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朝の日差しが白いカーテンの隙間から漏れる。眩しさに目を擦りながら目を覚ました。
昨日は全て夢だったんじゃないか、と思いながら用意されたお姫様が使っていそうな天蓋付きベッドで眠った。
ふわっふわなベッドでぐっすりと眠れたが自分の置かれた状況が全く変わってないのに迷いが生じる。
このままご主人様と暮らしていくのか元の世界へは帰られるのか。
考え事をしていたら仮面をつけた昨日の使用人二人がノックをして部屋へ入って来た。
「おはようございますお嬢様。」
「お嬢様じゃ無いですよ。」
私は白いシーツをするりと滑らせ立ち上がる。借りた寝具ははシルク素材のようで肌触りが心地よい。
お嬢様と呼ばれるなんて思ってもいなかった。年齢も成人しているし、見た目だって年相応。考えて、この世界では私は若く見えるのだろうか。
「いえ、旦那様がお選びになられた尊き方。お嬢様でございます。」
使用人さん達は改めて名を名乗ると朝食前の準備として髪をとかしたり口を濯いだりと、私の世話を焼く。
まさか、人に促されて口を濯ぐことをこの年でやるとは。
恥ずかしい通り越して無になる。なるようになれだ。
案内され、朝食が始まる。
長いテーブルの上には美味しそうな果物や焼き立ての香りを放つパン、スープも湯気立っていて全て私が席に座る時間を計算した配膳だった。
「おはようカナデ。」
「おはようございます。ご主人様。」
ご主人様は仮面を外して良いか私に聞いてきた。何をそんなに気にするのか焦ったくもあったが、私を家族と言ってくれたのだ当然これからは仮面を取ってコミュニケーションを取りたいと伝える。
「カナデが良いなら。」
気恥ずかしいそうに仮面をテーブルに置くと、食事が始まった。
バターの香りが食欲を誘う。私はパンを小さく千切り口に運んだ。口いっぱいに美味しさが広がり勝手に笑みが溢れる。
「パンが好きなら沢山食べなさい。」
相当美味しそうに食べていたようでご主人様に他のパンを勧められる。有り難く頂くとまた違った甘いパン。生地が何層もありクロワッサンのようだった。
「ご主人様、私はこれからどうしたら良いのでしょうか。何か出来ることを与えて下さい。」
私はお嬢様扱いに正直困っている。何か仕事があれば自分の価値を感じられるはず、とご主人様に聞いてみる。
「カナデは仕事が欲しいのかい?」
そうだな、と少し考える様子を見せながら私の顔色を見る。
しばらくシーンとダイニングが静まり、
「俺の側にいてくれないか?」
思ってもなかった答えだった。
側に居るのが仕事とは言えないだろう。だけれど、今まで仮面をつけているのが普通の生活だった方だ。コミュニケーションのリハビリと考えたら良いのかもしれない。
「はい、お側におります。何か必要なことがあれば何でも仰って下さい。」
ニコッと笑うとご主人様は自分の口元を隠して赤くなった。両耳まで赤くした。これまでの反応から女性に慣れていないのだろう。そんなに反応されると、こちらも照れてしまう。
「カナデ、悪戯に心を乱さないでくれ。」