71 イルカの船 2
半刻程前に三台の荷馬車がイルカの船の荷を積んで出ていったが、もう一台船に荷馬車が近づいて止まった。先ほどの荷馬車と同じく幌付きの荷馬車で中が見えなくなっている。
船から人が降りて来て次々と荷馬車に乗り込んで行く。
なんだろう、ジャリンジャリンとたまに金属音が響く。
月が分厚い雲の間から一時顔を覗かせた。
荷馬車に乗り込む者達の顔が見えた。手に鎖をぶら下げ、首に奴隷の首輪!小さな子供まで首輪を嵌められている。
犯罪奴隷には首輪を嵌めるが小さな子供が盗みをしたからと言って首輪を嵌める事は無い。
ここアステラ王国では十五歳以下の子供が万が一人を殺したとしても奴隷にされる事は無い。その代わり収容施設に入れられる。子供が罪を犯した時に詳しく調べると大体周りにいる大人が罪を犯している。
罪を犯す子供達は大人に騙されたり、唆されたり、その子の家族を殺されていたりする。
この国では家族殺しの仇討ちは罪に問われない。しかし仇相手が貴族である場合は仇討ちでも、その場で殺されるか捕まってしまう事が多い。可哀想だがこればかりは貴族に位の高い知り合いがいないとどうしようも無い事の方が多い。
今の団長になってからそんな貴族は騎士団が目を付けて証拠を握り些細な罪で捕える、そして自白させる。以前の罪も一緒に。大分王都の掃除は終わったと思っていたが・・・
犯罪を犯した子供は以前の魔導士長が作った収容施設で何年か作業をさせられ、学ばされて、まともに生きて行けそうならば外に出る許しが与えられる。出たら一般人として生きて行けるのだ。
それを許さない殺された貴族の家族は施設から出たばかりの子供を秘密裏に殺してしまう事もある。だから、どの子がいつ施設を出るかは誰にも教えていけない事になっている。
だが、何故だかその秘密は守られる事が無い。だから貴族に何をされても歯向かうなと子供達は普段から親に教えられる。
私自身も貴族の出ではあるが、荷馬車に乗せられて行くこの現状を見てどうしようも無い腹立たしさで腕がワナワナと震える。直ぐにでも飛び出して助け出したいが、この子達を買い取る者も捕えないといけない。
「ふぅーーー」
深く息を吐いて自分を落ち着かせテイムしているダークウルフに荷馬車を追うように思念を送る。
荷馬車が走り出した。少し離れて黒い影が二つ後を追う。
団長と、協力してくれているギルドにも、もう一台奴隷を乗せた馬車が出た事を手紙に書いて仲間に魔法で送って貰う。
ここを仲間に任せて自分はもう一匹の大きなダークウルフの背に乗り荷馬車の後を追った。
荷馬車は港町から出て一番最初の分かれ道を左に折れて進んで行く。
途中の領地の何処かに行くのかと思ったが、王都へ入る北門の直ぐ手前で左に曲がった。こちらの道は遠回りではあるが王都の北門に繋がっている。
私が乗っている大きなダークウルフは先に行った二頭のダークウルフの親だ。子供の匂いを追いかけながら進んでいく。馬車が止まったら見つからないように隠れて待機せよと思念を送った。
暫く進むと大きな屋敷の敷地が見えて来た。ここは大きなビュシュケンス商会の会長の屋敷だ。
屋敷の前にその荷馬車が停まっていた。
母親のダークウルフは私を乗せたまま近くの雑木林の中に飛び込んだ。子供のダークウルフがそこにいた。
「よし、いい子だ。ちゃんと隠れられたな。」
良くできたと先に行った二頭の頭をなでた。
屋敷の様子を伺いながら梟を呼び出しておく。
裏口に居るあの白髭の男はグールブリュン子爵の護衛の魔導士だ。この商会もたしかグールブリュン子爵と懇意だった筈。
奴隷の首輪を嵌められた者達が馬車から下され屋敷の裏口から中に入れられて行った。
ポケットからテイムしているハツカネズミを出して奴隷が連れられて行くのを追わせた。
「頼むぞ、彼らの後を追って何処に連れて行かれるのか確かめてくれ。」
ハツカネズミのヴァイスは「チチッ」と鳴いて裏口のドアの隙間から屋敷の中に潜り込んだ。
暗闇の中、梟のナハトが私の肩にそっと降り立った。この屋敷迄の地図と奴隷が屋敷に連れ込まれた事を手紙に書いてナハトの足に巻きつけた。城の団長まで届けてくれ。と梟に伝え空に放った。
手紙が届けば直ぐに助けが此方に来るようになっている。
四半刻もかからず騎士団のメンバーが十人、馬を飛ばして駆けつけてくれた。港の仲間から連絡が行ってたので、いつでも出れるように待機していた為早く到着出来たと後からきいた。
ダークウルフ達に屋敷から逃げる者は捕まえるように指示をし屋敷に皆で突入した。
荷を下ろした御者は荷馬車を動かして逃げるように走り出したが、門をでた所でダークウルフ達に馬が驚き騒ぎ出した。
動けず停まった荷馬車の御者は騎士団に拘束された。
屋敷に突入した者達は屋敷の使用人達と商会の者達をとりおさえた。商会の会長と白髭の男の居場所を聞いたが口を割らない。屋敷中を皆で探しているが見つからない。
ハツカネズミのヴァイスを呼んだが出て来れないのか見つからない。
暫くして一階の会長の書斎で証拠の資料が無いか探していた騎士団のメンバーがネズミの鳴き声がすると私を呼びに来た。
確かに鳴き声はするが姿を見せない。
本棚の所から声が聞こえてくるので本を退けながら探していると動かない本があった。ひっぱってみたが取れない。上にも下にも動かない。それならばと壁の方にグッと押してみた。カチッと音がして本が奥にズレると大きな本棚が左右に開いて行った。本棚がズレた先には地下に続く階段があった。
階段の一番上でハツカネズミのヴァイスが遅いよ!と言うように「チッチッ」と鳴いた。
どうやらこの下に居るようだ。捕まえた者達の見張りに三人置いて八人で地下の階段を降りた。
地下には牢が幾つもあり、馬車で連れて来られた者達が入れられていた。
助け出そうとしたが鍵が無い。
一番奥の方まで探しに行った騎士が、
「外に出る抜け道があるぞ!」
と叫んだ。
「会長と白髭を追え!二人はここは残れ!」
と私も叫んで抜け道を走った!戸を開けると林の中の石に囲まれた出口に出た。
遠くで「助けてくれー」と声がする。
走って行くとダークウルフの子ゴルトに抑え込まれている商会の会長がいた。
子狼と言っても人間より一回り大きな躯体なので戦いの経験の無い者は敵わない。
「白髭は何処に行った!」
「わ、分からない、あいつも大きなウルフに襲われていたから逃げた筈だ。」
「ワウォーン」
ともう一匹のダークウルフの子モーントの呼ぶ声がした。騎士を二人連れてそちらに向かうと、モーントに抑え込まれて白髭の男が倒れていた。
少し離れた所にダークウルフの母親のシュバルツも倒れている。側に駆け寄ると脚と背に尖った氷が刺さっていた。漆黒の毛並みが血でベタベタだ。白髭の仕業か!
背中の氷は今抜くと大量の血を無くしてしまう。
ポーションを取り出し背中の大きな傷にかけた。氷はみるみるうちに溶けて傷が塞がっていった。足にも刺さっているがもうポーションは無い。
「誰かポーションを持っていないか?」
白髭を縛っている仲間に声を掛けた。
「有りますが低級ポーションです。深い傷は治らないと思いますが良かったら使ってください。」
「ありがとう。後で返す。」
脚の氷は抜いて、貰ったポーションをかけた。傷は塞がって出血は止まった。ポーションが効いてくれたか。
シュバルツが立とうとするがフラフラして立ち上がれない、傷ついた脚に力が入らないようだ。
「無理に立たなくていいぞ、そのまま暫く横になっておけ。後で馬車で運んでやるからな、少し待っていてくれ。良く頑張ったな、ありがとう。」
白髭は脚を爪で裂かれ右手をモーントに噛まれて出血していたが死ぬような深い怪我では無い。顎にあざもあったのでシュバルツにアッパーを喰らって失神したようだ。
こいつはグールブリュン子爵の護衛だった筈。子爵の罪を問う為に死なせる訳にはいかない。
逃げられないうちにグールブリュン子爵も取り押さえないと。
シュタウフェンベルク伯爵のご子息誘拐や商人達の荷馬車を襲った盗賊達と何らかの関係があると見られている。
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