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56 屋敷


お待たせ致しました。





 ヴィルさんが買って来たのは電線だった。宿にしているロッジを山の頂上の異世界側に移動する為に長〜い電線を買って来たのだ。地中に埋める為の菅も購入していた。

 私のロッジに繋がる為の電線なので代金は私に請求して下さいと言ったが、子供達が世話になってるので受け取れないと拒否された。


 ヴィルさんは昨夜はローレンツさん達の島へ行って今日は朝から私の異世界確認に付き合わせて、その後買い物に行って、昼食の後、午後からは王都の方に仕事の確認に行ったようだ。


 夕飯を済ませた後、


「明日ロッジを移動させよう、どの場所に設置するかを確認して欲しい。」


と言われた。




 四月十八日午後、とても良い天気だ。

 山の頂上の平坦な場所はかなり広い。

 卵型に広がるこの場所は東西が五百五十メートル、南北が四百五十メートル程の大きさだ。


 すでに花を落として若草色の葉を茂らせた桜の木が頂上の広場を囲むように立っている。葉の間に碧い実が覗いていた。サクランボだ。五月に入ったらサクランボ狩りが出来そうだ。周りの桜の木ほぼ全てに実が付いていた。これは総出で取らないと収穫しきれなそうだ。

 

 広場の中程にも所々に桜の木や、杉の木、楠木等が立っている。異世界の木?のようだけど、日本の木と変わらない姿形をしている。


 足元には芝生のような背の低い草やピンクや白い花を付けた草が生えていてレイラとロウが春の柔らかな日差しの中、花の匂いを嗅いで花から花へと走り回っている。

 ロウはレイラの真似をして花の匂いを嗅いでいたが、小さな虫の方に興味が移ったようだ。

 ウォルトとテオが何処かに行ってしまいそうな二人の後を心配そうに追って回っている。

 その様子を見ながらクルトも後を追っているが、彼は一歩引いて全体を遠くから観察している。


 ウォルトとテオ、クルトに少しの間レイラとロウのお守りをお願いした。

 既にお願いする前から彼等はレイラとロウの側にいてくれたが、正式にお願いすると、自分に任されたという責任感を感じた為か三人の顔が変わった。

 三人とも頷いて真剣な表情だ。


 キリリとした眼差しの中に日頃色んな訓練を受けているこの子達の成長を感じて、ついこの子達の母のような気持ちになってしまう。

 ううっ、ぎゅっとしていい子いい子と頭を撫でたい。

 後でご褒美とばかりに撫でてしまおうと心の中で企てている。


 頂上の南西付近の下り口から百メートル程の場所にロッジを設置する事にした。


 ヴィルさんのマジックバックから基礎ごと取り出されたロッジは土魔法で地面が掘られあっという間に設置されていった。

 客室から海が見えるように設置して貰った。

 炊き出し場所も建物の西側に設置された。


 次にヴィルさんは自分の離れの屋敷を頂上の南東付近に設置する許可を私に求めた。

 勿論許可して屋敷の設置作業を子供達と見学した。

 これからこの離れの屋敷に子供達五人と私とヴィルさんが同居する事になるのだと今聞いた。


「子供達は私の保護下にあるし、ユミ殿が住んでいた家はあそこから動かせないのであろう?仕事が終わって夜に麓のあの家まで帰るのは危ない。この屋敷に住んで土曜日の買い物の時だけ様子を見に行けば良いだろう?そうすればレイラとロウも君とウォルトから離れなくてすむ。」


「は、はぁ」


「それにロッジの近くの方が客に何かあった時に対応が早く出来るだろう。」


「え、ええ、そうですね。」


 良いのだろうか、一緒に住むなんて。


「心配しなくてもいい、私の屋敷の執事と侍女と使用人も居る、屋敷の事は彼等に任せてある、君は自分の仕事だけするといい。」


 えーっと、そういう事では無いのだが、まぁ、他に大人が居るのならば良いかな?


 離れというから小さな家だと思っていたが三階建ての大きな西洋風のお屋敷だった。部屋数が二十五部屋有るという。しかも従業員用を除いてだ。どれだけ大きいんだ!これが離れの小さな屋敷だと本邸は想像を絶する。


 屋敷の周りは石垣で囲まれて門も出来た。

 東側の崖の所は危険なので柵を作ってくれるそうだ。そんなに至れり尽せりで良いのだろうか。


 屋敷を設置し終わると既に頂上迄引いていた電線を各建物に設置して行く。

 ヴィルさんは二十分程でヴィルさんの屋敷にも電線を引き終わった。

 彼は電気工事士の勉強をして既に免許を持っていると話していたが、あれって取るのに結構時間がかかる筈なのに、え?二種免許だけでなく一種も取ったの?そんなに早く取れる筈無いんだけどな。私の知らない時間軸があるのかも知れない。


 うん、私は何も知らない、み、見て無い事にする。

 まぁ日本でない所で作業しているし、勉強していないと電気の接続なんて出来ないだろうから免許は本当に取ってはいるのだろうと思う。




 海で助けられた人々の家はヴィルさんが日本の空き家を貰って運んで来てくれた。

 家の中に残されていた家具や服、キッチン用品や、色んな道具も一緒に運ばれて来た。

 ただで家を引き渡す条件が中の物も全て一緒にという事だったらしい。残された人は処分に困るからね。


 家は日本家屋だった。田舎の廃村になった所から頂いて来たらしい。どれも竈門のある家だった。お風呂も付いていて、薪で沸かすタイプだ。

 電話で話したのが昨日、そして翌日の今日もう全員分の家が設置されるって、永沢さんどれだけ仕事が早いの!

 いや、ヴィルさんだっていつ家を受け取りに行ったの?寝て無いんじゃないかしら?彼が働き過ぎてるのって私のせい?


 午前中に島の北側の方に家は設置され小さな村が出来た。

 家を与えられた皆は今その掃除中だ。

といってもヴィルさんがクリーンを掛けてくれていたらしく、皆は不具合のある場所を修理していた。


 水はあの山の湧き出ている小さな滝の所から村の場所までヴィルさんが引いてくれて、皆が使えるようになっていた。

 水を綺麗にする浄化装置もつけてくれたらしく、大きな水槽が設けられていた。そこから各家に水道が引かれた。


 皆は自分達の取り敢えずの借り家を与えて貰って生き生きと笑顔で働いていた。




いつもお読みいただきありがとうございます(^∇^)

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