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40 思わぬ訪問者



 二月十五日、土曜日私はヴィルさんに留守と子供達を頼んで食料品を補充する為買い出しに行った。


 ヴィルさんは子供達の様子を見る為に食料品を持って何度か来てくれていた。


 持って来てくれた食料品は肉や野菜、小麦粉や蜂蜜等があったが、米が底をついた。小麦粉でお好み焼きや団子汁等を作り米の代わりに食べていたが、やはり米が欲しい。

 だからこの日買い出しに行くので留守を頼めないか聞いた所、その日一日居てくれると約束してくれたのだ。


 いつもの船が朝迎えに来てくれて、買い物や用事を済ませて三時に船着場から帰りの船が出る。

 まずお婆ちゃんの家に行って郵便受けを確認した。港からお婆ちゃんの家まではバスで二十分程だ、帰りのバスは二時間後なので歩いて市の中心部まで行く。そこまでは歩いて三十分程で辿り着く距離だ。


 その近くのスーパーで必要な物を持てるだけ買ってバスに乗って港へと向かい、買った物を船に積ませて貰って、今度は港近くのお米やさんに行った。二十キロ買うといったら家まで運んでくれると言うので、それなら三十キロ下さいと言って船まで運んで貰った。


 時間がまだあるので港の近くのストアでチーズや調味料類にカレールー。そして久々に缶ビールまで買ってしまった。その上、水がもう要らない事を漁師の佐竹さんに言えずにまたポリタンクに注いで運ぶ。いつか言わなければと思いつつ、多分なかなか言えないのだろうな。

 ヴィルさんに相談してみようかな、出会って間もないのにこんな事まで聞いて大丈夫だろうか。


 初めはコスプレした変な人だと思っていたが、ウォルト君を探しに一緒に行ってくれたり、子供達を保護して連れて来たり、山の湧き水も引いてくれたとても親切な人だと私の中にインプットされてしまった。



 重い荷物を船から下ろして水だけ管理人用の家に運ぶのを手伝ってくれた漁師さんは帰って行った。他の物も運んで貰うのは気が引けて私が断ったから水だけを運んでくれたのであって、佐竹さんが他の荷物は嫌だねという態度を取った訳では無い。水を運んで貰うのも気が引けてしまう、水道が既に使えて水は充分にあるのだ。

 もう次からは運んで貰わなくても良いように何か手を打とう。


 お米はロッジAで炊くのでそちらに運ぼうとしていたら、留守をしてくれてたヴィルさんが来て手伝ってくれた。

 十キロずつの三往復を覚悟していたが一往復だけで息が切れた。ヴィルさん感謝致します。


 船着場に残した買い物の袋を少しずつ運んで、最後の三袋を取りにヴィルさんと船着場に向かうと帰って行った筈の船が着岸しようとしていた。横でヴィルさんは何か唱えていた。


 私何か降ろし忘れた物があったかな?

と思っていたら男の人が一人船から降りてきた。


「由美!」


 えっ?よしみって呼ばれた?


「由美!ずっと探してたんだ!どうして居なくなったんだ!」


 二度と見ないと思っていた男の姿がそこにあった。


 どうしていなくなったかですって!何分かりきった事聞いてるのよ!それに何でこんな所にいるのよ!


「どうしてって、分かってますよね。どうして私が会社も辞めて引っ越したか。」


「あ、いや、分かってる、すまなかった!許して欲しい、出来心だったんだ。」


 と言って私の元婚約者はその場で土下座した。

 

「帰って下さい。」


「お願いだ、許して欲しい。」


「佐竹さん、この人船に乗せて行って下さい。ここに置き去りにされると困るんです。」


「君のお婆さんの家に行っても留守だったので、ちょうど通りかかった人に聞いたら、港の方に居ると教えて貰ったんだ。ちょうど船に乗って出て行く君を見つけた。」


「良く他人のあなたに私の居場所を教える人がいましたね。普通は赤の他人になんか教えてくれないですよ。」


「いや、あの、こ、婚約者だと説めぃ・・・」


「誰が婚約者ですか!私には婚約者はいませんが!」


「いや、こ、婚約者だったけど、誤解で怒らせてしまったと・・・」


「はぁ!別の女との濃密なキスシーンを目の前で見せられて、どこが誤解なのでしょうか?思い出して鳥肌が立ちます。」


「い、いや、あれは彼女に騙されて。」


「貴方は女性に騙されると濃密なキスをするんですね。凄いわ!」


「い、いや、すまん、すまなかった。君と結婚したらもう浮気はしないと誓う。お願いだ許してくれ。」


 おでこを地面に擦り付け謝るが全然許す気になんかなれない、その顔を見せないで欲しい。


「もし私が違う男とあなたの目の前で濃密なキスをしてもあなたは許せるの?『結婚したらあなたしか見ないから許して』と言ったら、分かった結婚しようって言えるの?」


「そ、それは」


「ほら、直ぐに答えられないでしょ。それが私の答えです。婚約は破棄した筈です。帰って下さい。二度とここに来ないで、この土地をその足で踏みしめないで!」


 私は踵を返してログハウスに向かった。

 後ろから彼の声が聞こえて来る。


「どうして許してくれないんだ!そ、そいつか!その男がいるからか!なんだ!別れたそうそうもう新しい男を捕まえたのか!だから許さないって言うんだろう!お前もあの女と一緒じゃないか!自分に都合の良い男が出来たら直ぐ乗り換えるんだ!お前もそんな女だ!わざわざこんな田舎まで来てやったのに!とんだ尻軽女だな!」


 心まで腐った男だ!もう本当に関わりたくない。


 怒って歩き去る由美の後ろ姿を見たヴィルフリートは穏やかな声でこう言った。


「私は井戸を掘る話し合いをしに来た者ですよ。この島は水が無いので井戸が欲しいと相談されて来ています。」


「おーそがんやったとね。井戸は掘れそうね?」

【おー、そうだったのかね。井戸は掘れそうかい?】


 漁師の佐竹さんは自分が連れて来た負目もあり、居ずらい場面にどうしようかと思っていたが、背が高く外国人のように堀の深い顔の男が落ち着いて話し始めたのに乗っかって、逃げ道が出来たと喜んだ。


「ええ、掘って見ないと何とも言えませんが、深く掘る事で海水でない水がこの島にも湧いて来るのではと思っています。水が出たらお知らせします。先程船で水を運んで手伝っておられたでしょう。水が出ると良いですね。私達が責任を持って水が出るまで掘り進めていきます。水を運ぶのは重労働ですからね。」


「おお、そうね、早く出ればよかな、そいじゃほら、兄さん船に乗らんね、帰るばい。もう日のくるっ、こん島で野宿ばすっ訳にゃいかんじゃろ。ぬっか宿で体ばあっためて落ち着こう、な、そがんしよ、そいがよか。」

【おお、そうか、早く出るといいな。それじゃほら、兄さん船に乗りな、帰りますよ。もう日も暮れる、この島で野宿する訳にはいかないでしょう。暖かい宿で体を温めて落ち着きましょう、ね、そうしましょう、それが良い。】


 しぶしぶと由美の元婚約者は船に乗った。


「そっちの井戸屋さんは一緒ん乗っていくね?」

【そちらの井戸屋さんは一緒に乗って行くかね?】


「いや、私の迎えはもう少ししたら来る事になっていますから、ご心配なく。」


「そうね、そんなら帰るばい。そいぎね。」

【そうか、それなら帰りますわ。ではでは】


エンジンをかけて船は出ていった。





いつもお読みいただきありがとうございます。私用で明日から出かけますので、8日迄お休み致します。

 間で執筆出来そうな時はもしかしたらもしかするかもしれません。


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