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エピソード1:相棒は自分の生徒です!?(5)

 え!? マジ!?

 Vコロに出られるの!? 私!?


 Vコロペアリーグといえば、Vtuberバトルコロシアムの中でも最大規模の大会だ。

 出場枠は6組12名。

 当然、出場するのは超有名Vtuberばかりだ。


「「おめでとうございます!」」


 二人のマネージャーが、机の下から取り出したクラッカーを鳴らした。

 会社でそんなことしていいの?

 いいよね! めでたいことだもの!

 私もセクハラ体育教師の顔面に向かってクラッカーを鳴らしたい。(ダメです)


「あ、ありがとうございます! 今年はきっと無理だから、来年こそはって目標にしてたんですけど……うれしいです!」


 思わず目が潤んでしまう。

 一方の墨川さんは、コロシアムへの出場自体にはさほど驚いていないようだ。

 しかし、きれいな瞳をかっぴらいて、私を見つめている。


「あなたなんかが、わたしの尊敬するメグ先生!?」


 なんかて。

 失礼じゃない?


「ということはやっぱり、墨川さんがミーアちゃ……西表さんなのね……」


 再生数やらなんやならを考えると、年収で億は稼いでるよねこの娘。

 尊敬するVtuberの一人だったんだけど、まさか自分が担任をしてる生徒だったとは……。


 いや、ちょっとまて。

 メグ(私)のことを「わたしの尊敬する」って言った?

 師志田灯里ではなく、メグ=ブライトマンを?

 尊敬されるような教師かと言われるとそんなことは全くないけど、Vtubereとしてならなおさら、ミーアちゃんの方が圧倒的に格上だ。

 それこそ、同時接続や再生数の桁がまるっと1つ違う。

 う、うれしい……いや、リップサービス?

 でもそんな感じはしなかったし……。


「私は西表さんのオマケということですか?」


 色々動揺しすぎて、よけいなことを聞いてしまった。


「ここからは私が」


 割って入った瀬和さんが、コホンと咳払い。


「今回のタッグは業界の中でも初の試みとなる、事務所を越えたペアです」


 そういえば、別の事務所どうしがペアを組んで出場という話は聞いたことがない。


「拡大を続けるVtuber業界ですが、いずれ飽和をすると私達は考えています。それは、ファンが一つの箱に滞留しがちことも一つの原因だと」


 推しの箱(事務所)が異なるファンどうしがネット上で争うのは様子は、日常茶飯事だ。


 『事務所=グループ』となっている、普通のアイドルとは異なる状況がそうさせているのだろう。


「今回のタッグを通じて、箱の垣根を取り払って、ファンを動かし、業界をより活性化しようというのが狙いです」

「言いたいことはわかりますが……うちの事務所に有利すぎやしませんか?」


 最大手のオーロラシップからすれば、うちのような小さな事務所と組むメリットがわからない。

 ウチがよほど金を積んだとかならありえるかもしれないけど。

 何か裏があるのではと勘ぐってしまう。


「担任の先生であればご存知かと思いますが、西表はリアルでの対人スキルがあまり高くありません」

「ちょっ、大山さん!?」


 いきなり矛先を向けられて、西表さんは顔をしかめた。


「ええ、それはもう」


 静かな生徒は基本的には手がかからないのだが、団体行動となるととたんに揉め事の種になる場合がある。

 先日のようなケンカこそ珍しいが、「あのコがいるとやりにくい」という苦情がこっそり飛んでくるのだ。


「ちっ……」


 そんな私の反応に舌打ちをする西表さん。

 そういうとこやぞ。


「西表にはもう一皮剥けてもらおうと期待しています」


 解説役が再び大山さんにバトンタッチ。


「ですが彼女はまだ高校生。このままVtuberとして成功し続けると、やり方が固まってしまうでしょう。必ずしも一般常識を身につけるのがプラスに働くとは限りませんが、視野は広げてほしいんです。そこで、スノーマウンテンさんとVコロについてお話しをしていた際、メグさんと組ませてはどうかという案が上がったのです」


 つまり、売れっ子だらけのオーロラシップに他人の面倒を見られるような暇人はいない。

 私とのペアは西表さんの育成と交換条件というわけか。

 教師をしていることも含めての判断だろう。


 やはり実力を見てもらえたわけじゃなかった……なんて凹むと思ったら大間違いだ。

 もともとVtuberなんて、人生経験を切り売りしてなんぼである。

 どんな理由であれ、チャンスがもらえるなら全力で掴みに行くのみだ。

 月に1回は蕁麻疹が出るような仕事(教師)はやめて、早く専業Vtuberになるのだ!


「この話、喜んでお引き受けします」


 即答した私を西表さんが驚いた顔で見る。


「西表さんも良いですね?」


 大山さんは私がそう答えると見越していたのだろう。

 もしかすると、瀬和さんから私の性格を聞いていたのかもしれない。

 とにかく。

 私の回答に対する驚きはなく、すみやかに西表さんに圧をかける。


「私はソロでの出場をお願いしていたはずですが……」


 ちなみにソロとは、ペアリーグとは半年ずらして開催されるトーナメントである。

 ペアリーグと合わせて、Vtuberバトルコロシアムの2大大会と呼ばれている。


 そして意外なことに、彼女もまたVtuberコロシアムには初出場だ。

 エキシビションマッチや小さな大会の経験はあるようだが、やはりVコロに出たかどうかは大きな試金石である。


 オーロラシップ所属のVtuberはみんな人気だ。

 箱にいるだけである程度の人気が担保される。

 それだけに、箱の中での争いも熾烈なのである。

 ことしに入って急激に人気を伸ばした西表さんは、まだ去年の段階でVコロへの出場は叶わなかったのである。


「どちらもでれば良いと思いますよ。今の人気が続けば、それも夢ではないでしょう」


 大山さんは暗に「人気が落ちればチャンスは今回だけ」と言っているのだ。


「でも……学校の先生となんて……」


 西表さんは険しい顔でチラチラとこちらを見てくる。

 彼女が正直、教師としての私……というか、教師全員をあまりよく思っていないのは知っている。

 そうでなくとも、学校以外で教師とつるむなんてイヤだろう。

 私だって学外で生徒の面倒なんてみたくない。

 それでも、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 ぶっちゃけ、私が背負わされた借金は教師を続けているだけで返せる額ではないのだ。


 問題は説得の方法だ。

 彼女の配信を見ていればわかるが、売れっ子になるだけあって口は上手い。

 といってもまだ高校生。

 渡り合う方法はあるだろう。

 しかし万が一にも失敗は許されない。


 幸い、彼女の心は揺れている。

 こじれるスキなど与えず、一撃で決めるのが最善だ。


 それにはこれしかない!


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


明日も投稿します。

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