8 祖母
祖母の家に帰る前に携帯をチェックした。また今日もメールが物凄い数来ていた。全て元婚約者からだった。
初めは一応中を確認していたが、自分は悪くない、相手から迫られた。あんな風にされたら男は誰だって手を出してしまう。と言い訳ばかり。
あの時確かにキャンセルするって言ったのに、旅行を解約したのも勝手にキャンセルしたと怒っていた。私が予約してお金も私が先に立て替えておいたので、キャンセル料金を取られたが旅費は全て私に帰ってくる。
流石にキャンセルで帰って来た金を渡せとは言われなかったが、あちらが原因でこうなったのだから、キャンセル料金は僕が持つよくらい言って欲しいものだ。
あんな所を目の前で私にバッチリ見られといて、旅行には一緒に行こうなんて、良く考えられるよね!
ほんと何て男なんだ!あれを目撃してラッキーだった。と思いながらメールをゴミ箱に全部捨てた。
人間って一緒に住まないとどんな人なのか中身が分からないみたい。単に私に見る目が無いってだけかしら。
結婚までいい顔しか見せない男。ヤダヤダ、休みが明けたら会社でまた会う事もあるのか!後輩なんか、必ず会うじゃない!嫌だ!
後輩が、何か言って来たら元彼が私によこした多量のメールを全て転送してあげようかしら。こんなカス見たいな男だよってね。
でも後輩のあの驚き方はキスを見られて恥ずかしい顔ではなく、彼の彼女に浮気現場バレて吃驚の顔だったと思うんだ。きっと私と彼が付き合ってた事を知ってたんじゃなかろうか。
まぁ、そこはもうどーでもいいけど、そんな後輩の面倒をこれからも見るのは嫌だ。
祖母の家に着いた。二十八歳の私の祖母は今年もう八十三歳だ。
小さい時に母が亡くなり、父と祖母に育てて貰った。父は私が大学を卒業してやっと自立して働くようになった時、交通事故で亡くなった。
あれから六年お婆ちゃんは一人暮らしだ。私が帰郷するのは年に一回だけ。
お婆ちゃんに一緒に暮らそうって言ったら東京に来てくれるかな?それとも私が会社を辞めてこっちに帰って来ようかな。あの島に住んでもいいし、お婆ちゃんがこの家が良いなら島からなら週一で通える。
収入は大分減るけど、あの島のログハウスを宿泊施設として貸し出せば泊まりに来てくれる人はいないかな?
水が問題よね。雨水でお風呂なんて日本人は嫌じゃないかしら。水問題、何とかならないか。どがんがせんばいけん!と何処かの元県知事の言葉が頭に浮かんだ。
「只今ー、お婆ちゃん、お昼は食べたー?夕飯は何にしようかー?」
あれ?返事がない。
「お婆ちゃーん。」
と呼びながらお婆ちゃんの寝室の襖を開けた。
「お婆ちゃん!」
倒れているお婆ちゃんの側で叫んだ。
あれから一週間目まぐるしく過ぎていった。
倒れていたお婆ちゃんは救急車で運ばれたが病院に着いて間も無く息を引き取った。原因は心臓発作だと言われた。
手続きのあれやこれやが沢山あった。近所の世話好きのおばさんが親戚でもないのに車で病院や役所を一緒に回ってくれて、本当に助かった。
親戚はもういない、お婆ちゃんは末っ子で兄弟は既に他界、父も一人っ子、母の親戚は私では分からなかった。お爺ちゃんの親戚ももう居ないと聞いていた。
あら、私天涯孤独になってしまったのね。
胸にポッカリと穴が空いたようで、何もしたく無い、何も手につかない。どうしよう。
お婆ちゃんの荷物は少ない。日頃着ていた服と日用品。私が小さい時に買って貰ったぬいぐるみ達を飾っていた。
壁の絵も私が保育園や小学校の時のものだ。ずっと飾っててくれたんだね。
田舎のこの家は父が亡くなった時に、私とお婆ちゃんの二人の名義になっていたが、とうとう私だけの持ち物になってしまった。この家もどうしよう。とりあえず手続きは済んだからゆっくり考えよう。
家賃が要らないから、ここに住んでスーパーにでも再就職出来たら、それでも生活出来る。・・・はぁ、どうしよう。
会社が一月十三日まで休みだけど、明日東京に帰ろう。日曜日だけど、航空券取れるかな?キャンセル待ちかな?島の手続きもしなきゃ。
直属の上司には祖母が亡くなって直ぐには出社出来ない事は伝えていたが、元々十日迄有休で、後は土日月と、祭日等で十三日まで会社は休みなのだった。
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