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 沙羅さらはとある港町に住んでいる。息子のわたると暮らしている。とても幸せそうに暮らしているが、父、まさるはすでにいない。


 優はおととし、がんでこの世を去った。短かった幸せだけど、そうなる運命だったんだろうか? だけど、あまりにも早すぎる。どうして神様はそんなむごい事をしたんだろうか?


 沙羅は遺影に目をやった。笑みを浮かべている優の写真がある。それを見るたび、沙羅は泣きそうになる。どうしてこんな優しい人がこんなにも早く天国に行ってしまうんだろう。何も悪い事をしていないのに。


「あなた、私、もうすぐ引っ越すの。新しい人と結婚するのよ」


 沙羅はもうすぐこの港町を離れ、名古屋に引っ越す。新しい夫と知り合い、数カ月前に結婚した。航と共に新しい夫の元で暮らすつもりだ。


「お母さん・・・」


 沙羅は振り向いた。そこには航がいる。航は寂しそうな表情だ。


 先日、航はクラスの子供たちとお別れ会をした。みんな寂しそうな表情だった。だが、名古屋に行けば必ず会える。また会いたいなと多くの生徒が思っているらしい。


「離れるの、寂しい?」

「うん」


 航は寂しいようだ。今月まで仲良くしていたのに。離れるのは寂しい。だけど名古屋でも友達をたくさん作って楽しく過ごさねば。


「だけど、仕方ないのよ。人生には、別れがつきものだから」


 沙羅は航の頭を撫でた。出会いと別れによって、人は成長していくもの。人生には別れが必要なのよ。


「うーん・・・」


 航は戸惑っている。本当に必要なんだろうか? 航は疑問に思っている。


「次第にわかるよ」


 と、沙羅は外に目をやった。そこには1匹の野良猫がいる。その野良猫はじっと沙羅を見つめている。因縁でもあるんだろうか?


「どうしたの?」


 沙羅の様子を見て、航は疑問に思った。最近、こんな事が多い。どうしたんだろう。


「最近、野良猫が私をジロジロ見てるのよ」


 航は外を見た。そこには1匹の野良猫がいる。とてもかわいい。連れて帰りたいな。だけど、新しい家はペット禁止だ。かわいいけど、連れて帰れない。


「何だろう。かわいいなー、あの野良猫」

「そう?」


 沙羅は笑みを浮かべない。かわいいと思っていないようだ。


「だって、猫ってかわいいじゃないの」

「うーん・・・」


 と、沙羅は窓を開けた。野良猫を追い出そうとしているようだ。


「早くあっち行け!」


 沙羅は怒鳴りつけた。すると、野良猫は寂しそうに離れていった。航はその様子を寂しそうに見ている。かわいいのに、どうしてそんな事をするんだろう。


 航は外に出て行った。あの野良猫が気になったようだ。野良猫は悲しんでいないだろうか? もう来ないと言わないだろうか? とても不安だ。


 と、航は野良猫を見つけた。野良猫は寂しそうに家の隅にいる。


「大丈夫?」


 航は野良猫の頭を撫でた。野良猫は笑みを浮かべた。本当にかわいい。このまま誰にも買われる事なく死んでいくのはかわいそうだな。


「かわいいね」


 すると、野良猫は鳴いた。鳴き声もかわいい。連れて帰りたい。だけど連れて帰れない。




 翌日、航は友人の琢也たくやとテレビゲームをしていた。琢也とテレビゲームをするのもこれが最後だ。もうすぐ名古屋に行ってしまう。名古屋でも多くの友達とテレビゲームができたらな。


「もうすぐ行っちゃうんだね」

「うん」


 琢也は寂しそうだ。せっかく友達になれたのに、別れてしまうなんて。だけど、別れがあってこそ人間は成長するのだ。


「離れても、ずっと友達だよ」

「ずっとね」


 航は決意した。名古屋に行っても必ずどこかで会おう。会ったら、これまでの日々を共に語り合い、今日のように仲良くゲームをしよう。


 と、航は窓の外に目をやった。そこには昨日見かけた野良猫がいる。今日も来ているんだな。


「あれっ、この猫は?」


 琢也もその野良猫が気になった。先日も来ていた。航が好きなんだろうか?


「最近、ここに来ることが多いんだ」

「そうなんだ。好きなのかな?」


 琢也は笑みを浮かべた。好きなのなら引越し先で買えばいいじゃないか?


「そうかもしれない」


 そこに、沙羅がやって来た。野良猫を追い出そうとしているようだ。


「またあんた来てるの! 帰れ!」


 沙羅は野良猫を追い出した。航はその様子をじっと見ている。かわいそうだな。何とかしてやりたいな。


「かわいそうだね」


 琢也はかわいそうに見ている。かわいいのに、追い出すなんて、ひどいな。かわいがってほしいのに。


「琢也くんにもわかるの?」

「うん」


 航は琢也の想いに共感している。かわいいのに、追い出すなんて、かわいそうだ。飼わずにかわいがったらいいのに。


「連れて帰りたいけど、新しい家はペットがお断りなんだ」

「ふーん」


 それを聞いて、琢也は残念そうな表情を浮かべた。新しい家はペットがお断りなのなら、仕方がないな。


「残念だけど、連れて帰れないんだ」


 航も残念そうな表情だ。連れて帰りたいのに、連れて帰れないんだな。


「かわいそうだね。だけど、新しいお父さんの事情も考えないとね」

「そうだね」

「僕と遊ぶの、これが最後だね」


 航は泣きそうだ。だけど涙をこらえないと。涙をこらえて、別れを乗り越えて人は成長していくものだ。


「いつまでも友達だよ。また会おうね。約束だよ」

「うん」


 今日の今、遊んでいる時間を大切にしよう。これからあんまり2人で遊べなくなるから。

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