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65 サクランボ

 



 サクランボは沢山実っているので取りながら食べても良いと皆に言っている。勿論競争中もね。


 さあ、執事さんの合図で半刻(一時間)競争の始まりだ。


 各家から大きな鍋や籠やビンを持ってきてもらいその中にどんどん取ったサクランボを入れていくが直ぐに一杯になる。

 一本の木にどれだけなってるんだろう。


 各家族に脚立や梯子は行き渡っている。しかし冒険者達の分までは無かった。彼らは梯子は使わないから大丈夫だと言っていた。どうやって取るのだろうと見ていたらジャンプして木に登り枝の上でどんどん収穫している。


 私は脚立に乗って収穫しているロウを支えている。時々取ったサクランボはロウの小さな口の中に入って行く。私の口元にもロウの小さな手で収穫されたサクランボが運ばれて来たので口を開けてそれをうけとめた。

「あまーい」と私が言うと

「あまーいね」とロウがにっこりと笑う。はぁ何て至福。口の中も、目も、至福でいっぱいだぁ。


 レイラは地面から届く枝のサクランボを夢中で取っていた。味見もせずにせっせと籠の中にサクランボを入れて行く。

 このサクランボは色が濃く日本のサクランボより大きい上に甘みが強い。外国のチェリーに近い感じだが、こちらの方が明るい色だ。


「レイラも一個食べてごらん。甘いよー。」


「大丈夫、後で沢山食べるから。」


 ヴィルさんもジャンプして木に登り収穫している。魔法禁止だから彼らの身体能力のみでジャンプしてるんだよね。凄いな。


 ピーーーー

 と笛が鳴り執事のオリヴァーさんが半刻の時間が経った事を伝えてくれた。

 さてさて、どのチームのサクランボが一番多いかな?

 一チームずつ秤に乗せて計っていく。


「上位三位を発表します。


 三位は収穫量十四キロの、ヘルマ、ロルフ、ラルフ、そして浜のローレンツのチーム」


「「「「「「「わー」」」」」」

 っと喝采が沸き拍手がおきた。

 ロルフもラルフも嬉しそうだ。ローレンツが二人の頭を撫でている。ちょっとがさつな撫で方だが二人とも笑顔がはち切れそうだ。ヘルマがローレンツに笑顔でお礼を伝えている。

 ローレンツはいやいや、ロルフとラルフが頑張ったからだよ。って返していた。弟のラルフがローレンツに抱きついて肩に乗せて貰って上機嫌だ。


「十四キロの収穫おめでとう!三位の皆んなには、お菓子の詰め合わせと、ワイン二本と葡萄ジュース二本を贈ります。仲良く分けてね。」


「「「「ありがとうございます。」」」」



「さて、第二位は収穫量十六キロの海のマルセルと屋敷の料理人パウルのチーム。」


「「うおー!!」」


 と二人の雄叫びが上がった。皆んな拍手をしている。


「凄い、メンバーは二人なのに十六キロもの収穫おめでとう!二位にはお菓子の詰め合わせとワイン四本と葡萄ジュース四本を贈ります。」


「ありがとうございます。」



「では、お待たせ致しました!第一位は収穫量二十一キロのウォルト、クルト、テオ、そして使用人のローマンとエマご夫婦です。」


「やったー!」

 とウォルトが右手を挙げてジャンプした。そしてクルトと拳と拳を合わせるような仕草をして、その手をテオにも向けた。

 テオも右手を出して軽いグーパンチの挨拶を交わした。

 使用人のご夫婦も満面の笑みで嬉しそうだ。


「おめでとうございます。二十一キロは凄いですね。一位にはお菓子の詰め合わせ、そしてワインが六本、葡萄ジュース六本を贈ります。仲良く分けて下さいね。


 今日参加してくれた子供達には参加賞として一つずつお菓子を用意してあるので、既に商品を貰った子もこれは別にまた貰いに来て下さい。全員分あるからね。並んでねー。はい、おやつに食べてね。はい、どうぞ、子供は十八歳以下の人だからねー。テオもクルトもウォルトもクヌートも貰えますよー。はい、どうぞ。あはは、エーリックさんは十九だから、アウト!残念。貴方は大人です。え?つい最近まで十八だったの?ではまだ子供?」


「アステラ王国では成人は十六だ。残念ながら君は立派な大人だな。」


 と(そよ)ぐ風のライナーさんが言うと


「残念!やはり子供に成りすますのは難しい。」

 と両手を広げて戯けてみせた。それを見ていた皆から笑いが起こり


「エーリック何やってんだ!」

 とか、


「そんなでかい子供が何処にいるんだー!」


 などと囃し立てられていた。


「お兄ちゃん、お菓子分けてあげるね。」


 と村の口下手なハンスの三歳の子エリーザが棒状のお菓子を一本差し出した。


 エーリックは場を和ませる為に態と自分も貰えますかー?と言って来たが、まさか貴重なお菓子を分けてくれる子供が居るとは思わず固まってしまった。


 お菓子を握って差し出した手を背の高いエーリックに向けて上げたままのエリーザ。


「エーリックが貰わないなら俺が頂くぞ。」


 と山の仲間の今では相棒となっているカミルが言うとエーリックはハッとして動き出した。


「エリーザ、ありがとう。でも君のお菓子が減ってしまうだろ?お兄さんはもう大人だからエリーザがお食べ。」


 と腰を屈めエリーザの手を取って口へ運ぼうとしたが、エリーザは首を横にふって、距離の近くなったエーリックの口へと菓子を運んだ。エーリックは差し出されたお菓子を口に入れて咀嚼し飲み込むとニッコリと笑って


「今迄食べた中で一番美味しかったよ、ありがとう。」


 とエリーザにお礼を伝えた。

 エリーザはニッコリ笑って母親のエッダの方にトコトコと走って行った。


 皆んながこのちょっとした出来事にほっこりした顔をして、胸の中に一つ増えた暖かな物を味わえるこの幸せな時間にちょっぴり感激しているようだ。



「皆さん今迄収穫した分のサクランボは各自持ち帰って下さい。直ぐに食べてしまえない分は収穫後に皆で鍋で煮て瓶詰めにしましょう。夕飯はロッジの炊き出し場で皆で一緒に夕飯を作りましょう。材料は用意してるのでお手伝いをお願い致します。

 冒険者の皆さんはまだ時間は大丈夫ですか?時間がまだあれば夕飯を食べてもう一泊して行って下さい。収穫を手伝って下さる冒険者の方は今日は無料でご宿泊下さい。

 水分補給をして、少し休んだら収穫を再開します。

 何か用のある方は遠慮なく自分の用を優先して下さいね。」



 競争の後もサクランボの収穫には村の誰もが参加して、冒険者の(そよ)ぐ風のメンバーも最後まで手伝ってくれた。 

 執事さんと侍女さんのご夫婦と使用人のご夫婦は屋敷の仕事に戻られたが、今日の夕飯はこちらに来てくれるそうだ。

 そう言う訳で、屋敷の夕飯の準備が無くなった料理人のパウルさんも残って収穫に参加してくれる事になった。


 ドワーフのエトムントさん、アーダさん夫婦とゲラルトさん、バルバラさん夫婦には樽を幾つか用意して貰っている。


 サクランボの木は結構大きくて、サクランボの収穫量が凄い事になると思っていたから、大量に取れるサクランボをどうしようかと考えていた。

 勿論マジックバックの中にも少し保管はしておくが、すでにクラーケンが保管してある。これは今日の夕飯に足一本分は出す予定だ。


 馬車三台分のマジックバックにはまだ余裕があるから良いかな。


 一時間ですでに二百キロ近くを皆で収穫したが、収穫し終わった木はまだ一本も無い。どのチームも木の半分程も収穫出来ていない。手を付けていない木もまだ十三本有る。と言うことはまだまだ二百キロを超える量のサクランボが木に残っている状態だ。

 そのサクランボを使ってサクランボワインを作ってみようと思う。

 それでエトムントさん達に樽を幾つかお願いしたのだった。





いつもお読みいただきありがとうございます。

読んで下さる人がいる事が小説を書き続ける力となっております。本当に感謝です。

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