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新米祓魔師と吸血姫―最強の吸血姫と契約した少年は、普通の学園生活を送りながら厄災へと立ち向かう―  作者: 椿紅颯
第四章【僕が一番、僕のことをわかっているのさ】

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第22話『え、僕から知らない女の人の匂いがするって?』

「にいにから知らない女の匂いが二つもする!」


 そんな声が洗濯機のある洗面台から響いてきた。

 と、即座にドダドダドダと駈け寄った後の同調。


「ホントだ! 兄貴から知らない女の人の匂いがする!」

「待って、こっちのジャージからはまた別の匂いが!」

「なんだってーっ!」


 夕方、僕の家で一体何が起きているというのだ。

 そんでもって、二階にある僕の部屋へ二人の地響きかと勘違いしてしまう足音が近づいてくる。

 そして、扉が揺れる。


「にいに! 居るのはわかってるんだよ!」

「兄貴、諦めて部屋から出てくるんだ! 証拠は挙がってるんだ」

「にいに!」

「兄貴!」


 いや、何この状況。

 僕は今、刑事ドラマに出演している犯人役ですか?


 ドンドンドン。ドンドンドン。ドンドンドンドン、ドンドンドン。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。


「壊れるって! 扉君が壊れてしまうって! 開けるから、今すぐに開けるからその暴力はやめてあげてくれ!」


 僕はベッドから飛び起き、扉へと超特急で向かう。

 扉を開けると、ワイシャツ下に来ていたTシャツを握る衣月と体操着のジャージを握る小陽が居た。

 二人の顔は半べそ涙目に怒りの感情が浮かんでいる。


「ねえにいに、これはどういうことなのかな? かな?」

「兄貴、ちゃんと正直に説明してくれないと、嫌いになっちゃうからなっ」

「おいおい、まずは何が起きたのか僕に説明してくれないか。僕が知り得る情報は、扉を貫通するほど大きな声で『匂いが』どうのってことだけなんだが」

「これだよこれ! この服には女の人の匂いが付いているんだよ。これっ」


 衣月は今にも涙が溢れそうな目で、そう訴える。


「これだよこれ! このシャツに付いているまた別の女の人の匂い。これ」


 こちらはもう涙が伝った跡が顔にある、小陽。


「わかった、何となくはわかったから落ち着いてくれ。まずはほら、立ち話もあれだから中に入って話さないか」

「うんっ!」

「わかった」


 衣月は、急に表情を変えてスキップで部屋に入っていった。

 小陽は「こら衣月、私達は今怒ってるってのを忘れるな」と衣月を怒っている。


 いつもの定位置、二人はベッドの上、僕は机の椅子という構図に収まる。


「で、二人は匂いについて証言を求める、と。そういうことだな?」


 衣月はなぜか布団に潜り、嬉しそうに、小陽は衣月から引きはがした枕を抱きかかえている。

 二人とも、最初の形相とは随分と違う表情と態度ですね?


「別に隠すことじゃない。ちゃんと説明するから、ちゃんと聞いてくれな」

「……にいに、もしかして」

「兄貴、マジかよ……裏切ったのか」


 この世の終わりみたいに気分が落ち込み始める二人。いや、どうしてだよ。


「なんだよ」

「にいに、彼女ができた……の?」

「まさか兄貴、私達がいるというのに……」

「だから何のことだよ。僕に彼女なんてできてないし、告白されてもないししてもない。正真正銘、年齢=彼女いない歴だ!」

「良かった……」

「驚かせないでくれよ」


 一息吐いて安堵しているけれど、どういうこと? 僕に彼女ができちゃダメなの?


「じゃあ、まずはジャージか。それは、体育の時に不注意で怪我をしちゃって、保険室に行ったんだ」

「えっ! にいに怪我したの!? 大丈夫なの!?」

「そんなの聞いてないぞ! そういうのはもっと早く言わないと!」

「落ち着いてくれ、見てくれよ僕の体を。ほら、ほら」


 僕はズボンを持ち上げて膝を見せたり、袖をまくって肘をみせた。

 ここまでして、怪我の後すらないのを見て安心してくれた。

 まあだけど、本来なら今もかさぶたすらできない、鮮明な赤色があちらこちらに見えているはずなんだけど。

 絶のおかげ、吸血姫の力によって超回復しているわけだ。

 だから、これをあの場で僕が盛大に転倒したのを見ていた人に見せられないのだけれど。


「んで、その時に同じくして保健室に行った女の子が居たんだ。だから、保健室で話をして、って別におかしいこともやましいこともないだろ?」

「た、たしかに」

「それなら……ん、でも、だったら保健室の先生の匂いも一緒にあるはずじゃ?」

「えっ!」

「それがな、先生はどうやらお節介な人だったらしく、僕とその子が恋仲とかそれに近しい存在だと思って、無駄な気を遣って席を外していたんだ」

「なーんだ。本当にお節介な先生だな」

「良かったぁ」


 いや、あの場を観たら恋愛なんてものが微塵もなかったと瞬時にわかるだろうに。

 あー、でもあの場に二人がいたら、間違いなく伊地と口論になっていただろうな。


 そして、ジャージの件については腑に落ちてくれたみたいだ。

 だが、どうしたものか。シャツに関しては、一つは森夏、もう一つは絶。うーん……てか、どんな嗅覚してんだよ!


「じゃあ、シャツに関してだな。これも、至って難しいことじゃない。僕は転入生だろ? だから、とても面倒見が良い人が居て、その子なんだと思う。お前達のクラスにもそういうやつがいるだろ?」

「そうだね」

「たしかに」

「最近は、僕が勉強できなかったり機械素人だったりするから、いろいろと教えてもらっているんだ。こんなに親切な人は居ないよな? 悪い人なはずがないよな?」

「……でも、その人はにいにを狙ってるのかも」

「名推理だ衣月、兄貴を狙ってるに違いないぞ」

「それがな、聞いてくれ。僕も淡い希望を抱いて街案内と称したデートに誘ってみたんだ。だがな、即座にやんわりと断られた。どうだ」

「ふぅーん、どうして淡い期待を抱いていたのかは置いておいて、それならまあ」

「どう考えても少しでも脈がなさそうならデートには誘わないと思うけど、まあ」


 よし、これで満足いってくれたようだ。

 じゃあ――。


「で・も、もう一つの方はなんて説明するつもり?」

「まさか、学級委員長が二人居るとか言うつもり?」


 おっと、そうですよね。


「あれだよあれ」

「「あれ?」」

「二人とも、可愛い女子高校生がそんな恐ろしい顔をしちゃいけませんよ。お兄ちゃんはとても今後が心配だよ」

「誤魔化さないんで」

「何か隠してるんだ」

「ごめんごめん、違うんだ。実は隣の席に居る子に教科書を見せてもらったんだ。うっかりしてて教科書を家に忘れちゃってね」

「なーんだ、そういうことか」

「別に不思議なことはないか」

「そうそう、そうそうそう」


 もちろん、教科書を持ち帰ったことはなんて一度もない。

 だけど、ここは嘘を吐いてもバレない自信がある。

 二人はしっかりと勉強する派だから、自然と教科書類を持ち帰っているからだ。


「じゃあ、にいには誰にも取られてないんだね」

「疑ってごめんよ兄貴。お願い、嫌わないで!」

「何が何だかわからないが、僕がお前達を嫌いになるはずがないじゃないか」

「にいに……」

「兄貴ぃ……」


 何の涙か質問したいけれど、二人はベッドから飛び出して僕に抱き付いてきた。

 なだめるように頭を撫でる。


「安心してくれて良かったよ」

「今日は一緒に寝てくれる……?」

「今日は寂しい気持ちになっちゃった」

「嬉しい申し出だけど、ごめん。それはできないというか、年頃の女の子がそんなことを気軽に言うもんじゃありません」

「えーん」

「ちっっ」


 いや、その反応をどう受け取れば良いのかわからないんだが。


 結局のところ、なんで匂いがするだけでこのようになっているのか疑問ではあるが、まあ、なんだかんだ丸く収まったし別に良いか。

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