39話
いつもの執務室では手狭なため、サミュエルたちは食堂に集まっていた。
中央に座るエミリアとサミュエルを囲むように、テオ、ミゲル、マッテオ、マリアンナ、ルキウス、ジュリオ、そしてシルヴィオがめいめい座ったり立ったりしている。
コリンは門番の務めを果たすと言って、サミュエルたちを食堂に通すと持ち場に戻って行った。その成長ぶりに、また泣きそうになったのは秘密だ。
「シルヴィオ、来てたんだな。お前の地図、役に立ったよ」
「それは何よりです、坊っちゃん。ロッティもいますよ。今頃、森番と狩人の二人と一緒に森にいるはずです。調整池の微調整をするそうで」
未来でも使った切り札のためだろう。エミリアの目が輝いた。
「テュルクとヴィオラか。二人にも礼を言わないとな」
「先ほど人をやったので、間もなく来るかと」
ミゲルが言い終わると同時に、食堂の入り口に駆け込んでくる人影があった。テュルクとヴィオラだ。足元にはリュカとクラウスの二匹もいる。
二人はエミリアの姿を見ると感極まったように目を潤ませ、小走りで近寄ってきた。それを受け止めるように、エミリアが立ち上がって両手を広げる。
「テュルク、ヴィオラ、本当にありがとう。フランチェスカのために、立ち上がってくれて」
「いえ、できることをしたまでで……決断したのは、叔父をはじめ、森を愛するものたちです」
「私もよ。私がしたことは、狩人の誇りを問うただけ。それ以上のことは、何もしていないわ」
「それでも嬉しかった。戦っているのは自分たちだけじゃないと、勇気づけられたよ。ラスティにも世話になった。籠城戦を乗り越えたら、改めてお礼を言いたいな」
「叔父も喜びます。森で会った夫婦がフランチェスカ公爵とロドリゴ卿のご子息だとは思わず、とても驚いていましたよ」
とっくにバレていたらしい。顔を見合わせて笑い合うエミリアとサミュエルの隣で、ミゲルとルキウスが不機嫌そうに目を細めたが気づかないふりをした。
朗らかな空気の中、ミゲルの隣で立っていたマッテオがこほんと咳払いをした。それを機にエミリアが椅子に腰を下ろす。そろそろ本題に入るのだ。自然と、視線がマッテオに集中する。
「全員揃ったし、始めるとするか。お嬢たちが王城を出るまでの話はシルヴィオに聞いているから、まずは、こちらの状況から話そう」
そう言って、マッテオはこの二ヶ月間で起こったことを報告してくれた。
サミュエルたちが王都に向かった後、マッテオたちは早速籠城戦の準備に取り掛かることにした。できる限りの物資をかき集め、防御を補強する。そして、ミケーレとの交渉だ。
隣国を含む、レグルス山脈の向こう側の大陸では、最近人権思想が顕著らしく、身体的に劣った人間を差別していることが広まると具合が悪い。
なので、ミゲルとマッテオは自身の受けた仕打ちを交渉材料に使い、開発されたばかりの大砲や銃を格安で譲り受けたのだという。
大砲と銃は、王城でシルヴィオたちが城壁を崩すために使用した爆弾と同じく、火薬を使用する武器で、王国にはまだ普及していない。そのため、王国軍との兵力の差を埋めてくれるだろうと期待したのだ。
それと時を同じくして、サミュエルたちが起こした騒動や、反戦派の蜂起をきっかけに王都を離れた貴族たちが続々とフランチェスカに集まってきた。
ここまでくると、もう内乱の火種は隠しようもない。危険を感じた行商人や流民はフランチェスカを立ち去ったが、それを超えるほどの人間が、フランチェスカに留まって戦力となることを決意してくれた。
サミュエル達を捕えるため、何度か王都の騎士たちがやってきたが、彼らが全て追い返したという。
「ロレンツォは……」
「まだ戻っておらん。ケルティーナは何しろ遠いし、兵力をまとめて海を渡るにも時間がかかる。未来通りならいいが、開戦が早まるとなると……間に合うかは五分五分だな」
「親父達もまだ来てないんだよな。元気でやってるって、ファウスティナで聞いたんだけど」
「そりゃあ、殺しても死ななそうな御仁達が揃ってますからね。ロドリゴ様達は今、散り散りになったサリカやヨシュナンの残存勢力をかき集めて、こちらに合流しようとしています。ただ、カルロが主犯とはいえ、フランチェスカも共犯ですからね。生き証人のオズワルドや、確保した偽装の証拠があっても、説得がなかなか難しいところで……」
「王都側はロドリゴ卿の捕獲に重きを置いている。慎重に動かざるを得ない状況だ。こちらも、間に合うかどうか」
シルヴィオとマッテオの言葉に、エミリアの顔が暗くなった。いくら最新兵器を導入して、貴族達の援助があるといえども、ロレンツォとロドリゴが間に合わず、ファウスティナの力も借りられないとなれば、戦況は厳しくなるからだ。
それに、ダンテを担ぎ出せないとなると、たとえ勝ったとしても新たな戦争が起きるかもしれない。それを憂いているのだろう。
「あれ。ひょっとして、弟の説得、上手くいかなかったんですか?」
「テオ、お前、言いにくいことをズケズケと……」
「いいんだ、サミュエル。みんな、私の力が及ばずに申し訳ない」
頭を下げたエミリアが、王城を出た後の経緯を順を追って話していく。
ラティウスと交流を深めたくだりではルキウスが苦虫を噛み潰したような顔になり、ダンテとの舌戦のくだりではテオが吹き出したが、殴って黙らせた。
全てを話し終え、俯くエミリアに、ジュリオが「大丈夫ですよ」と優しく声をかける。
「我々の立ち位置は変わっていません。やれるだけのことをやるだけです。そうですよね、マッテオ様」
「そういうことだな。まずは粘ることだ。なに、おかげさまで物資も食料も豊富だ。未来よりも長く保つぞ」
「あの、エミリアが女だってバレちゃったんですけど」
「やりようはあると言っただろう、馬鹿たれ。この手段だけは使いたくなかったが……」
じろ、と睨まれてサミュエルは口を閉ざした。心なしか、エミリアの保護者達の目が怖い。ルキウスに至っては、すでに拳を固めている。
「はい、坊っちゃん。これにサインしてください。エミリア様も。はい、羽ペン」
「えっ、これ……」
顔を寄せたエミリアが絶句した。シルヴィオが机の上に広げたのは、貴族が正式な結婚前に交わす婚約証明書だった。婚姻帳へのサインの前段階のものだが、同じぐらいの効力がある。
元々は政情が不安定だった時代、確実に次代に財産を引き継ぐために、成人前に結婚相手を確保しておこうという目論みで生まれた制度だが、形骸化した今も伝統的に続いている。
証明書を交わすには、当人達と同等、もしくは近い地位の証人が二人必要で、それを反故にするということは、彼らの面子を潰すことになるため、ある程度の強制力も働き、貴族たちにとっては都合が良かったのだろう。
ご丁寧にも、証明書にはサミュエル側の証人として、すでにロドリゴの署名がなされてあった。エミリア側の証人はバルテロだ。
「これを渡すために、先行してフランチェスカに来たんですよね。エミリア様と婚約すれば、領主の権限は坊っちゃんに移る。堂々と正当性を主張できます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。私はこの国に存在しない身の上だぞ。証明書を出したところで効力は……」
「そのことでしたら、ご安心を」
そう言って、ミゲルが古い羊皮紙をエミリアに手渡した。丁寧に保管されていたのだろう。多少色褪せてはいたが、虫食いなどは見受けられない。
エミリアは訝しげな表情で羊皮紙に目を落としたが、すぐに顔色を変えて、弾かれたようにミゲルを見た。
「あなた方が旅立ってから、エンリコ様のお部屋で見つけました。我々には黙っておられましたが、いずれエミリア様の存在を世に出そうとしていたのだと思いますよ」
それは、エンリコ直筆の署名がなされた、エミリアの出生証明書だった。アデルがダンテの出生証明書をロドリゴに託したように、エンリコもエミリアの生まれた証を残そうとしたのだ。
「父上……父上ぇ……」
エミリアの両目から涙が溢れ出す。震える肩にそっと手を回し、サミュエルは彼女の頭に頬を寄せた。嗚咽を漏らすエミリアにつられて、鼻の奥がツンとする。
「医師の署名欄は、マッテオさんがいるので問題ありません。と、いうわけで。これで晴れてエミリア様は名実ともに公爵令嬢。玉の輿ですね、坊っちゃん」
「まさか、この後に及んで嫌とは言いませんよね? 手を出して責任取らないじゃ、ソフィア様に殺されますよ、サミュエル様」
せっつくアヴァンティーノ勢に、笑みが漏れる。嫌なんて言うわけない。シルヴィオから羽ペンを受け取り、サミュエルは婚約証明書に自分の名を記した。
それを見たエミリアが涙で濡れた目を向ける。ぐずぐずと鼻を鳴らす姿も可愛い。そう思う自分は、とっくに手遅れだ。
「いいのか、サミュエル。私と夫婦になれば、フランチェスカを背負うことになるんだぞ」
「望むところです。あなたと俺は一蓮托生。どこまでもついていくと言ったでしょう」
たとえエミリアが嫌がっても、逃すつもりはなかった。にっこりと笑って羽ペンを差し出すと、エミリアは一瞬躊躇した後、頬を赤らめて証明書にサインした。
「とりあえずは、おめでとうございます。主人の婚約に立ち会えるなんて、従者冥利につきますねぇ。まあ、本当は結婚しちゃった方が早いんですけど。ミゲルさん達が許さないって」
「まだ認めません。婚約なら最悪、白紙に戻せますから」
「私もです。市長権限で、婚姻帳へのサインは拒否します」
「騎士団もだ。お前を領主と仰ぐのはまだ早い」
ぼろっかすに言われて、流石のサミュエルも少々落ち込む。その空気を変えようと、マリアンナが一際大きく手を叩いた。
「まぁまぁ、いいじゃないの。二人とも、まだ若いんだし。それより、三日後の秋祭り、二人の婚約式も一緒にやるわよ。楽しみにしててね」
「えっ」
エミリアと同時に声が出た。内々で済ますわけではないのか。黙って成り行きを見守っていたテュルクとヴィオラに目を向けると、彼らはにっこりと微笑み、揃って親指を立てた。
「安心して。三日後のために、いい獲物いっぱい仕留めるからね」
「領民達もそのつもりですから。今更なしには出来ませんよ」
「さあ、そうと決まったら、準備をしないとね。まず、ドレスでしょ。アクセサリーに、靴に……ああ、時間がなくて困っちゃうわ」
そう言って、腕を引っ張るマリアンナにエミリアが悲鳴をあげた。まさか旅から帰ってきて早々にお着替え人形になるとは思わなかったのだろう。いや、そもそも予期できるわけもないが。
「ちょ、ちょっと待って、マリアンナ……」
「待ちません。こういうことはちゃんとしないとね。ベアトリーチェ様達に面目が立たないわ。ヴィオラも来てくれる? 年が近い子の意見も聞きたいし」
「任せて!」
「エ、エミリア……」
「サミュエル様。少し宜しいですか」
食堂から連れて行かれるエミリアを呆然と見送っていたサミュエルの肩を、ミゲルが叩いた。ハッと我に返ってあたりを見渡すと、いつの間にか、周りを保護者達に囲まれている。みんな目が不穏だ。
助けを求めるようにマッテオとテュルクを見たが、彼らは知らないふりを決め込んでいる。テオとシルヴィオは離れたところでニヤニヤとこちらを眺めているので論外だ。
「な、なんですかミゲルさん」
「聞かせてもらいましょうか。手を出したって、どういうことです?」
抜けるような青空の下、城の広場に集まった領民たちが一斉に花びらを散らす。その中心にいるのは、煌びやかな礼服に身を包んだサミュエルと、純白のドレスを身に纏ったエミリアだ。
二人は職人達が丹精込めて作り上げた壇上に登り、若干の照れ臭さを感じながらも、大人しく式の始まりを待っていた。お互いの薬指には、旅に出た時と同様、銀色の指輪が嵌っている。
そして、その指輪の真ん中には、今日のために取り付けた、フランチェスカの色である青と黄色の宝石が、日の光を反射して美しく輝いていた。
目の前では、正装した城の主要な面々が半円を描くようにずらりと並び、感無量といった表情を浮かべている。
ミゲルに至っては、すでにハンカチを濡らす勢いだ。三日前、散々殴って満足したのか、サミュエルに対しての怒りもなりを潜めている。
「フランチェスカに生きる皆様方へ、ご挨拶申し上げる」
一歩前に進み出たバルテロが、厳かな声で口上を述べる。
現在、フランチェスカにいる最高位の貴族として、彼は進行役を二つ返事で引き受けてくれた。流石というか、こういう儀式には慣れているようで、所作に澱みがない。
「これより、エンリコの娘、エミリア・デッラ・フランチェスカ。そして、ロドリゴの息子、サミュエル・ディ・アヴァンティーノの婚約式を執り行います。両名、一歩前へ」
バルテロの言葉に従って、足を踏み出す。二人とも動きがぎこちないのは、ご愛嬌だ。
リハーサルは散々したが、一生に一度あるかないかの機会である。緊張するなという方が無理だ。
この国では、婚約式は貴族しか行わない。つまりは、その分、大仰で派手になる。これならまだ、婚姻帳へのサインだけで終わる結婚式の方が気持ち的には楽かもしれない。
「四百年の長きに渡り、フランチェスカとアヴァンティーノは、国の安寧のためにその身を捧げてきました。この善き日に、新たな歴史を刻む証人となれますことを、誠に光栄に思います」
領民たちが歓声を上げる。サミュエルの腕をとるエミリアの手に力が入った。進行通りとはいえ、今にも顔から火が出そうになる。
――おかしい。式は違えど、ミリーナとディーノはあんなにリラックスしていたのに。
思わずきょろっと視線を走らせると、バルテロの後方で控えていたルキウスと目が合った。口が「しっかりやれ」と動いている。
「エミリア・デッラ・フランチェスカ。汝は、フランチェスカの血を継ぐものとして、領地の繁栄のために尽くし、将来の夫となるサミュエルを誠心誠意支えることを誓いますか?」
「誓います」
「サミュエル・ディ・アヴァンティーノ。汝は、フランチェスカの血を次代に繋ぐものとして、領地の繁栄のために尽くし、将来の妻となるエミリアを守り抜くことを誓いますか?」
「誓います」
「では、両名に問う。汝らにとって、守るべき領地とは何か」
バルテロの瞳が鋭い光を帯びた。これはリハーサルにはなかった問いだ。エミリアと顔を見合わせる。お互いに、何を考えているか手に取るようにわかった。
もうとっくに、答えは出ているのだ。
「人々の営み」
「そして、笑顔です」
にやっとバルテロが笑った。どうやら及第点をもらえたらしい。彼の背後で、ミゲル達がほっとしたような表情を浮かべている。知らぬはサミュエル達だけだったようだ。
貴族同士の誓いの儀式だ。将来の領主を試す意味合いもあるのだろう。エンリコやロドリゴ、そして目の前のバルテロも同じ洗礼を受けたのかもしれない。
「よろしい。ロドリゴ・ディ・アヴァンティーノとバルテロ・デ・サバティーニ。両名の承認により、この婚約は結ばれました。若き、未来の夫婦へ祝福を。フランチェスカに麦穂の輝きがあらんことを」
領民たちの歓声が、一際大きくなった。
――とりあえずは無事に終わった。
エミリアと共にほっと胸を撫で下ろしていると、下がったバルテロの代わりにジュリオが前に出てきた。秋祭りの開会式を始めるのだろう。広場の隅にいた音楽隊が、いそいそと楽器を持ち始める。
祭りが始まれば、この壇上もダンスフロアに代わる。邪魔にならないよう、隅に寄ろうと思ったら、ジュリオにガシッと腕を掴まれた。
「どこに行くつもりですか。開始の宣言をしていただかないと」
「えっ」
「サミュエル卿、どうぞ」
ジュリオの目は笑っていない。エミリアに助けを求めたが、苦笑いで背中を押されてしまった。
――もうこうなったら腹を括るしかない。
下げようとしていた足を踏み出して、息を吸う。
「えー……たった今、エミリアの将来の夫の誓いを立てた、サミュエルです」
顔見知りの領民たちから「知ってるよー」という声が飛ぶ。みんな笑顔でサミュエルを見守ってくれていて、少し気持ちが楽になる。
格式ばった言葉はいらないのだ。思ったことを、そのまま言えばいい。
「フランチェスカを取り巻く状況が厳しいのは、みんなが一番わかっていると思う。だからこそ、秋祭りを開こうと思ったんだよな? 最後かもしれないと覚悟しているから」
そこで言葉を切り、周りを見渡す。目が合った何人かが、頷いていた。
それを見た瞬間、胸に熱いものが宿ったのを感じた。きっと歴代のフランチェスカ公爵も、同じ気持ちを抱いたに違いない。気づけば、サミュエルは必死に声を張り上げていた。
「でも俺は、この祭りを今年で最後にはしたくない。いや、この祭りだけじゃない。来年も再来年も、季節の移り変わりと共に、みんなと笑い合っていたいんだ。だからどうか、力を貸してほしい。押し付けられた理不尽に負けはしない。俺たちは、揃って秋を越える!」
しん、とあたりが静まり返り、直後に鬨の声が上がった。
割れんばかりの拍手の合間に、「よく言った!」「やってやろうぜ!」という威勢のいい声も聞こえる。
はあ、と息を切らすサミュエルの背中を、泣きそうな顔をしたエミリアが何度も叩いている。初めての仕事としては、なかなか上手くいったようだ。
あとは開始を宣言するだけだ。少し落ち着いた気持ちで、サミュエルは片手を挙げた。未来でエミリアがしていたように。
「そのためにも、今日は目一杯、楽しんで英気を養ってください。サミュエル、そしてエミリアの名において、ここに秋祭りの開始を宣言します!」
わあ、と歓声が響き、音楽隊が一斉に楽曲を奏で始めた。手を取り合った領民たちが押し寄せ、あっという間に壇上が一杯になる。
視界の隅で、その勢いに押されたバルテロ、ミゲル、マッテオの年輩組が、そそくさと壇上から下りていった。次いで、あぶれた領民達が、揃って城下に向けて駆けて行く。
籠城戦に備えるため、未来より場所は狭くなったが、なんとか工夫して、いろんな場所にダンスフロアを作っているのだ。
早速踊り出した領民たちの熱気で、頬が熱くなってきた。
少し離れたところで、テオとマリアンナ、テュルクとヴィオラもダンスを楽しんでいる。ルキウスはロレンツォの三人娘に迫られてたじたじだ。
みんながみんな、楽しそうな笑顔を浮かべていて、自然と、こちらの笑みも深くなってくる。
楽しくて、心が弾んで仕方がない。これこそが、フランチェスカなのだ。
「私たちも、踊ろうサミュエル!」
「はい!」
エミリアと手を取り合い、心のままに体を動かす。未来では、エミリオの姿をしたエミリアと踊った。しかし今、サミュエルはありのままのエミリアと踊る権利を得たのだ。
――ああ、何て幸せなんだろう。
「籠城戦を乗り越えたら、正式なプロポーズをします。結婚指輪も、新調しましょう。石はもちろん、紫と赤で」
「楽しみにしてるよ、未来の旦那様」
そう言って笑うエミリアは、今まで出会ったどんな女性よりも美しかった。
エンリコを恨んでいたサミュエルが、エンリコの遺志を継ぐという形になりました。
エミリアも肩の荷が下りたでしょう。
ちなみに、婚約式でサミュエルが着た礼服は、11話のディーノとミリーナの結婚式で着たアレです。




