第2話:冒険者がやってきた
村の朝はいつも穏やかだ。鶏が鳴き、農夫たちが畑に出ていく。だがその日、村の市場に見慣れない一団が現れた。
全身に傷だらけの鎧をまとい、背中に巨大な剣を背負った男。軽装の女性弓使いと、ローブをまとった魔法使いらしき人物。彼らは疲れ切った様子で村人たちに声をかけていた。
「……この村に食べ物を売ってる店はないか?……頼む、何でもいいんだ……」
リーダーと思しき男は、明らかに空腹で弱っていた。肩を落とし、話す声も力がない。
「そんなに腹が減ってるなら、ルークのところへ行きな!」
市場にいた村人たちが声をかける。
「ルーク……?どんな料理人だ?」
弓使いの女性が怪訝そうな顔をする。村人が笑いながら答えた。
「まあ見てのお楽しみだよ!昨日のジャムを作ったんだ。あいつが料理すれば、元気になること間違いなしだ!」
こうして冒険者たちは、マーサに案内されてルークの家へと向かうことになった。
店の扉が開かれた時、ルークはちょうど朝の仕込みを終えたところだった。
「おい、ここが噂の店か?……って、子どもじゃないか?」
リーダーが開口一番そう言うと、弓使いと魔法使いもルークを見て驚いた様子を隠せない。
「……本当に料理できるの?冗談じゃないわよね?」
弓使いの女性が半信半疑で尋ねる。魔法使いも冷静な声で続けた。
「我々は疲労困憊で、ここまで来るのもやっとだった。悪いが、冗談で料理を頼む気はない」
ルークはその言葉に少しだけムッとしたが、笑顔を崩さずに答えた。
「簡単な料理しかないですけど、それでもいいならお作りしますよ!」
リーダーの男は、空腹が限界に近いのか、渋々うなずいた。
「……まあ、腹が減りすぎてる。文句は後にしよう。頼む……できるだけ早く……」
彼の弱々しい声に、ルークは静かに頷いた。そして心の中で決意を新たにする。
『ここで食べてもらえば、きっとわかってもらえる』
ルークが選んだのは、先日市場で手に入れた「ドラゴンパプリカ」。真っ赤で大きな実を持つが、加熱すると中の辛味が引き出される不思議な野菜だった。そのままだと辛すぎて食べられないため、村人たちも使い方に困っていた。
『この野菜は、肉と合わせて焼くと甘みが引き出され、辛さが程よくなる』
ルークは料理神の加護で得た直感を信じて調理を始めた。
フライパンにオリーブオイルをひき、豚肉とドラゴンパプリカを加えてじっくりと焼く。肉の旨味が引き立ち、パプリカの辛さが甘みに変わる香りが厨房に広がる。仕上げに塩とスパイスを振り、簡単ながらも冒険者向けのスタミナ料理が完成した。
「お待たせしました!『ドラゴンパプリカと豚肉のソテー』です!」
ルークが皿を差し出すと、冒険者たちは最初こそ懐疑的だったが、香りに誘われてリーダーが恐る恐るひと口食べた。
「こ、これは……!」
リーダーが驚いた声をあげた。
「辛いのに甘い……いや、この肉の旨味と野菜の香ばしさが絶妙だ!まるで体に力が湧いてくるみたいだ!」
女性弓使いも口に運び、目を見開く。
「美味しい……こんなの、ただの村で出てくる料理じゃないわよ!」
魔法使いは静かに食べながら、満足そうに頷いた。
「あの少年……いや、ルークという名の料理人に感謝しなければなるまいな」
一行は夢中になって料理を平らげ、最後には満足げな表情を浮かべていた。リーダーの男がルークの前に立ち上がる。
「ルーク、本当にありがとう。この料理のおかげで俺たちはまた次の旅路に進める。……いや、次も必ずここに戻ってくる!その時は、またお前の料理を食わせてくれ!」
「もちろんです!もっと美味しいものを用意して待ってますよ!」
ルークは笑顔で答え、リーダーも頷くと、ポケットから一つの袋を取り出した。それをルークに差し出しながら言う。
「礼だ。この前討伐したモンスターから取れた『グリムオニオン』だ。調理法は知らねぇが、お前ならきっと活かせるだろう」
その夜、ルークは暖炉の前でグラティアに報告をする。
「今日は冒険者の人たちが来てくれて、料理を喜んでもらえました!」
金色の光の中から現れたグラティアは、満足そうに微笑む。
「ふふ、やるじゃない。『また来る』って言わせたなら、あんたは立派な料理人よ!」
彼女の言葉にルークは力強く頷き、さらなる成長を誓った。