76 帰る場所
由美の島に住んでいる人達のいた島から攫われた二十人の者達は、一つの建物に集められていた。
かつて住んでいた島にはもう誰も住んでいない事を聞かされ、皆呆然とした。
他の場所で私達を受け入れてくれる所があるだろうか?島に帰るとしてどうやって帰るのか、帰るのにどれ程の時間がかかるのか、と助けられても心配事は膨らむばかりだ。
「島の皆が何処に行ったのかは分かりますか?」
「イルカの船から逃げて海の上である人に助けられ、今はその人の伝手で残った島の者達は保護され生活しているそうだ。その人に貴方達も一緒に保護出来ないか今確認中だ。もう少しここで待っていてくれ。」
「助けて頂いた上にお世話になってばかりですみません。宜しくお頼みします。」
夕飯ぶち撒けお貴族様騒動から数日過ぎた頃馬に乗り三匹の大きな犬を連れた宿泊のお客さんが訪れた。
初めてその犬を見た時には身体の大きさにたまげた。異世界の犬って桁外れな大きさだ。大きい方の犬は馬程もあるんじゃないかな。世界が違うと動物達もずいぶん違うんだな。
そのお客さんは犬のお母さんが怪我を負い療養と体力回復の為に暫く滞在したいとロッジのCを丸ごと借りている。あの馬のように大きい犬がお母さん犬のようだ。
お客さんは全ての建物にお風呂が有るのに感動していた。
風呂に犬を入れて良いか聞かれた。この客はクリーン魔法が使えるので、犬を入れた後は必ず綺麗にしておくからと言う約束で特別に許可したが、他の人には犬をお風呂に入れる事は言わないようにお願いした。
動物が入るお風呂は使いたく無いと言う人もいるからだ。
あれ?クリーン使えるなら犬もそれで綺麗にすれば良いんじゃない?でもお母さん犬はお風呂場に入れないよなぁ。物理的に。
取り敢えず二週間宿泊されるそうだ。犬の様子を見てもう少し延長するかもしれないとの事。
前の子爵の客の事もあり、様子を見ながら接待しているが、この人は悪い人では無さそう。
日本の大型成犬よりも大きな子ワンコ達が人懐っこくて兎に角可愛い。
散歩の時に出会すと黒い大きなフサフサの尻尾をブンブン振って走り寄って来るのだ。
レイラとロウもこの子達が大好きだ。
「おはようございます、ヘルツェバイン様。お母さんワンコの体調は如何ですか?」
「ええ、お陰様で随分回復したようです。美味しい食事のおかげです。シュバルツもそうですがモーントもゴルトもあの食事をペロリと平らげてしまって、運動させないと丸くなりそうです。」
「いえいえ、普通の食事ですよ。ワンコ達にも喜んで貰えて良かった。これから運動ですか?」
「ええ、三匹で森に行って魔物を狩ってくるそうです。私は見送りだけで、宿で留守番です。」
「そうなんですか、この道をずっと降りて行くと海に出れるので散歩も楽しいと思いますよ。」
「海ですか、成る程、行ってみます。ありがとうございます。」
「はい、良ければ釣竿もお貸し出来ますので、何か有れば気軽にお聞きください。」
「ありがとう。行って来ます。」
「行ってらっしゃいませ。」
私にずっと撫でられていた小さい方のワンコも母犬が歩き出すとその後ろを追って行った。もう少しワシワシしたかったけど、私もお仕事だわ。
最近どういう訳か宿泊客が多い。
ヴィルさん曰く、王都からこの島に辿る道の拡張工事を行っているそうだ。それで、その工事関係者がうちのロッジに泊まりに来ているのだとか。
以前にヴィルさんとウォルトを見つけに行った森の中の細い道を馬車がすれ違える程の道幅に広げていると聞いた。
ならば将来は馬車で泊まりに来る客も居るのではないだろうか。馬車を停められる所や厩も用意しておくべき?と思いヴィルさんに相談すると、魔法でちょちょちょいと地面を慣らして平たくし、馬車を詰め込んだら二十台程は停めれる程の場所と、マジックバックに収められていた広めの厩も設置してくれた。
いや、まだずっと先の話しだと思っていたから、出来上がった馬停と厩を見てポカンと口を開けて暫し動けなかったのは内緒の話だ。
「ユミ殿、村人達と同じ島に住んでいて、攫われた者達が王都で今助けられて保護されている。
イルカの船が我が王国に奴隷を売りに来た所を捕縛した。
攫われた者達は全員元の場所に返しているのだが、保護された島の者達が帰っても、島にはもう誰も住んで居ないのだ。
中にはそれでもいいから元の島に帰りたいと言う者も居るかもしれないが、島の仲間がいるここに来たいと言う者達も居るのだ。
攫われた島の者は全員で二十名だ。この島で受け入れてもらう事は出来るだろうか?直ぐに答えを出さなくても良い。暫く考えて欲しい。」
「そうですよね。誰も住んでいない島に帰れと言われても困りますよね。それに彼等の家はみな焼かれてしまったんですよね。
葡萄畑も増えたし、野菜は作って貰えばいいし、家は?ヴィルさん、家は用意して貰えます?出来れば家畜も、牛や、鶏や豚など、ロッジからは離れた所を開墾して、この島で自給自足を目指していければ、うん、大丈夫じゃないでしょうか。村がもう一つ増えても島はまだ広いですしね。」
「ああ、私も協力しよう。家は空き家がまだまだある。大丈夫だ。家畜も揃えよう。どの場所に何を設置するか一緒に見に行こう。」
道路の拡張工事も済んで工事をしていたお客様達が帰ってしまった。
ワンコを連れていたお客様も三週間滞在されたが、お母さん犬の体調もすっかり戻り、また休みが取れたら訪れます。と言って王都へ帰っていかれた。
この二ヶ月で広い道が迷いの森の中を通って私のロッジまで繋がった。その道はアステラ王国という国の王都に繋がっているらしい。
うちのロッジから王都迄は馬車で三日の距離があるらしい。他の領地から王都へ向かう者はこの辺りでは宿が無い、普通は皆野宿をするのだとか。
なので、街道から逸れて馬車で二十分、歩きで一時間程のこの宿は有名になるだろうとヴィルさんは言っていた。
高い宿に泊まれない商人や冒険者は安くて安全なキャンプ地を求める。
ヴィルさんの結界の張られたこの場所は魔物も入らないので、低価格でキャンプ地を提供すると助かる筈との事だがそれはお断りした。
何処の国にもお金を払っていれば何をしても構わないと言う考えの人がいるものだ。
誰も彼もが入れるキャンプ地にするとここのさくらんぼの木を折られたり勝手に切られたりして荒らされる心配がある。
それならば街道沿いの土地を開拓して結界を張り、安全なキャンプ場を提供すれば良いのだ。安全代として、入り口で結界に掛かる費用を徴収すれば良いではないか。
ヴィルさんは成る程と首を縦に振っていた。
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