表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕焼けの散花  作者: 智枝 理子
Ⅱ.過去と未知の薬
14/100

05 Groupe d'étude

王国暦五九九年 ヴィエルジュ二日


 年末年始の休みは今日で終わり。

 フラーダリーの出勤時間に合わせて、アレクと三人で家を出た。

 養成所に早く着いたのは良いけれど、今日は授業が何もない。午後に課題を提出するだけのホームルームがあるだけだ。

 アレクは用事があると言って行ってしまった。

 暇だし、休み中に借りていた本を返しに図書館に行こうかな。ついでに新しい本を探そう。

 

 図書館へ行くと、知ってる顔を見付けた。

 カミーユとロニーだ。

 テーブルで向かい合って何かやってる。いや、やってるのはカミーユだけか。

 本を返却してから二人の方へ行く。

 ……テスト?

「エル」

「エル。久しぶりだね。元気にしていた?」

 ロニーは苦手だ。

 カミーユの後ろに回る。

「どうしたんだ?」

 錬金術のテストっぽい。

 カミーユはロニーから錬金術を教わってるって、ナルセスが言ってたっけ。

 面白そう。

 カミーユの隣に座って、問題とペンを取る。

「おい」

 いくつかの物質について、それぞれの特徴がまとめられた表がある。

 これらを好きな組み合わせで使って、薬を作るらしい。

 それぞれ相性がある。

 組み合わせると効果が無くなるものだとか、成分が増強するものだとか。

 パズルみたいだな。

 少し予備知識が必要そうな問題でもある。

 

 目の前でロニーが立ち上がる。

 それを見送った後、用紙を破ってメモを書く。

 

俺にも教えて。


「何を?」


錬金術。

 

「教えられるほど知らない。まだ勉強中なんだよ」

 

これ、どうやって解く?

 

「わからないのか?」

 

さっぱりわからない。

 

 どこから手を付けたら良いのか、とっかかりが見つからない。

 カミーユが唸る。

「俺のやり方、どっか間違ってるらしいんだ。気づいたら言ってくれ」

 前にやったことあるのかな。

 カミーユが問題を解く過程を眺める。

 あぁ、そこから始めるのか。

 で。その実験器具はそうやって使うものなのか。

 ……あれ?

 

 カミーユが解き終わるのを待って、気づいた箇所にチェックを入れる。

 

これ、水に溶けるのか?

 

「え?」

 

常温で固形の物質だ。

 

「そうだ。これ、加工しないと」

 

これとこれは一緒に混ぜると危険。ちゃんと、扱う素材表に書いてあるだろ。

こっちは使う際に促進剤が不可欠だ。触媒に使える物質ってどれ?

 

「これだ。じゃあ、ここで混ぜて、」

 

この器具を使うんじゃないのか。

 

「あぁ、そうだよ。良く分かったな」

 

後、こっちも少量で激しく反応する物質だから気を付けないと。特別な加工や器具が必要なんじゃないのか。

 

 カミーユが問題を解き直す。

 あぁ、やっぱり。

 で、そうなるのか。

 ……計算も間違ってない。解けそうだ。

「エル、コーヒー飲むかい」

 頷いて、ロニーからコーヒーを受け取る。

 カミーユはロニーがコーヒーを置いたのにも気付かずに問題を解いている。

 簡単には終わらないな。

 この問題は、かなり面倒な工程を踏ませてる。

 本来は加工済みの薬品を使ってやることを、薬品の加工からやるように指示してるみたいだ。同じ名前で扱いやすい形にした薬品を実験室で見たことがある。粉末状にしたり、液体状にしたり、加工して危険度を下げたり。

 すごく勉強になる問題だ。

 でも、考えることが多過ぎ。

 甘い物が食べたい。

 そうだ。サブレを持ってたんだ。

 ポケットに入れておいたサブレの包みをテーブルに置いて、一枚をロニーに渡す。

「くれるのかい」

 頷く。

「ありがとう。エルは本当に甘い物が好きだね」

 そう言って、ロニーがサブレを食べる。

「手作り?」

 フラーダリーの手作り。

 ミエルのサブレだ。

 カミーユにも渡そうと思ったけど、作業を中断する気はなさそうだから、後にしよう。

 大きく取り消し線をつけられた解答は、途中から解き直されている。

 すごい。

 これが、結論。

 なんて綺麗な回答なんだ。

 答えが解るとすっきりする。

「できた」

「うん。良くできたね」

 ようやく、カミーユが顔を上げる。

「じゃあ、今日はここまで。また今度の休みに続きをやろう。課題は、その本を読んでくること」

 ロニーがテーブルの上を片づける。

 カミーユが、すっかり綺麗に片付いたテーブルを眺めながら口を開く。

「なぁ、ヴェロニク」

「ロニーでいいよ」

「お前の問題の矛盾、わかったよ」

「うん?」

「隠れる場所もない平地なら、見晴らしが良いはずだろ?敵の兵士が自軍の倍だって気づいた時点で、引き返すか作戦を練り直す。死ににいくような戦い方なんてしない」

 何の話だ?

「きっと、それも正解なんだろうね」

 正解?

「じゃあ、もう一つの回答をあげようか。私は言われた通り、真っ向勝負を挑む」

「はぁ?」

 待って。

「私はその状況で自分が勝利できると確信する。だって、自分が主君と仰いだ方の采配だ。負けるなんて有り得ない。それがもし、私だけで勝てない状況だと言うのなら、味方は必ず助けに来る。負け戦をするような方を主君に仰ぐつもりなんてないからさ」

 どんどん会話が進む。

 何の話か分からない。

 あぁ、声が出れば……。

 くそっ。

 ロニーが居なくなるのを待って、カミーユの口にサブレを突っ込む。

「んん?」

 少しはこっちを向け。

 カミーユを黙らせて、目の前の紙に文字を書く。

 

問題って何?

 

「えーと。千人の兵士が居て、目の前には二千の敵がいる。隠れる場所もない平地での、お互いの真っ向勝負。主君からは死ぬ気で戦線を守れと言われてる。自軍の兵士をどう使うか?って問題」

 なんだそれ?

 兵法か何か?

 でも、回答がたくさんあるみたいだったな。

「言っとくけど、戦いにおける数の有利は絶対だ。これは簡単に覆らないっていうのは常識だからな。一対多で各個撃破されて終わりだ」

 数の不利。一対多の状況では自軍の負けが確定している。

 なら、数の有利を崩せる方法が存在するんだろう。一対多ではなく、多対一に持ち込めるような。

 それ、どっかで見たことあるな。

 確か……。

 用紙に回答を書く。

 

自軍を三つに分ける。

 

 それから、二千の軍を大きな丸で、千人の軍を表すのに小さな丸を三個書く。

 両端の軍を前進、中央の軍は後退。

 そうすると、大きな丸い軍は中央に誘い込まれるように前進する。

 このまま大きな丸い軍を包囲するように小さな軍を移動させる。

 

「え?」

 

包囲すれば内側の敵は身動きがとれない。これで数の有利は覆る。勝てるかもしれない。

 

「良く思いついたな」

 

同じ戦法が載ってる本を読んだことがある。

数学の本だったと思う。

 

 しかも、教科書だった気がするけど。正確に覚えてないから、それを書くのはやめた。

 

錬金術、面白かった。

また教えて。

 

「ロニーに聞けば良いだろ」

 

あいつは苦手だ。

 

「アレクシス様は?」

 

アレクは忙しい。

授業に関係ない事なんて聞けない。

 

 カミーユを見上げる。

 だから、教えて。

「はいはい。言うこと聞けば良いんだろ」

 カミーユも、俺の言うことがわかるらしい。

 アレクやフラーダリーみたいに。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ