74 男2
大変お待たせ致しました。
「お客様に夕食を持って行くわね。」
「それは俺が運びますよ。」
「まだ明日の仕込みもあるでしょ?いいわよ運ぶだけだから。すぐ戻って手伝うわね。」
ピンポーン ピンポーン
「こんばんは、夕食お待ち致しました。」
カチャとドアが開いたので由美はロッジに入った。
客が座っている所へ食事を配膳する為に客の横を通りかかると、スッと客の足が由美の前に移動した。あっと思った時にはもう遅く客の足に引っかかり、持っていたお盆をぶち撒けながら転んでしまった。
数秒二人ともその場に留まったが由美は床を片付け始めた。
「何をやってる!失礼だろう!」
「えっ?今足を態と引っ掛けましたよね」
「な、何と無礼な!そんな言い訳をしおって!」
由美は床に散らかった食事を片付けながら毅然と対応する。
「言い訳ではありませんよ。私が通る寸前にお客様が私の前に足を出されたので、その足に引っかかり倒れてしまったんです。そちらが素直に謝まって下さるならば新しいお食事をお待ちしますが、如何なさいますか?」
「平民のくせに貴族に向かって何て口の聞き方だ!私は子爵だぞ!良いのかそんな物言いをして!平民は貴族に逆らったらその場で斬り倒されても文句が言えんのだぞ!」
「私の国ではもう五十年以上前にその身分制度は廃止されているので、私を殺したら、いや、傷つけただけでも貴方は牢獄行きですよ。」
「な、何だと、大人しくお前が非を認めるならばこの宿泊施設だけで許してやろうと思っていたが、考えが優しすぎたな、何と言おうと私の国では身分制度はあるのだよ、その身体に教え込まねばならんようだな。」
由美が転んだ時リラが危険を察知して由美の側に現れて小声で話しかけていた。客はリラの事が見えてない。
『ユミ大丈夫?こいつふんじばる?』
『ま、待ってまだ転んだだけだから、相手が私に手を出しそうだったそうして。』
と床を片付けるふりをして意思疎通していた。
客は立って由美の腕をギュッと掴んで力任せにグイッと上に引き上げた。凄い勢いと力で持ち上げられた腕は肩が外れていただろう。掴んだのが本物の腕だったら。
しかし掴んだのは由美の腕では無く、緑の枝?その枝はグングンと伸びてアッと言う間に客の体をグルグルと縛り上げ、身動き出来ない状態にしてしまった。
『リラ、この人が逃げないように見張っててくれる。ヴィルさんを呼んでくるわ。』
『任せて。』
ヴィルフリートの屋敷に行ったがまだヴィルフリートは帰宅してなかった。
執事のオリヴァーさんに事情を説明すると魔道具でヴィルさんに手紙を届けてくれた。
客は魔法が使えるかもしれないので、逃げないように見張りに戻りたいが、一人では危険だと執事さんや侍女さんに止められた。
料理人のパウルさんがそっと様子を見に行ってくれるそうだ。
パウルさんはすぐに戻ってきた。
「大丈夫、太い蔦に巻かれて身動きが取れないで床でモゾモゾしながら怒鳴っていましたよ。ヴィルフリート様が戻られるまで私が外で見張っていますね。」
「すみません、お手数おかけします。」
暫くするとヴィルさんがライナーさんを連れて屋敷に戻って来た。
私は急に呼び出したことをヴィルさんに詫びて事情を話した。
「相手は自分を子爵だと言ったのか?」
「はい、大人しく非を認めればこの宿泊施設だけで許してやったが、私が認めないので身体に教え込むと言ってました。」
「直ぐにロッジに行こう。」
ロッジの外では屋敷の料理人さんが見張っていてくれた。
「逃げ出してはいないようだな。」
ロッジのの中にヴィルさんとライナーさんが入って行くと、喚いていた子爵は口を噤んだ。
「おや、これはこれはオットマー・フォン・グールブリュン子爵ではありませんか、お会いするのは随分お久しぶりで御座いますな。」
「なっ!バッツドルフ伯爵!良い所に!助けて下され!そこの平民の女に罠に掛けられました。」
「平民の女?何処に平民の女が居るのですか?彼女はユミ・タナカ、立派な家名を持っておられるのですよ。」
「なっ!タナカ!まさか!」
「さぁ?どうでしょうか?もしかしたら貴方のご存じの方の親族でいらっしゃるかも知れないですね?」
「な、なに!そんな筈無いだろう!」
「まぁ、もしそうだったらどうします?彼女に足を掛けて怪我をさせたとか?高価な食器も割ってしまったのでしょう?いや、食器等はほんの些細な事ですね。彼女の身体に何を教え込もうとしたのですか?お城で全て吐いて貰いますよ。覚悟は良いですか?」
「なっ!その女は自分で転んだだけだ!私は何もしていない!私を解放してくれ!」
「彼女の件だけでなく、騎士団や王都のギルドでも貴方を探していましたよ。何をなさったのですか?まぁ、それはお城で調べて頂きましょう。ここの宿泊施設の乗っ取りの件と一緒にね。ライナー、子爵を縛り直してくれ。」
「了解。ほら、子爵大人しくしていないと痛いですよ。」
「ユミ殿、子爵は城に連れて行きます。貴方に無礼を働いた件もしっかり調べさせますので、暫くお待ち下さい。」
「ありがとうございます。助かります。」
「ライナー後で迎えに来る。ちょっと待っててくれ。」
「ヴィルさん、ロッジAに移動して待っていますね。」
「ああ、分かった、ちょっと時間が掛かるかも知れない。ライナー夕食を出してもらって食べて待っててくれ。」
「分かりました。ユミ殿の美味しい夕飯を頂きながら待ってますよ。急がなくて良いですからね。」
「なるだけ急いで戻る。」
そう言うとヴィルさんは転がったままの子爵と一緒に姿を消した。
お読み頂きありがとうございます。




