動した。

 

「お風呂だー」

 

 服を脱いだルイダが浴室をペタペタと足音を立てて走っていく。

 磨き上げられた大理石のタイル貼りをされた広い浴室には四人では余るほどの広い洗い場の他になんと湯舟が四つもあり、まずは美しい大理石に囲まれた大きな浴槽が一つに小さな円形の浴槽が二つ、そして区画を分けて珍しい白い木材で床張りをされて、同じく白い木材で作られた浴槽が一つあった。

 ルイダが大理石の浴槽にジャンプして飛び込み、チアツィとソシィはそれぞれ小さな円形の浴槽に先に入っていた。

 

「ルイダ、浴室で遊ぶとケガしちゃうよ。静かに入ってね。それにしても四つも湯舟があるお風呂なんてすごいね。孤児院はこれの半分ぐらいの広さで大きいのが一つあるだけだったし、こういうのは初めて見たよ」

「温泉っていうらしい。最新のすごい魔道具のお風呂。ルイダの大きい普通のお風呂で、チアツィのがビリビリするお風呂。それからソシィのが泡が噴き出てくるお風呂、それであの木のヤツがヒノキ風呂。私のオススメ」


 隣にならんだスィアが指をさして説明してくれる。

 ビリビリするお風呂とか泡が噴き出てくるお風呂とか聞いたことないけど一体なんなんだろう。

 そんなお風呂に入ってて体とか大丈夫なんだろうか。

 でも、入っている二人はとても心地よさそうに顔を蕩けさせている。

 なんだかとても気になるけれど、とりあえずスィアのオススメしてくれた木のお風呂にはいってみることにしよう。


「ありがとう、スィア。それじゃあ私もそのお風呂に入ってみようかな」

「うん。いこう」


 スィアのお誘いを受けた後、振り返ってアイサちゃんにも声を掛ける。

 

「アイサちゃんもおいで。女の子同士だし照れなくても大丈夫だよ」

「その、いつもは一人で入っていますので、こういった大きなお風呂? は初めてで……! し、失礼します!」


 身体をタオルで隠したアイサちゃんがおそるおそる浴室に足を踏み入れてくる。

 キョロキョロと辺りを見回しながらやってくると、小さな手でこちらの腕をギュッと掴んだ。


「ウフフ。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。アイサちゃんも一緒に木のお風呂に入る?」

「はい! ホルスさんと一緒のがいいです!」

「フフ。それじゃあ一緒に入ろっか。でも、その前にまずは体を洗ってからだからね。スィアもだよ」

「うん。わかった」


 スィアは返事をした後、アイサちゃんと反対の腕をギュッと掴んでくる。

 両腕を抑えられると正直だいぶ歩きづらいんだけど……。まぁ、いいか。

 二人を連れたまま洗い場に向かう。

 大きな鏡と椅子がいくつも並び、それぞれにシャワーが備え付けられて、カウンターには四角いシャンプーとボディーソープのボトルがそれぞれ並べられていた。

 その一つに自分が座ると、両脇の二人もそれぞれ椅子に座った。

 ハンドルをひねり、目を閉じて落ちてくるお湯を頭から浴びる。

 あー、暖かい。一日の疲れが全部流れおちていくみたい。

 流れ落ちるシャワーのお湯の心地よさに浸っていると、なんとなく視線を感じる気がして目を開けた。

 左右を確認すると、予想通りスィアとアイサちゃんの視線が自分のモノにくぎ付けになっていた。


「大きいのは分かってましたけど、こう見ると凄いですね……。迫力があります」

「うん、アイサ。これが大人……」

「コラコラ、二人とも。人の胸を見てジロジロ見ない。よくないよ、そういうのは。もう慣れてるけど」


 子供と入るとと毎回こうなるのでもう大分慣れている。

 こんな目立つだけのモノ、ついてない方がいっそ気楽なのだが。

 と、脇の下から伸びてきた手がおっぱいを鷲掴みにした。


「わー! すごいおっきいー! やわらかいー! おもいー!」

「こら! ルイダ! 人の胸を勝手に触ったりしてはいけません! やめなさい! あと重いはやめて!」


 ルイダはアハハーと笑いながら逃げると、アイサちゃんの隣の椅子に座る。

 やれやれと顔を戻すとソシィが脇の下から顔をだしたソシィが至近距離で胸を観察していた。

 

「信じられません……! こんなに大きいのは初めて見ました……! ホルスさん! どうしたらこんなに膨らむんですか!? 中から空気とか詰めたら膨らむんですかね!?」

「大丈夫! ソシィも必ず大きくなるから安心して! だから変な事はしないで野菜をいっぱい食べて頑張ろうね!」


 ソシィの頭を脇の下からよけて横に押しやると今度は椅子を動かす音がして背中にお湯に濡れたタオルを置かれた感触がした。


「ホルス。アタシ、背中洗ってあげる」

「あ、チアツィ。ありがとう。フフフ。それじゃあお返しに、後で私もチアツィの背中洗ってあげるからね」


 後ろに座ったチアツィはそのタオルで使って私の背中をごしごしと擦り始める。

 なんだか孤児院で働いていた時を思い出して懐かしい感じだ。

 すると、隣でみていたスィアもこちらを見てタオルを持ち上げて見せた。


「ホルス。私も、ホルス洗う!」

「え? ありがとう、スィア。でも、もうチアツィが背中を洗ってくれてるから大丈夫だよ」

「じゃあ、前を洗う。おっぱいとか」

「そこは自分で洗うから大丈夫! 先に自分の事キレイにしてね!」


 スィアは少しだけ目を伏せて残念そうな目で鏡に向き直る。

 チアツィみたいに洗いっこしたかったのかな?

 ほんとにもうしょうがない子ね。


「後ろを向いて、スィア。私がスィアの背中も洗ってあげる。それでいい?」

「うん。お願い」


 言ってすぐにスィアはこっちに背中を向けるように椅子に座り直す。

 スィアの行動にクスリと笑ってしまい、キレイな肌の背中にタオルを優しく押し付ける。


「あー、二人だけズルいー。ホルスさんー、私も洗ってー。全身ー」

「前は自分で洗ってね、ルイダ。全身はダメ。背中はルイダの事も洗ってあげるからね」

「ホルスさん……! 私にもお願いしてもいいでしょうか……! 女神様から豊乳の恩恵を頂けるかもしれませんし……!」


 たぶんそれはないと思うけど、お祈りぐらいはしてあげよう。

 女神様、お聞きになられてましたらソシィに豊乳のご加護をお与え下さいますようによろしくお願い致します。

 スィアの背中をタオルで擦りながら心の中でしっかりと女神様に祈っておいた。

 

ー ー ー ー ー ー ー

@デルモウィークの家 ホルスの部屋


「ホルスさんー。おやすみー」

「おやすみ、みんな。また明日ね」


 お風呂から上がって、みんなとお休みの挨拶を交わした後、自分の部屋に入りそのままべッドにバタンと倒れこむ。

 なんとも長い一日だった。

 お金の問題も解決したし、スィア達とも出会えて住む家まで確保できたし。

 これもみんな女神様のお導きのお陰です。感謝いたします。

 解決してないことはまだ山ほどあるけれど、私の事を騙した犯人とか、ヒゲ男とか……、あとリコロンの面接とか、それから面接とか、面接とか面接とか……。

 面接って何するんだろう?

 っていうかパーティーの面接ってなに? スィア達はいいよって言って一緒の家に住んでご飯とお風呂一緒に入るくらい仲良くさせてもらってて今更面接する必要とか本当にある?

 それに解決してないといえば、この家の家事だってそうだ。

 洗濯物はランドリールームに置きっぱなしだし、クッションを片付ける先も考えておかなくちゃ……、そういえば入ったお風呂の掃除ってどうするんだろう……。4つもある浴槽全部手洗いなのかな………、明日やってる暇あるかな……。

 あぁ、もえ考え事するだけで疲れてきたな……、とりあえず、もう眠いし今日はもう考えるのはよそう……。

 ノロノロと体を起こしてベッドの中に入ろうとすると部屋のドアがコンコンと音をたてた。

 

「あ、あの、ホルスさん。す、少しだけ、いいですか?」

「アイサちゃん? どうしたの? 入ってきても大丈夫だよ」


 慌てて立ち上がり服のシワを伸ばして扉の向こうのアイサちゃんに声をかける。

 ガチャリと音を立てて扉を開くと、そこにはメイド服を着替えてピンク色でフリルの沢山ついた可愛らしいパジャマに着替えたアイサちゃんが現れた。

 その頬は湯上りのせいかほんのりと紅潮していて、いつもの美少女っぷりにより一層拍車をかけていた。

 部屋に入って来たアイサちゃんはなにやら扉の前でモジモジとしている。


「まぁ、かわいいパジャマを見せに来てくれたの? すごく似合ってるね。とってもかわいいよ」

「エ、エヘヘ……。そういって貰えて嬉しいです。ルイダさんが選んでくれたんです」

「ウフフ、そっか。かわいい服を選んでもらえてよかったね。それで、アイサちゃんのお話ってどんなお話? こっちに来て聞かせて貰ってもいい?」


 ベッドに腰かけて手の平で隣をポンポンと叩く。

 アイサちゃんはニッコリと笑うと、すぐに駆け寄ってきてベッドの隣にちょこんと座った。

 隣に座ったアイサちゃんはこちらの顔をチラチラと伺いながら小さくて細い指を突き合わせ、なにやらソワソワとした様子だ。


「あ、あの、ですね。ホルスさん、冒険者ギルドでいつでも頼ってもいいとおっしゃってくれたじゃないですか?」 

「もちろん! 私が力になれることなら何でも言って! いつでもアイサちゃんの力になるからね。どうしたの? 何か困り事?」

「い、いいえ! 困ってはいないんですけど、その、ひ、一つだけお願い事してもいいでしょうか?」

「もちろん。全然いいよ。私に出来ることなら何でもいってくれていいからね」


 ちょっぴり頬を赤くしたアイサちゃんは上目遣いでこちらの顔を見上げながら、私の袖の端をギュッと掴まれる。


「あ、あの! 今日だけホルスさんとベットでご一緒させて頂いていいでしょうか!」

「うん。いいよー」

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