68 甘口
屋敷に帰って持ち帰ったサクランボの発酵液をグラスに入れて試飲した。発酵していた液体はもうお酒になっていた。
甘みのあるワインだ、鼻にサクランボの優しい香りが抜ける。
もっと発酵が進むとこの甘味は薄くなりスッキリとしたワインになるらしいが、私はこの甘いワインが気に入った。
発酵が進まないうちに、この甘いワインも保存しておきたい。マジックバックに入れておけば甘いままの状態で保存出来る。
夕食の時間にはヴィルさんも帰って来ていたので甘いサクランボワインを皆で試飲した。と言ってもレイラとロウには流石に飲ませる事は出来ないので、オレンジジュースをあげた。
ウォルトとクルトとテオに二口分程の量を味見用に渡したら、彼等にも好評だった。
成人になったら彼等にこのワインをプレゼントする事を約束した。
レイラとロウも同じように欲しいと言うので、瓶に名前を書いたラベルを貼って取って置くと約束した。
皆んなはこのワインを渡す時にはどんなふうに成長しているだろう。
子供達の成長した姿を想像して一人でニマニマしそうになる顔を皆に見られないように引き締めた。
クルトは物心の付いた位からお酒は嗜んでいたそうだ。お酒の味や匂いを知って毒が入って無いか自分でよく観察するようにと食事の時に出されていたと言う。
彼が他国の王子だと言う事はヴィルさんから聞いて知っているが、王族って大変だ。自分が王になりたいなんて思って無くても、周りの大人達がそっとしておいてくれない事が有るし、腹違いの王子達だと、それがもっと顕著になるという。
彼の母親は彼を守る為に、王族から外される事になっても生き残って欲しいと彼を城から逃したという。
王子様のクルトだが、私はウォルトやテオ達と同じように接して行こうと思う。勿論これからも出来るだけ頭もなでさせてもらうつもりでいる。
ウォルトとクルトは小さいときから水代わりにエールは飲んでいたそうだ。家庭で簡単に作れる余り美味しくないエールだと言っていた。
ヴィルさんの国では成人が十六歳なのでその年齢の子は普通にお酒を飲んでいるそうだ。
平民の子供はもっと小さい子もエールを飲んでいるらしい。生水よりもお腹を壊す事がないので水の代わりにアルコール度の少ない物を小さい頃から飲み始めるようだ。
平民は魔法が使えない者が殆どなので、綺麗な水を出す事が出来ないからと言うのも一因らしい。
この島の村人は浄化された水が家の台所まで引かれていて、蛇口を捻ると綺麗な水が出るおかげ?かエールを作っている村人は今の所いないな。
お風呂も同じ水を引いて貰っているので顔も安心して洗えるし、口にシャワーの湯が入っても安全だ。
甘いワインは侍女のクリスタさんや使用人のエマさんも気に入ったようだ。
女性にはこの甘い味が好ましいみたい。
今ではワイン工房となった酒蔵にあった一升瓶はヴィルさんがクリーンを掛けてくれたので綺麗なまま蓋をして保管してある。
ワインの瓶の三倍弱の大きさだが、この瓶に甘いワインを詰めて保存しておこう。五十本程でいいだろうか。
夕食が済んで子供達を寝かせたら瓶に詰めに行ってこようか、もう電気も付いているので明るい場所で作業出来る。
しかし村の人に頼んで明日詰め替えて貰おう。
少しでも彼らに仕事があった方が良いだろう。
そう、ヴィルさんと話していたら、
「甘いのが好きならもっと沢山詰めておくと良い、私の使ってないマジックバックをもう一つ貸そう。」
と馬車三十台分の荷物の入るマジックバックを貸してくれた。これワイン工房丸ごと入るんじゃないかな。
六百リットル入る中樽の分を丸ごとと、大きな樽から一升瓶に百本詰め替えた分を新しく借りたマジックバックに仕舞う事にした。
ヴィルさんによると、大きく、重い物もマジックバックに仕舞おうと考えて、バックの口を樽に近づけると、直接抱え上げなくても大きな樽はするっとマジックバックに吸い込まれると言う、取り出す時も、どの場所に取り出すかを良くイメージして物を取り出すと考えると、そのイメージの場所に取り出す事が出来るのだと言う。
成る程、だから日本の古い家屋を簡単に運んで設置する事ができたのね。
葡萄の枝を二週間おきに剪定して、新しい畑に差し木して行った結果、葡萄の畑は全部で十六反出来た。
種類毎に八反ずつ、一反が三百坪と言われているので大分広い畑となったが木の病気や虫害の事を考えて、畑をあちこちに離して作った。
島が葡萄畑で埋まるかなと思っていたけど、まだ島の一部程しか耕していない感じに見える。
今年は葡萄の収穫は出来ないかも知れないが二、三年したら収穫出来るようになるだろうか。
リラが一生懸命働いてくれているので、多分早い内に収穫出来るだろうと私は密かに思っている。
管理人用のログハウスの近くの畑の葡萄は食用の葡萄で此方も随分伸びていたので枝を少し剪定した。
此方の畑は私の世界にあるので村人は入れない。
それに四本しか植えてないので私一人で剪定してもそんな重労働ではなかった。
もう、葡萄の花が咲き中には実になりかかっている物もあったので、この枝は切らないで残しておいた。
琵琶の実が黄色く色付いて食べ頃だったので籠いっぱい取って持ち帰った。
葡萄の枝を山のロッジの裏の方に挿し木して、村人達にも分けてあげようと思う。実がなったら子供達が喜びそうだ。おやつにもなるし、沢山なったら甘い葡萄の品種だから自家製のワインも作れると思う。
屋敷の裏にも挿し木するか聞いてみよう。葡萄が出来たら料理人のパウルさんが屋敷用か、自分用にワインを仕込むかも知れない。
ロッジのお客さんはあの討伐の時に泊まった人達が一ヶ月に一、二度来てくれるので、私達が食べて行けるだけの食料はそれで賄える。
水道代も電気代もお金がかからない。
いや、きっと水を出すのに使っているあの魔石と言うものは消耗品だろうから、いつかは買い替えなければいけないだろう。
畑の野菜はリラのおかげで凄く稔るし、魚はローレンツさんとマルセルさんがよく持って来てくれる。お金は要らないと言うが、お店のお客さんに出す分だけは買い取らせて下さいと無理やり異世界の小銭を持たせている。
食料は多めに買っていてもマジックバックという道具があるので腐らせる心配が無い。
レイラやロウ、ウォルト、テオ、クルトには私が買って来た牛乳を飲ませているが、村の子供達の分までは買ってこれない。
ヴィルさんの世界には牛はいるのだろうか?
お待たせ致しました。




