エピソード1:相棒は自分の生徒です!?(9)
『新しい魔法を作るのですね?』
どこからともなく聞こえてきたのはナビの声。
「そうよ」
『では、魔道書に新しい魔法を登録してください』
ナビの声に合わせ、目の前に図鑑サイズの分厚い本が開かれる。
ぴらりとめくれた1ページ目には、何も書かれていない。
「好きな魔法を登録できるのよね?」
『あなたの想像力のままに』
「じゃあ、一撃必殺の特大威力なやつ! 撃つとめちゃくちゃ気持ち良いのを!」
日頃のストレスをガツーンとぶつけるのだ。
私もすっきり、見た目も派手でお客さんもわっくわくなやつがいい。
『もっと具体的に指定されますか? それとも、こちらでいくつかご提案しますか?』
そんなことまでできるのか。
AIすごいなあ。
「せっかくだから、自分で考えたいわね。会場ごと吹き飛ばすようなやつはできる?」
『可能です』
できるんかい!
『ただし、新規登録で消費される最大SPを差し引くと、最大一発を発動するために必要な呪文詠唱は、早口でも3年分になります』
「年!? え? そんなの試合終わっちゃわない? どういうこと? あと最大SPって?」
『魔法の新規登録には、その効果によって最大SPを使います。また、登録された魔法の発動には、呪文の詠唱とSPのが必要です。消費SPを低くするためには、呪文を長くする必要があります』
いやまあ……そりゃあ縛りはあるよね。
強すぎると思ったんだ、このスキル。
「ちなみに最大SPって、増えたりするの?」
『最大SPは、あなたが配信中に稼いだ投げ銭の金額と、アバターの特性を考慮して算出されます。バトルコロシアムでは一回戦ごとに再計算が行われますが、魔法登録により消費した分は、今年の大会が終わるまで回復しません』
うへー、厳しい!
「たとえば、私の最大SP240を全部新規登録に使った場合、そのあと投げ銭で最大SPが10上がったとしても、250じゃなくて10にしかならないってこと?」
『その通りです』
これは……よく考えないと、試合前に積むかも。
「じゃあさ……」
それから私は、ナビを相手に登録魔法の策定をした。
一時間ほど議論を重ね……。
『こちらの内容でよろしいですね?』
「おっけー。お願いするわ」
『面白い内容だと思います』
「ありがと」
『通常空間に復帰します』
景色がコロシアムに戻る。
「おそい! どれだけ待たせるの!」
一人で練習をしていたらしい西表さんがこちらに気付き、眦を釣り上げた。
「あ、ごめんなさい。忘れ……西表さんと組むのだから、よく考えなくちゃと思って」
「今、忘れてたって言いかけた!?」
「お待たせした成果はちゃんと見せてあげるよ」
「ちょっと! 無視!?」
「帰ってもよかったのに、待っててくれるなんて優しいよね」
「べ、別に! 仕事だからよ! 練習もしたかったし!」
おお……ここまで照れられると、こっちも恥ずかしくなるよ。
でも、彼女の扱い方がちょっとわかってきたかもしれない。
「魔法創作!」
私の声に応じて、目の前に魔道書が出現した。
ぺらりと1ページめくる。
そこには先程設定した呪文が書かれている。
カンペ機能って便利だね。
「小さき火よ、弾けて煙れ! ファイアーブレッド!」
呪文を唱え終わると、杖の先からピンポン玉ほどの火球が出現、まっすぐ西表さんへと飛んでいった。
視界の端に表示された自分のステータスは、240あった最大SPが、100まで減っている。
そして、今の魔法で現在値が99に減少した。
効果にしては呪文は長め。
必要最低限の効能で、消費SPを極限まで下げた。
「こんなのがスペシャルスキル……?」
西表さんは不機嫌そうな顔で火球をひょいと避けた。
その反応は予想済み!
ボフンッ!
彼女の真横で火球が爆発。
大量の煙を撒き散らした。
コロシアムの半分近くを覆うその煙は、彼女の視界を完全に奪う。
「目くらまし? でもこれじゃああなたも狙いはつけられないでしょ」
煙の中からは余裕の声。
今の魔法は、何かに衝突するか一定距離進んだところで、殺傷力皆無の煙を撒き散らすものだ。
もちろんこれだけで、相手を倒せるなんてことはない。
私は魔道書の2ページ目を開く。
そこには、先程とは異なり、長い呪文が書かれている。
「猛き赤、無情の光よ
集いし赤、焼き尽くす光よ
狂えし赤、滅ぼす光よ
全ての赤よ、全ての光よ」
「何をぶつぶつ言って……まさか、詠唱の長さで威力が変わる特性が!?」
そこに予想がいきつくあたり、汎用性のあるスキルを持っているVtuberもいるってことね。
でも惜しい! 私のはまったく別の攻撃だよ!
「くっ!」
西表さんは、煙幕から真上に飛び出した。
「我が敵を灰燼と化せ! ブラッディデストロイヤー!」
AIのつけた大仰な名前を叫ぶと、杖の先から真っ赤な極太ビームが発射された。
「なっ!?」
両手を前に出し、それを防ごうとする西表さんだが、ビームは彼女を飲み込み、ステージを覆う不可視のドームを炙る。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
続きもお楽しみに!
ブックマーク、高評価での応援をなにとぞ! なにとぞよろしくお願いいたします!
(この下にある★5をぽちっと)