プロローグ&エピソード1:相棒は自分の生徒です!?(1)
やさぐれ教師とコミュ障JKがおりなすVtuberスポ根年の差友情(?)ストーリー、開幕です!
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■ プロローグ ■
質量を持った3Dアバターが、ステージを飛び回る。
アバターから放たれた光弾が爆音とともに弾け、空気の振動が観客席を疾走る。
――Vtuberrバトルコロシアム。
今や、Vtuberファンの中ではメインと言ってもよいコンテンツとなったリアルイベントである。
再生数や投げ銭を基準に算定されたパラメーターをもとに、Vtuber達はステージで戦う。
このイベントに招集さらることは、星の数ほどいるVtuberにとって栄誉であり、より多くのファンを獲得するチャンスでもある。
企業Vtuberメグ=ブライトマンこと師志田灯里は、隣に立つ少女に視線を向けた。
アバターを通して感じた彼女の手のぬくもりを思い出しながら、拳を握りしめる。
この戦い、絶対に負けられない。
負けたくない!
私達にはもう、退路なんてないのだから。
■ ステージ1:相棒は自分の生徒です!? ■
「灯里ちゃーん、質問があるんだけとー」
職員室で購買の弁当を食べていると、男子生徒からお呼びがかかった。
昼休みも休めないのが、高校教師という職業だ。
配信のネタを考える貴重な時間が……。
思わずつきたくなるため息を我慢し、笑顔を作る。
「灯里ちゃんじゃなくて、灯里先生でしょ。んで、どこがわからないの?」
国語教師に質問なんて、そうそう来るものじゃない。
すくなくとも、理系科目に比べてその頻度は少ない。
それでもこうして生徒がやってくるのは、私の胸を見るためだ。
スーツの上からでもわかる巨乳。
その自覚はある。
男子の間で性欲の対象になっていることも。
ほら見てる。
めっちゃ見てる。
正直嫌でたまらないが、男子高校生相手に過剰反応するのも逆効果だろう。
「ちっ……」
そこに通りがかった女子生徒が小さく舌打ちをしていった。
「男子に色気ふりまきやがって」とか思ってるんだろうなあ。
そんなつもりはないんだけどね。
こっちは24にもなって彼氏なしなんだよ!
子供に構ってる暇なんてないの!
親の借金やら賠償金と、奨学金の返済がたっぷり残ってるからそれどころじゃないんだよ!
……と、叫びたい。
もうわめきちらしたい。
しかし、こちとら担任を持っていると言っても私立高校の常勤講師の身。
契約社員みたいなものだ。
ああ……早く帰って配信したい……。
「やあ師志田先生、相変わらず人気ですなあ」
男子生徒が職員室を出ると、男性体育教師が後ろから肩をもんできた。
筋肉だけが自慢のアラサー脳筋セクハラ男である。
ああもう! ブラの紐に服越しで指がひっかかってるっての!
わざとだろこれ!
「教師として慕ってくれているのならいいんですけどね。まだまだ実力不足で……」
私は謙遜しつつ、椅子の向きを変えることで体育教師の手を払う。
本当なら手で振り払ってしまいたいが、カドが立つ行動はさけたいのだ。
もめ事をおこして契約解除なんてされたら、目も当てられない。
遠慮なく胸に向けられる視線が気持ち悪い。
生徒の百万倍きつい。
「さっきの山田とかいう生徒、Vtuberなんてやってるらしいですな」
「へ、へえ……?」
ニュースも見ていなさそうなこの男から、そんな単語が出てくるとは思わなかった。
家では筋トレとプロテイン動画ばかり見ていそうだけど。(偏見)
「いつかVtuberバトルコロシアムに出るんだとか息巻いてましたな。そう簡単にいくとは思えませんがね。事務所にでも入れば別でしょうが。がっはっは」
「あら、ずいぶんお詳しいんですね」
「い、いえいえ。常識ですよこれくらい。何かのバラエティー番組で見ましてね」
Vtuberの事務所の話なんてテレビでやるかなあ?
たしかに、最近上場したVtuber事務所の時価総額がニュースになったことはあったけど。
そんなこんなでストレスフルな一日は続く。
今日は、面談日でもないのに、生徒の母親がくるらしい
教師の注意の仕方が気に入らないとかなんとか。
完全にモンペである。
いい加減にしてほしい。
ああいうのがいるから、教師の仕事が増えて、さらに生徒達の教育に手が回せなくなるのだ。
◇ ◆ ◇
「ただいまーっと。挨拶しても誰もいないんだけどね!」
真っ暗なワンルームにハイテンションな挨拶をするのは理由がある。
これから配信だというのに、仕事で疲れたボロボロな声を視聴者に聞かせられないからだ。
お風呂にはいってご飯を胃につめこみ、机の前に座ったら、人生で唯一のお楽しみのスタートである。
「みんなー聞こえてるー?! こんばんまじっく! スノーマウンテン4期生! 魔法界からやってきた魔法先生、メグ=ブライトマンです! 今日もよろしくね!」
『まってたー!』
『メグ先生おつー』
『こんばんまじっく!』
いつもの挨拶を待ってましたとばかりに、コメントが高速で流れていく。
今日の同時接続は1000人ちょっと。
業界三番手の事務所所属としては、ちょっと少ない。
まあうちの事務所は、二番手と大きく溝を開けられての三番なんだけど。
「ちょっとみんな聞いてよ! 今日学校で武闘魔法担当の先生がさあ! めっちゃ肩を触ってきたの! 胸をじろじろ見ながらね!」
学校でのグチを、身バレしない程度に脚色しつつ話す。
これが意外にも需要があるのだ。
イヤな教師について一緒にグチるのと、私と一緒にコメント欄で怒るのが楽しいようだ。
『またあの教師?』
『いまどきセクハラとか』
『学校が閉じた世界なのは、魔法界も同じかー』
『オレが触って上書きしてやんよ』
とまあこんな感じである。
どさくさに紛れてセクハラしてくるリスナーもいるが、いちいちかまっていたら企業Vなどやってられない。
私を肯定してくれる人だけ拾っていくよ!
「じゃあ今日は国民的RPG、ドラゴニッククエスト5の続きをやっていきたいと思いますよ」
Vtuberを始めるまで、ほとんどゲームをやってこなかった私にマネージャーがおすすめしてくれたのがこのゲームだった。
曰く、レトロゲームならメイン客層のおっさんを釣りやすい、複雑さもないので私でもやりやすいだろうとのことっだ。
プレイの指示したがるリスナーが沸いてウザいだろうけど、上手く処理してくれとも言っていた。
うちのマネちゃん、ぶっちゃけすぎである。
「前回は結婚相手を、幼馴染とぽっと出のお嬢様どちらを選ぶかってとこまでだったね」
『ぽっと出は草』
『SFC版はたしかに急だからなあ』
『言い方に悪意がw』
『これは幼馴染ルートか?』
何をしゃべるにしても、コメントを打ちたくなるような尖った単語を使う。
私が配信を始めて1年ちょっとで学んだことだ。
それはそうと、どちらと結婚するかはすでに決めてある。
というか、幼馴染と結婚なんてありえないから!
私の幼馴染なんていじめっ子だけだったからね!
気立てのいい幼馴染と結婚なんて、そんな幸せなんてあってたまるかっての!
だいたいこの幼馴染だって、ずっと一緒に旅をしてきたわけじゃないからね。
だったら性能で選ぶよ、性能で!
裏でどちらが強いかはしっかり調べてるからね。当然、配信中は知らないフリだけど。
だいたいこっち(中身の方)は結婚のけの字が出る気配もないのだ。
視聴者へのヒキのために前回の配信はここで切ったけど、こんな暗黒イベントはさっさと済ませて次に行こう。
同じ事務所にはリアルでの結婚を隠してアイドルVtuber活動をしているコもいる。
せっかくガワを被っているのだから、それを悪いとは言わない。
でも私はそんな二重生活をできるほど器用じゃない。
だから、Vtuberとしてのアバターもできるだけ私自身と被る部分を多くしてもらった。
私だって配信でちやほやされた上に、リアルも充実させたいよ!
生まれてこの方、リアルが充実したことなんて一度もないけどね!
ここまでお読み頂きありがとうございます。
続きもお楽しみに!
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