26
※改稿しました。
王国の教会が管理している禁区の森には神殿がある。そこは聖女しか足を踏み入れてはいけない場所であった。
だが、此度の事件で聖女は心に決めた事があった。
何があろうともカナデを神殿へ連れて行き潔の儀式を行い彼女の中の悲しみや苦しみを取り除く。
聖女ユウリは今まで異世界転移で浮かれていた気持ちも無くなり正しく聖女としての気概を持っていた。
昼頃、約束通り聖女はカナデを迎えにやって来た。
馬車での移動、見送りに来たアレンとは目を合わすこともなく隠れるよう用意された馬車に乗り込むカナデ。
「…では、いって来ますわ。」
聖女ユウリが会釈のみ済ますと馬車は走り出した。
ゆっくりしている時間は無い。
聖女は馬車の中で説明をした。
「夕方には教会の高位の方々が見回りに来られます。だからこの時間を逃すとまたいつ入り込めるかわかりません。行き先は、禁区の森〝水の神殿〟ですわ。」
「神殿…一体どうして?」
聖女はカナデの手を握り伝えたい気持ちが少しでも伝わるよう願いながら言う。
「貴女の魂は穢れておりません。けれど、貴女自身が赦せないだけ。神殿で潔たら貴女の心も落ち着きます。」
ですから、と力強く手を握り聖女は微笑んだ。
「貴女が苦しみ、眠れない、怯えた日々も今日で終わりです。水の神が全てを洗い流して下さいます。」
カナデは、うんうん、と頷きながら涙を流した。聖女がここまで自分の事を考えてくれていたこと、そして罪や穢れを洗い流せること。なんて心強いことか。
「ユウリさまっ…!」
号泣し、聖女の手に涙が散る。
聖女も同じく涙した。
禁区の森。鍵など無く封印の魔法がかけられている。それを聖女が片手を翳すだけで解かれるもの。聖女の魔力による封印だった。
「さぁ、足元に気をつけて行きますわよ。」
「はい、ユウリ様。」
道中、雨は降っていないはずの天気だったが森の中は雨にも似た水の加護で満たされていた。
ぽつり、ぽつり、肌を流れる水は癒しの効果があり、深呼吸をすると心が安らいだ。
カナデは天を眺めるように雨に似た加護を顔に受けた。
ホッとするような、撫でられているような、そんな感覚を覚える。
「ユウリ様、ここはとても気持ちの良いところですね。」
「えぇ、私も心からそう思います。神殿まであと少しですから頑張って下さい。」
聖女はカナデの体調を気にしながら前進して行く。聖水の雫である水の加護は聖女にとっていつものこと。
水の神殿は大きく全てが水で満たされていた。
祭壇の前も顔だけが出るような水位である。
聖女はユウリに服を脱ぐよう指示をした。
「ほ、本当に全部脱ぐんですか!?」
「えぇ、生まれたままの姿で、祭壇の前へ。そうして祈るのです。貴女が今一番大切にしたいものは何ですか?」
カナデは下着も取り去り、生まれたままの姿で祭壇に向かう。つま先から水へ入っていくと冷たいという感覚はなく、むしろ暖かく感じられた。身長のせいで顔付近まで聖なる水で満たされているが、カナデは構わず両手を組み願いを込めた。
愛している人。
どうか、幸せになって。
アレン様。
水の神殿は光を放ちカナデを受け入れた。
水の渦が発生してカナデを吸い込む。溺れてしまうかと思って焦るが不思議なことに水の中で呼吸ができた。
ぶくぶくと泡と水流の中、光で包まれる。鞭で散々打たれた全身の傷が次々と無くなっていった。
カナデは意識を失う。
聖女はそれを見越して祈りを繰り返す。
「彼の者に潔を!赦しを!そして水の加護を!!」
辺り一面光で覆われた。
いいね、ブックマーク、評価ありがとうございます!




