4 島へ
一月六日、指定の港で漁師さんに船に乗せて貰い島に着いた。十五分程で到着した。島は港からも端がぼんやりと見えていたので近いとは思っていたが、あっという間だった。
小さい島だけど、きちんと船着場がコンクリートで作られていた。元会社の福利厚生の為に使われていたから整備してあるのだろう。
この島を案内してくれる管理人の大瀬さんと言うお爺さんが迎えてくれた。漁船の佐竹さんは三時間後に迎えに来ると言って帰って行かれた。
島は一周くるっと浜辺を回ると歩きで一時間ちょっとで回れる程の大きさだ。多分歩く速度にもよるだろうけど、一周四キロメートル程なのかな。
想像していた島より大分広いと感じた。立派な島だった。
こんな島が当たるなんて!凄い!
駅ビルでむしゃくしゃして爆買いしなければ五回分のくじ券は貰えて無かっただろう。
そのむしゃくしゃの原因が婚約破棄なのだが、そのおかげで島が手に入ってしまった。浮気も結婚した後に知る事にならずにすんだ。早く分かって良かったんだ。そう自分に言い聞かせた。
気持ちを切り替えてこの島で何をしようか考えよう。そして東京に戻ったら直ぐに手続きに行こう。
島の中心は木が生えていて小高くなっていた、小さい山だそうだ。
船着場に程近い所に管理人さんが普段住んでいる小さめのログハウスがあった。
中にはトイレとお風呂も付いてるので生活に不便は無いらしい。ログハウスの裏手に小さな畑もあった。今はネギが端の方に少しあるだけだ。
調理の時に取り除いた種等をここに捨てておくと勝手に育って実がなるって大瀬さんは言ってた。自分一人で食べる分の野菜は秋迄はここで取れた分で大体賄えるそうだ。足りないものは休みの日に買い物に行くので船での送迎を佐竹さんと契約している。
私もここに来たら種を買ってきて撒いてかえろう。次の休みに来た時には実がなってるかも。そんな楽しみもあるんだな。と考えてたら嬉しくてニマニマしてしまった。
管理人さんは浜に打ち上がった漂流物を掃除し、草を刈り、たまに泊まりに来る人の為にログハウスの掃除とメンテナンスをしてた。
泳げる場所や、山に入っては良いが、北東側は崖になってるのでそこは危ない、落ちないようにと注意をするのも仕事だったと話していた。
柵は無いのだろうか。無かったら取り付けた方が良いかな。色々見てから少しずつ考えて行こう。
ここは魚も釣れるし、浜の貝も取り放題らしい。お客さん達もそれが楽しみで泊まりで来てたそうだ。
だけど最近はここに通っていた人達も年を取って足が遠のいたみたいだ。管理人のお爺さんも一人でこの島の管理をするには身体が辛くなって、それに人の遠のいた島では張り合いが無くなったと言っていた。
そうだよね。部屋の掃除も誰かが来るから、綺麗にしよう、ってモチベーションが上がるけど、誰も来ないなら掃除機掛けてこれで良いやーってなってしまう。その気持ちは良くわかる。
管理人さんは一月一杯でここを辞めたら息子さんとお孫さんの居る福岡に行くそうだ。
お孫さんが、お爺ちゃん早く来てって言ってくれるんだと、しわしわの目尻をもっとしわしわにして笑って教えてくれた。
それは楽しみですね、って言葉と共に自分も笑顔になっていた。